終章 オマケ 昭和テニスマンの夏休み。水着美女が四人登場!

* 終章 オマケ 夏休み(八月三〇日)


一 僕と杏佳は、東京サマーランドのロイヤルデッキ席に座っている。

 屋外だけど屋根が付いてるから日焼けしなくていいな。目の前に五〇mプールがあって、その向こうにウォータースライダーが見える。真司と澄ちゃんも一緒だ。


 澄ちゃんは、インターハイ決勝を八―三で制し、今年の高校女王に輝いた。久しぶりに日本から登場した女子の大型選手として期待されている。が、本人はいたっておっとりしていて、インハイ後は宣言通り合宿免許を取りに行き、先週からは平和の森の練習にも参加するようになった。四人いると、ラリーも対角線でできるし、ダブルスもできて、練習が格段に充実した。ありがたい。車で真司の送り迎えもしてくれている。


 今日は、一旦、真司宅に車で集合して、杏佳のアウディでサマーランドまでドライブした。澄ちゃんと真司は、クーペの後部シートに押し込められ、狭いだの苦しいだの散々文句を言っていたが、それなりに楽しそうだった。さらに、府中からは、昇さんのおんぼろクラウンで、尚さんと、その友達の剛さんと香津美さん(作者注 ボディメイク編のキャラ。K高ボディビル部の元部員)も合流した。

 ロイヤルデッキは一三〇〇〇円もするので、四人席だけ借りて、遊ぶ人と休む人が入れ替わりで使うことにした。今は、僕と杏佳、そして真司と澄ちゃんが休んでいる。


二 杏佳の水着は、ラメが入った艶出しの黒い小さなビキニだった。白い肌にすごく映えてとっても綺麗だ。色っぽい。澄ちゃんは、白地に赤と青の花柄のワンピースの水着で、長身とスタイルの良さが際立って、こちらも見とれちゃうくらい素敵だ。ハイレグ仕様で、まるでモデルさんだね。が、本人は、「杏佳さん綺麗ー。全身真っ白。羨ましいー。私、この土方焼けほんとに嫌ですー。はやく色抜けろー」って嘆いていた。はは、インハイ女王なんだから、そのくらい仕方ないだろ。そのうち抜けるって。 


 それから初めて見たんだけど、香津美さんもすごかった。「去年ベストボディのコンテストで着てたの」っていう、殆どマスクくらいしかない黒ビキニの上下を着てた。サイドなんて細い紐だもんな。「ほぼ全裸」って感じ。色白黒髪で、綺麗な一重瞼の日本風美人だ。背丈は杏佳くらいで小柄なんだけど、なんといっても、この、きょ、きょ‥‥‥いやとても言えません、メロン二つ並べたくらいの豊かな胸が魅力的。手足は割と太いんだけど、きちんと鍛えられてて、なんか「ゴムまり娘」って感じ。いけないと思いつつも胸の谷間に目が行ってしまい、ドキドキしてたら、案の定、お尻がギュイっとつねられて、「いてて、杏佳さん、すみませんです。以後気を付けます‥‥‥」という展開になった。


 しかし、本日の主役は、何と言ってもこの二人だ。

 昇さんと尚さんは、「ドンキで三〇〇〇円だったよ」って言って、パチンコ海物語のサム&マリンちゃんのコスプレで登場してきた。てか、昇さん、ターザン風の腰巻して、髪を緑にしたら、あなたもう完全にサムですよ。その肉体、本当にすごいですね。さすがこないだ最年少でミスター東京獲った男。

 そして、オレンジのビキニ着て金髪ポニテにした尚さん、あなたは、もはや本家マリンちゃんを明らかに超えてますよ‥‥‥。肩も胸もお尻も、圧倒的に勝ってます。さすが去年のベストボディのオーバーオール女王。美ボディ日本一だもんな。ちなみに澄ちゃんは、身長同じくらいなんだけど、「いやはや、これはもう、私、隣に立つことを忌避させて頂きます」と、瞬時に白旗を掲げ、真司の後ろに隠れてタジタジしていた。はは、スノーホワイトじゃ、相手が悪かったね。

 

 昇さんと尚さんは、サマーランド内でも大変に目立ってて、あちこちから、

「おお! マリンちゃんとサムだ! これは本物だ!」

「お父さん、こっちこっち! マリンちゃんとサムがいるよ! 好きなんでしょ?」とか声が掛かって、写真撮影に応じていたので、なかなか遊ぶことが出来ずに気の毒だった。人気者は大変だな。


三 「それじゃ、澄ちゃんとウォータースライダー行ってくるわ。何周かしてくる」「お二人はゆっくりしてて下さいね」と言い残して、真司と澄ちゃんが遊びに出て行った。


 僕は、「いやー、のんびりしていいな。高校入学以来テニスばっかりだったから、なんか新鮮だ」と言いながら飲み物を一口飲んだ。お酒は二〇歳からなので、ブルーハワイじゃなくて、紙コップのウーロン茶なのが様にならないけど。

「うん、たまにはこういうのもいいわよね。夏休みの最後にいい思い出が出来たじゃない」

「そうだな。‥‥‥あ、そういえば、小武海もやっぱり優勝したんだな」

「うん。高校通算七二連勝無敗だって。裕と対戦したあとの四試合で五ゲームしか落とさなかったよ。一回戦も零封だったから、五試合で五ゲームなのか。あんた一人でそれ以上取ったのね」

「あはは、そうか。惜しかったんだな」

「そうよ。Youtubeで小武海戦の動画が出回ってたわよ。『昭和テニスマン降臨! ウッドで令和最強小武海を追い詰める!』とかタイトルついてた。昨日で視聴一〇万回超えてたわよ」

「へー、そうなのか」

「うん。コメント欄も、『ゲッ、あれカーボネックスじゃんか。どこで売ってんだ?誰か教えてくれ』とか『これ、まともなラケット使ったら奈良の方が強いんじゃないか?』とか『小生、還暦のテニス選手です。拝見して感動致しました。奈良選手これからも応援しております』とか、バラエティに富んでたわね」

「ははは、カーボネックスは最後の二ゲームだけだったのにな。一人歩きしてるんだな」


「それで、テニスはどうすることにしたの?」

「うん。当面は全力で続けてみようと思う。二~三週間離れてるとやっぱりテニスしたくなるし、やれば楽しいし、ヒリヒリした競技の緊張感も忘れられないしな。もちろん小武海とまた対戦したいし、一緒に練習もしてみたい」

「そう。裕がそう思うなら、納得するまで続けてみるといいんだ。米山さんも、小武海君と裕をヨネックスに呼んでプロと練習させたいって言ってたわよ。続ける気があればサポートしたいって」

「そうか。それはありがたいな。是非お願いしよう。あとブイコアも二本おねだりしよう」

「うん。今度挨拶に行こうね。私もくっついて行くわよ」

「お、よろしくな。だけど、俺のベースは、あくまで平和の森で、お前と真司、それから澄ちゃんなんだからな。それをなくしてまでテニスを続けようとは思わない。やっぱり楽しくないと続かないからな」

 

 僕がそう言ったら、杏佳が、「ふふーん。嬉しいこと言ってくれるじゃないの」って満面の笑みを浮かべて、テーブルの向こうからこっちに回って来て、隣に座るのかと思いきや、僕の膝の上にポンと乗ってきた。僕はお姫様抱っこで杏佳を受け止めたが、おお、ラメ入り黒ビキニに包まれた白い谷間が目の前に! コ、コケティッシュ!


「ちょ、お前、急にそんなことすると、元気になっちゃうだろ。ほら、ムクムクと」

「‥‥‥あら、ほんとだ。ふふ、じゃ、今日帰りにちゃんと収めてあげるわよ。夏休み最後のデザートね」

 僕は、「おお、それは魅力的な提案。是非お願い致します」って言いながら、とりあえずこの場は元気を収めようと、プールサイドに目をやると、あれ? サムとマリンちゃんがいるぞ。

 マリンちゃんはプールサイドに腰かけて、ひざ下でパチャパチャやってる。その右から、サムがかっこよくドボーンと飛び込んだ。五〇メートル自由形か? いいとこ見せたいんだな。サムは飛び込んだあと潜水して、浮き上がって‥‥‥来ない。沈んだままだ。筋肉だらけで重くて泳げないんだ。マリンちゃんも、頭から「!」ってマーク出して、両手で口覆って覗き込んでる。まだ浮いて来ないので、ついにドボンとプールに入り、救出に向かった。サムを助け起こしたら、「ゲホゲホ。ひどい目にあった」「まったく、あんた筋肉ばっかりで水泳に向いてないのよ。もうあがって休も」とか言って、顔の水はらってあげてる。

 僕が杏佳を抱っこしたまま、「あはは。いまの見た? 筋肉は鑑賞以外の用途が限られるんだな」って言ったら、杏佳も、「おっかしー。でも、何もなくてよかったわ。あの二人、仲がいいわねー」って笑ってた。


 そしたら、あれ? 「杏佳、見てみろ。ウォータースライダーのとこ」って僕が促して杏佳が目を凝らすと、スライダーから真司がドボーンって落ちてきて、しばらく待ってたと思ったら、遅れて澄ちゃんがザバーッと到着。真司が助け起こして、澄ちゃんが「わーん、怖かったですー」みたいなこと言ってるようだ。だけど、どうやら、「もういっぺん行こう」みたいなことになったらしく、また二人で階段を昇り始めたんだけど、あれー? ギュって、手をしっかり繋いでるぞ。いつの間に?


「今の見たか?」って杏佳に聞くと、

「見た。急接近してたんだ。目論見通りだわ、ふふふ。まあ、でもお似合いよね」

「そうだな。それぞれ充実した夏休みになったんだな」って笑い合った。


 そうしているうちに、サムとマリンちゃんが、「あれー? なんか裕が風紀を乱してるぞ。なにやってんだ?」って言いながら上がってきた。 

「ははは、杏佳が乗っかって来たんですよ。昇さんもさっきかっこ悪かったですよ」

「ゲッ、見てたのか」

「はい、杏佳と笑ってました。さ、じゃ、僕らもひと泳ぎしてきます。杏佳行こうか」

「うん。昇さん、尚さん、またあとで」と言い残して、二人で手を繋いで席を立った。

 

 さて、明後日から二学期。また忙しい毎日が始まるぞ。学校にテニスにバイトに車の免許。半年後からは大学生活だ。激動だな。この先どんなことが起こるか分からないけれど、杏佳のこの手だけはしっかり掴まえておこう。と思って杏佳をチラっと見る。

「何?」

「あ、いや、なんでもない。ホントに楽しい夏休みだったな」

 

 そう言って、僕が杏佳の手を引いて、ウォータースライダーに向かうと、遠くで真司と澄ちゃんが手を繋いで、「おーい!」って、こちらに手を振っていた。

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