暮れない夕暮れ(未定)

ゴミ箱

第1章 遅咲きの桜

第1話 未定

とある少女の回想 開始



「うわぁ〜wこいつの隣とかマジで最悪なんですけどw」「あーいたんだ」「は?ウッザ」

「汚らしかったから水かけちゃったwごめんねぇw」「死んでくんないかな」「アイツいる意味なくね?」「マジで臭いんだけどw」「目障り」

罵詈雑言が聞こえる

バカや死ねなどの大量の悪口が書かれた机

ボロボロになった机

水を掛けられビチャビチャになった私




「皆んな、お前なんていない方がいいと思ってるよ」





回想終了





本編開始




ミーンミンミンミンミー

ミーンミンミンミンミー



夏特有の暑くジメジメした風と強い日差し、

ほかの季節では見られない濃い影。

青く透き通る空と高く伸びる白い入道雲。

日の少し暮れ始め。

少し小さな木で影になった、田舎によくある少し汚れた白いベンチに座る長い黒髪と短い白髪の二人の学生を、黄色とも金色ともいえる木漏れ日が照らしている。



「かーっ!やっっぱ、カリカリ君うんめぇ!」



「うぁ...キーンてきた...ちょっと量多いんだよなぁこれ...」

俯き、頭を押さえながら黒髪の少年は言った。



「そうか?俺はまだ全然食えるわ。

はぁ...うめぇ...」



白髪の学生が夏用の白い半袖シャツに汗を垂らしながら、火照って赤くなった顔を冷やすように青いアイスをシャクッシャクッっと音を立てながら食べ続ける。



ミーンミンミンミンミー



「はぁー...てか、暑すぎんだろ...

まだ六月中旬だぞ...」

汗で湿ったシャツの胸元を片手で持ちながら、パタパタと仰ぐ。



「まぁ...しゃーないよ異常気象だから

どうしようもない...」



「はぁーーはよ夏休みきてくれマジで...」



様々な夏の虫の声が鳴り響くなか

白髪の少年はアイスを齧りながら話を続ける。



「教室だと冷房効きすぎて寒いし

外に出たら出たでこれだよ。

気温差で死ぬわ。はぁ...」



「あれホント寒いよね...女子とか夏なのに

タオル膝に掛けてるし」



「あーそれな、俺も持ってこっかな?」



「うわぁ...キモ...無月が女子っぽくなってんのキモ...」



「...なかなかひどくないですか燈火さん...」



「...はぁ...もうやめようこの話。

ただでさえ暑いのにもっと暑くなってくる...」

と顔から垂れてきた汗を手で拭いながら言う。



無月のアイスが溶け始め青い水がアイス棒を伝い、指に掛かり始めていた。

「うわ...そうだな...俺もあとちょっとしかないか、うおおお!」



「なに?どうした?」



「あぁぁ!当たったぁー!!カリカリ君当たったぁあ!よっしゃあぁぁぁ!!」

ガバっと立ち上がり、濃い青色の空に掲げた手には「あたり」と書かれたアイスの棒があった。




・・・




ミーンミンミンミンミー

ミーンミンミンミンミー



右奥には濃い緑色の山が見える田舎道。

ろくに舗装されていない草の生い茂った土の道を二人並んで歩いていく。

両脇には水の張った田んぼが並び、周囲の風景と太陽の光を映している。

所々欠けた古びたコンクリートの用水路にはチョロチョロと音を立てながら水が流れ、キラキラと光を乱反射し輝いていた。



「いやーこういうので当たったのはじめてだわぁ。当たる当たる詐欺かと思ってた」

大きな入道雲が浮かぶ空に当たり棒を掲げた。



「カリカリ君、意外と当たらない?まあまあ確率高い気するけど」



「当たんないっていうかぁ...そもそもあんまり食ったことないんだよね。

こっちに転校する前の高校だとみんな

「子供が食べるものでしょw」

みたいな都会風出してて、食いづらい感じだったし...」



「...はぁ」



「あいつらマジで舐めてるだろ!

カリカリ君こそ原点にして頂点だろ!!」

ガッツポーズで当たり棒を握りしめ

蝉の声にも負けない声量で語った。



「...なんか熱量高くない?」



「めっっちゃ重要だろ!!俺ら高校生だぞ!

青春だぞ!青春って言ったらカリカリ君みたいなとこあるだろ!!」



「...いや知らないけど...」

顔から垂れてきた汗を腕で拭きながら答えた。



「はぁーこれだから最近の若者は...学生終わったら社会人だぞ?社会の歯車になるんだぞ?

つまり人間でいられるのは学生までなんだよ!」

目を見開き、汗ばんだ手で当たり棒を強く握りしめながら続ける。



「だから今のうちに青春を謳歌しとかないと!...ってことで明日一緒に学校サボろうぜ!」

無月は暑さのせいで少し猫背になった燈火の肩に、左手をかけて満面の笑みを近づけながら右手でグッドサインを作った。



「...え?ふつーに嫌だけど。

ていうか近いし暑いし...」

といいながら燈火は無月の手を払いのける。



「えーいいじゃないっすかぁ。

こんな暑いし学校も行きたくなくなるでしょ。

なんか青春っぽいし。いいね!」



「いや良くないよ...僕は却下。はぁ...」

日差しのせいか、無月の話のせいか

ため息をつきながら答えた。



「えーケチだなぁ」

無月は落ちていた小石見つけ

ドリブルをするようにカンと蹴り出し

話を続ける。



「はぁ...あ、そういやさ、学校サボるで思い出したんだけど、俺の隣の席の奴さぁ

誰なん?」



「隣の席?あぁ...」



頭の後ろで両手を組み

小石を見て蹴りながら続ける。

「俺こっちに転校してきたから一回も顔見たことねぇんだよね。えー名前なんだっけ?あー思い出せねぇー」



「咲倉って子だよ」



「はえぇー、下の名前は?」




「優香」




「...えぇ...下の名前も知ってんのか...」



「...まぁ、クラスメイトだし...」

と燈火は土の地面に目線をずらしながらそう言う。



「ふぅん...まっいいや。なんかあれか?

不登校ってやつだよな?」

カンカンと小石を蹴りながら歩き続ける。



「うん...そう...1年のときに酷いイジメにあっちゃって...それから学校に来てないんだよ...」

蝉の音に打ち消されてしまいそうな声で、話す。



「あーそういうこと。前の学校にもいたなぁーそんな奴」





燈火は足を止めた...

「その子、どうなったの?」





ミーンミンミンミンミー


と蝉の声が響きジメっとした風吹く





無月も足を止めたせいで、蹴り続けていた小石の軌道がずれ、用水路にポチャッと小さな水飛沫を上げながら落ちてしまった。



「おぉ...なんか、たまーに保健室で勉強してたらしいけど、俺転校しちゃったからよーわからんなぁ...」




「...そうか...そうだよね...」




「...」




「...」




用水路の水がチョロチョロと流れている。



「...ま、はよコンビニ行こうや。カリカリ君食いたいし」




「...そうだね...」




「...」




「...」




二人は再び歩き出す。




ミーンミンミンミンミー ミーンミンミンミンミー

蝉は泣き続けていた。







-場面転換-







騒々しい蝉の声から鈴虫の声への変わり始め。

日も落ちてきて空も夕方らしく青から黄色に移って来ている頃。

汗だくでハァハァと肩で息をした二人は、コンビニ前の交差点にいた。



「コンビニ...、コンビニ遠ぉすぎだろぁがぁぁ!どぉんだけ歩いたと思ってんだ!!」

周囲を気にしてないような、とんでもない声量で無月は叫んだ。



「はぁ...まぁまぁ...ここら辺はこのコンビニ

一軒しかないから...」

汗を垂らしながら燈火は言う。



あたり棒を持った汗ばんだ手を握りしめ

また叫んだ。

「いっっも思ってるけどよぉ田舎のコンビニ、ヤバ過ぎだろ!コンビニだろ!?もっとコンビニエンスしろよ!!

都会にいた頃は5分くらいで家から着いたぞ!

なんで20分近くも歩かなきゃいけないんだよ!!汗ダラダラだわ!!」



「まぁまぁ。あっつ...」



「はぁー...ったく、まーいっかぁ!なんてったて今日は!人生初のカリカリ君が当たった日だ!気持ち切り替えていくぞ!燈火!」

とイキイキとした表情で言う。



「おぉ...そんなうれしいの?カリカリ君...」



「あっったりまえだ!青春だぞ青春!

いくぜぇ!アッタリアッタリアッタアッタリ♪」

無月は信号が青に変わったことを知らせる音が鳴り響く横断歩道を渡っていく。



「アッタリアッタリアッタアッタリ♪アッタリアッタリアッタアッタ、み!!

べぶぐゃ!!!!」

突如!横から超高速で走る自転車が

無月を襲う!!

自転車に衝突された無月の体は

空中に打ち上げられ、回転しながら綺麗な放物線を描いている!



「ふわぁぁーん!!」

無月の情けない声が空に響く...



「むつきぃぃいー!!」

と燈火の叫ぶ声も響く。



空を飛行中の無月は思う。



はい、これ死ぬやつです。確実に死にました。

もーなんか周りがスローに見えるもん。

これ死ぬ前に見るやつじゃん。

はい、終わりです。涙出でてきちゃうわ...



回転する体から水飛沫のように涙が飛び、

太陽の光を乱反射しキラキラと輝いていた。



あーもーほら、

なんか三途の川みたいのが見えてきたもん。

しかも、おぼろげにバーチャン見えるし。

俺の名前も呼んでるし。

はぁ...俺もそっち側に行くんかぁ...

短い人生だったなぁ...ん?

なんかバーチャン、三途の川クロールしてね?



ドバシャン!!と水が弾けるような音が聞こえ、謎の走馬灯が消えた。



無月の体は水の張った田んぼに背中から落ち、お尻を空に向けるような体勢になっていた。



「無月!大丈夫か!?」

燈火の声が聞こえてきた。



あー空がきれいだ。俺のケツも見えるけど。

蝉の音も聞こえるわ。ってことは俺生きてる。生きてんのか...

...てか、よくよく考えたらバーチャンまだピンピンに生きてたわ。

この前もバーチャンに怒られたなぁ...

あーなんか冷静になってきたらイライラしてきわ。誰だよぶつかってきた奴。

ぜってーチンピラだわ。100%チンピラだわ!

法律守んねーチンピラだわ!!

イライラする!!よくもぶつかって来てくれたな!!

気分よくカリカリ君も貰いに行こうとしてたのによぉ!最悪の気分だわ!あー!もー!!このぉ...!!


「こぉぉのぉぉ!!チンピラがぁぁぁあ”!!!!」



上半身をバネにして人間とは思えないほど空高く飛び上がり、足から歩道にバタッと降り立った。


「てぇめぇえ!!ぜってぇ許さねぇぞ!!売られた喧嘩はぁ...!高額買取じゃぁぁあ!!!」



っと激昂する無月の目の前には

駆け寄ってきた燈火の姿と

小柄で長髪にウェーブが掛かっている

同級生くらいの女子の土下座姿があった。

着てるものはパジャマの様な部屋着なのに

ローファーを履いていた。


「ご、ご、ごめんなさい!なんでもします!誠にごめんなさい!」



「え?あ、あれ?なに?チンピラは?俺にぶつかってきたチンピラは?」



「あのぁ...ぶつかってきたのはこの子で...」

燈火は土下座をした少女を指さしていた。



「え?マジ?あ、えぇっと...」



「本当に申し訳ありません!なんでもします!靴でも舐めますので!どうか...!

どうか裁判だけは..!」

物凄い勢いで謝ってくる土下座の少女。



「あぁ...、えっと大丈夫です...一応生きてますんで...」



「誠にごめんなさい!ごめんなさぁい!」



「えぇ...」



...なんか流石に土下座少女の勢いが凄すぎて

冷静になってきちゃった...



無月が燈火に近づいて小さな声で耳打ちする。

「...ぶつかった俺が言うのもなんですけども

なんかこの子ヤバくないですか?...」



「...」



「...?燈火さん?」



「...この子だよ...」



「え?なにが?」



「...この子が咲倉さんだよ...」



「えぇ!?この子!?えぇ!?」



土下座少女...ではなく、咲倉がガバっと

勢いよく顔を上げ無月を見た瞬間。


「き、きゃぁぁあ!!服が!服がぁあ!!」



無月は自分の服ををパッと見ると

田んぼに落ちたせいでシャツが泥だらけになっていた。



「え?服?いや、後で洗いますんでだいjへぶわし!!」



言葉が届いていないのか、咲倉は無月をバンザイするような体勢させ、目を瞑りながら上半身全ての衣類を物凄い勢いで上に引き抜いた。



無月と同じようにバンザイのような体勢を取った咲倉の両手には、無月のシャツと下着が握られおり、宙を舞うかの様になった服は風に煽られバサバサと靡いていた。



「洗ってかえしまぁぁす!」

と言い放ち、無月をぶつけた自転車に乗り込み、ぶつけた時よりも速い速度で帰って行ってしまった。




「...」




「...」




呆然と立ち尽くす燈火と上半身裸の無月。





ミーンミンミンミンミーと蝉の声が聞こえる。





夏の日差しが熱い。





「...あの...シャツだけ貸して貰えたりしますか...?」





「...いいよ...」

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