元魔王、魔法少女になる。
蒼穹月
元魔王、魔法少女になる。
我は敗れた。
それは受け入れた。
死した故に生まれ変わる事も、その生まれ変わり先が女人であった事もまあ、敗れたのは我だ。受け入れた。
それでも受け入れ難いものと言うのは存在した。
「は?」
現状にポカンと口を開けて疑問符が口を付く。
時は朝。
学生である我は指定の制服に身を包み、登校の最中であった。
「君こそ輝けるキラ星⭐︎共に未来の平和を守る選ばれし戦士っくるっぽ!」
は?くるぽ?
いや。そこはどうでも良い。
それより問題なのがある。
白昼堂々、と言うか朝の通勤通学ラッシュの中、空から飛んでやって来た此奴。最近廃れてきたのではと思うゆるキャラちっくな此奴。
真白な、フワモコな出で立ち。キュルンと煌めくつぶらな瞳。大きな耳に丸みのある尻尾。身の丈は我の部屋に眠る親より授けられしぬいぐるみ程の此奴。
明らかにおかしい。
存在そのものがおかしい。
何故なら此処は地球。
我が前世と違い、魔法も魔族も精霊も天使も全てが架空の彼方にしかない世界。
そこに現れた明らかに普通ではあり得ないゆるキャラ。しかも浮遊している。
それが我を差して言うのだ。
「ボクと一緒に地球の未来を守るくるっぽ!」
ウサギのゆるキャラぬいぐるみが、語尾にハトを付けて。
「さあ!魔法少女に変身するくるっぽ⭐︎」
そうのたまう。
我の思考は一瞬宇宙に飛び、前世に帰る錯覚に陥る。
しかしそのままではのまれてしまうだろう。
瞬時に悟った我は手を挙げる。
「人違いです」
そして颯爽とその場を立ち去る。
早めに出てはいるが足止めを喰らえば遅刻する。我は皆勤賞を狙っているのだ。
しかしゆるキャラも一枚上手だった。
横を通り過ぎた我の肩をガッシと鷲掴む。いや、力強いなゆるキャラ!?
「間違えて無いくるっぽ。君がボクの魔法少女くるっぽ」
このゆるキャラぐいぐい来るな!?
それでも気付かない振りで進もうとするが、どういう法則か重石を乗せたように進まない。
「君からは無限に広がる魔力を感じるくるっぽ⭐︎これは悪の組織、ワルインジャーを討ち倒す運命の力に違いないっくるっぽ⭐︎」
いやいや違う違う。我の力は前世由来だし、今世では魔法が存在しない故に肉体的封印がされてて使えないから。
あと、何その今日び子供向け番組でも使わない組織のネーミング。本当にやる気あるの?その悪の組織。
突っ込み所は多々あれど、これ以上反応を返せば付け上がるだろう。詐欺電話や詐欺メールは相手をしないのが正解だ。反応が無ければ次へ標的を移すものである。
「さあ⭐︎一緒に唱えるくるっぽ⭐︎」
無視無視。
我は進む。この程度の重石、前世での奴の一撃に比べれば軽石も同然よ。これしきの事で我が皆勤賞をみすみす逃す事は無い。
肩に手を置くゆるキャラが何やら激しく動いている。大きなウサ耳が時折我の頭を強かに打ち付けていても我は気にせず進む。
……朝のセットが乱れるのは業腹だが……。
「トゥインクル⭐︎ハート⭐︎マジカル⭐︎パワー⭐︎セットアップ!」
そこはメイクアップじゃ無いんだな!?
最後だけシステムチックな謎詠唱に、しかし我は気にせず前へ進む。先程から周囲の好奇と同情の目が痛いが進む。
「あれ?どうしたくるぽ?唱えるくるっぽ⭐︎さあもう一度一緒に⭐︎」
めげないな!?此奴!
ウサ耳でバシバシ我の頭を叩く此奴についうっかり滅びの魔法を放ちたくなる。だが今は使えない。心底悔やまれる。
「トゥインクル⭐︎ハート⭐︎マジカル⭐︎パワー⭐︎セットアップ!」
繰り返すゆるキャラをそれでも無視して我は進む。よし、校門が見えて来た。あそこまで着けばあとは教師が助けてくれるだろう。
打算を経て我はより足に力を入れて進む。
「あれあれー?どうしたくるぽ?唱えるくるっぽ⭐︎さあもう一度一緒に⭐︎」
お前はどこぞのゲームの村人か!?何故繰り返す!?何故諦めない!?ハイかイエスしか選択肢が無いのか!?
だがもう校門に着いた。この勝負は我の勝ちだ。
我が負けを認めるのは前世で我を撃ち倒した彼奴だけで十分なのだ。
「大丈夫くるっぽ⭐︎難しい様だから初回特典でボクの動きをトレースしてあげるくるっぽ!」
「は?」
先生に助けを求めて伸ばした手は、しかし次の瞬間不自然に動いた。
「トゥインクル⭐︎」
「と、トゥインクル⭐︎」
閉ざそうとしても動く口。
それに合わせて動く手。
「ハート⭐︎」
「ぐ、く、は、ハート⭐︎」
手だけでは無い。体全てが支配されている。
絶対にシラフどころか酒に酔っていたとしてもやらない。絶対にやりたく無い動き。
日曜朝に女児がキャーキャー言いながら真似する様なその動きに、我の顔面は蒼白であろう。
「マジカル⭐︎」
「マジ、カル⭐︎」
ああ。気付いた先生が助けてくれようとしていた手を止めている。
わかる。我とて第三者だったら首を突っ込みたく無い。
特に男なら。
「パワー⭐︎」
「パワー⭐︎」
絶望が我の抵抗力を低下させる。
「セットアップ!」
「セットアップ!」
最後の詠唱と共に決めポーズが、決まる。決まってしまった。
瞬間。眩い光に包まれる。
光は我を包み、我の身包みを全て剥がした。
おいコラ制服高いんだが?元に戻せるんだろうな!?当然!?
幸いと言って良いのか、光がそうさせるのか、我の肢体はシルエットしかわからない。
いや全然幸いじゃ無いな!?一応スポーツしてるから肉体美には気を使ってるけど、肉体的コンプレックスあったら瀕死必須なんだが!?
ていうか今我痴女だな!?
シルエットの中で何故か新たに構築されたレオタードの様な服だけクッキリ見えている。
クルクルエフェクト発して回りながら構築されていく新たな衣装。
フリルがなびくピンクの超ミニスカート。
ギリギリ攻めるにも程がある!これだから女児向けは!
やっぱりフリルがなびく半袖タイプの上着。因みに後ろには大きなピンクのリボンが可愛らしさを演出しています。
いやせんでいいわ!
足はロングブーツでヒールは高め。
戦い前提でヒールって舐めとんのか!
手には真っ白な手袋。やっぱりフリル。せめてナックル付けてくれ。
そこからの何故かゆらめく髪。
ゆるキャラに乱された我のベリーショートボブが、法則を無視してどこまでも髪が伸びる。最終的に膝丈まで伸びてクルンとポニーテールをリボンで纏める。毛先はクルンとなっている。因みに色はピンクに染まった。
ワレハゲナラナイ?トシトッテツルンツルンニナラナイ?
急激に増えた毛髪に我の将来(の頭髪)が心配だ。
最後に唇に紅が乗って変身は終わった。
収束していく光。
最終ポーズを取って現れる我。
「魔法少女ピンクキュアー⭐︎悪い子はお仕置きだよ⭐︎」
そして血反吐を吐きながら紡がれる決め台詞。
それでトレースとやらは終わったのだろう。
直後我は頽れた。
屈辱!
血の涙も出す我に、止めてくれなかった先生がオロオロしながらやって来た。そしてポンと肩に手を置く。
「元気出せ」
視線を逸らした同情100%で言ってくる先生。
たまたま居合わせたクラスメイトがやっぱり来て退いた先生の代わりにポンと肩を叩く。
「ええっと、ヨカッタよ?」
心にもない事を言って行く。
次々と慰めの言葉をくれるが、我の気は済まない。
自由を取り戻した体でやる事は勿論決まっている。
「ふざけんなゴラぁ!」
取り敢えずゆるキャラをぶん殴って星の彼方に飛ばした。
キランと星になるゆるキャラ。
「良いパンチくるっぽが、殴る相手が違うくるっぽよ?」
と思ったのに次の瞬間真横に居た。
ゾッとした。
何それ普通に怖い。
え?何この不思議生物。
我も前世ではヤンチャしてたけど、このゆるキャラを前にするととてもまともだったと思えてくる。
拝啓。前世で我を倒した勇者。
オネガイ。謝るからタスケテ。
我は前世ではブイブイ言わせていた魔王だった。
それが勇者に敗れ。
女子高生になり。
魔法少女(強制)になりました。
悪い事をすると自分に悪い事が帰ると学んだ今日この頃でした。
元魔王、魔法少女になる。 蒼穹月 @sorazuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます