ファートルド事変:2 光に訪れし幻影

~オーバーローズ城~


俺は、夜の月の光を受けながら、椅子に座り、頬杖をつく。


………暇だ。

何か面白い物は無いかな?

あ!そうだ。最近シルフィードと会話してなかったな。

おーいシルフィード~!

……………。

…………………。

………………………。


あら?何も返事がない。

どういうことだ? 


おーい。

シルフィード~!


その時、扉が空いた。


「お呼びですか?マスター」


聞き覚えのある声の方を向くと、そこには久しく見る、シルフィードの姿があった。


俺は、一瞬思考が停止した。

え?なんで?俺依り代渡した覚えなんて…。


「はい!私が自ら飛行艇疾風を人型に改造しました!」


「………はああぁぁぁああ!?」


俺は叫んだ。


いや、可笑しいだろ……。

いやいや、可笑しいだろ…。

いやいやいやいや、可笑しいだろ!


「か、改造したって、元に戻せるのか?」


「はい。可能です」


「て、て言うか、どうやってやったんだ?」


「魔力水の仕組みの応用です」


「いや分からんって…」


「まぁ、人型になってもマスターの事は念話でどうにかなりますし、マスターの影に潜む事が出来ます」


「影に潜む?どんなスキルだ?」


「コモンスキル。「影潜み」で、指定した影に待機する事が出来ます。否、これは移動出来ませんので」


「ふぅん。つまりピンチになったら来てくれるって事?」


「……………」


「おい何で黙るんだよ」


「取りあえず、そういうことなので。良いですよね?」


「ま、まあ良いが…。普通に切り札的な物にはなるしね」


俺は、立ち上がり、三段の階段を降りる。

そして、シルフィードと背中を合わせる。


………これ、なんか格好いい……!

そう思っている内に、シルフィードは影に溶けた。


………でもこれ、シルフィード絶対どっか行くよな。


《聞こえてますよ?》


……ごめんごめん。


《一回で結構です》


…ごめん。


面倒くせぇ奴。


最後の言葉は、運良く聞こえてなかったらしい。


そして俺は、シルフィード(人型)を改めて仲間にし、ナスカラディアへ向かった。


そして、まだこの時の俺は気づかなかった。

この茶番の後、大戦争へ繋がる引き金が引かれるとは…。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


夜の森に駆ける九つの闇。

向かうは光の都、首都ナスカラディア。


そして、闇は各場所に分かれる。

ナスカラディア北門へバードル、ブラック三名。

西門ブラック二名。

東門二名。

南門二名。

それぞれが空中からとある物を投げ込む。


そして………。


咆吼のような爆破音が人々の耳に入る。


至る所から悲鳴が聞こえる。

その中、リアナは住民の避難を急がせていた。


「皆様!早く此方にっ!」


炎が大きく燃えたぎる中人々が走り逃げる。

その中に一人、逃げない黒ずくめの男がいた。


「おいそこの君!早く逃げないか!?」


「え?あぁ、大丈夫ですよ」


「何を言っているんだ!早く逃げないと君も…」


すると男は指を鳴らす。

その瞬間、黒き水が渦を巻きながら現れる。

するとみるみる炎が消えてゆく。


その光景にリアナは言葉を失った。


「す、凄いね君…!水を操るスキルかな?」


「まぁ、そんなところ……」


その時だった。

男の胸にナイフが刺さる。

それと同時に前に倒れる。


「っ………!君!」


リアナは男を抱え込む。

その時…。


闇の足が目の前に現れた。


リアナはその闇の方を向く。


「っ………!お前は…」


「…白竜騎士団団長…。今すぐ此処から出て行け。すれば手荒な真似はしない」


バードルはリアナを睨みつける。


「っ……!……ここは光の都、首都ナスカラディア、約1330平方キロメートルある大都市、此処を守るのが私達の役目……」


リアナはハリボテの剣を鞘から抜く。


「例えそれが…幻影のバードルだったとしてもっ…!」


リアナは剣を大きく振りかぶる。

だが、一閃。バードルは瞬間移動したかのようにリアナの背後をとる。それと同時に首をトンッと叩く。


リアナは、前に倒れ込んだ。


「白竜騎士団…墜ちたな。四代目の方がまだ手応えがあったぞ…」


「………おとう……さま……」


リアナはその言葉を残し、気を失った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


日の光が眩しく思える。

そして、何処からか声が聞こえてくる。


「………ま」


(うるさい…)


「………さま…」


リアナには、ただの雑音だとしか思うことが出来なかった。

だが、その雑音は、徐々に大きくなっていく。


「団長様…!」


「っ……!」


リアナは目を見開き、起き上がる。


「ここは…」


辺りを見渡すと、深淵狂気の森の前に、行列のように平行に並んだ人混みが見える。


そう、ナスカラディアの住民だ。


その人達は、とある方向を向いている。


「……アレは…」


リアナは、同じ方向を向く。


目の前には荒れ果てたナスカラディア。

そして、歪な形をした見覚えのない城が、ナスカラディア中心に建っている。


「うわぁ~ん!お父さん!」


子供の声が聞こえる方へ向くと、母親へ抱きついて大粒の涙を流している。


そして、リアナはある事に気づく。



若い男が一人も居ないのだ。



白竜騎士団の団員も、女性の団員か高齢の団員だけ。


「団長様…」


聞き覚えのある声へ頭を向けると、高齢でありながらも十年間副団長を務めている、「フッテ・ブレウン」


「フッテ、この状況は…」


「若者の男は、ブラックと名乗る者達に連れ去られ、女性と子供、老人は追い出されました…さらに水晶も取り上げられ、他の騎士団へ連絡することも出来ず、深淵狂気の森前で、焼き焦げたナスカラディアの侵略を眺めることしか………」


「…………………」


リアナは下を向き、拳を握りしめ、涙を流す。


その時だった。


「聞け!」


大声が聞こえるが、リアナは下を向いたまま。

他の民達はざわめきながらも声の方向へ向く。


「光の都ナスカラディアは、これより我々の手によって新たなる国へ変貌する」


その時、リアナはブラックの方向を向く。


「新たなる幻影の国、幻影の深国ファートルドである!」


もう一度、人々がざわめく中…。


「……嫌だ!お父さんを返して!」


母親の手を振り払い、ブラックの方向へ歩く子供。


「あっ!…こらっ!」


母親が子供の手をもう一度握る。


「お父さんを返して!早く返せっ!」


ジタバタと暴れる子供。

次の瞬間、ブラックは声を荒げる。


「クソガキッ!黙れぇッ!!」


子供は動きを止める。

その事を確認した後、ブラックは説明を再開する。


「一つ条件がある。有り金を全てよこし、ファートルドの住民として認めるのならば、入国を認め、家をくれてやろう」


再びざわめく。


「有り金だけで良いのなら…」


「安いですよねぇ…」


すると、次々にブラックへ金を渡し、ファートルドへ向かう。


「ちょ、ちょっと待って!こんなの裏があるに決まってるっ!早く!皆様早く引き返……」


その時、フッテがリアナの肩に手を置き、首をゆっくりと振る。


そして、金を渡し、フッテまでもファートルドへ向かう。


「…嘘…まってフッテッ!」


だが、リアナはもう、フッテには声がもう届かないのだと…。


そして、自分だけが、このナスカラディアを救えるのだと…。

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