異世界漁業日記 〜異世界に転生したので前世でできなかった漁業します〜

スピの酢

始まりの森と海

第1話 異世界への転生

初めに感じたのは宇宙にいるかと錯覚するほど無力感。


全てから開放されたかのような…何も出来ないようにされたかのような…


そんな曖昧な感覚の中で誰かの視線を知覚する。


無力感に飲まれそうな意識を少しづつ起こすが、


睡魔が襲ってきたかのようにまぶたが重い。


睡魔と戦うように気力を尽くして少しだけ瞼を開ける。


視界からちょっとだけ見える光景は神秘そのものだった。


雄大で美しく、神々しい景色に無力感の中でも感動を覚える。


突然その視界は誰かによって遮られた。


視界は真っ暗ではなく真っ白で眩しく光を放っている。


その光で目が醒め、意識がハッキリする。


目を擦りつつ眼の前の視界を遮った人ではない"なにか"を確認した。


"なにか"は神々しく光り輝いており、その姿は羽衣を纏っていて、頭には輪っかが浮かんでいる。


「…あな…たは…だ…れ…?」


意識がはっきりするも口が震えてうまく喋れない。


途切れ途切れになりつつも目の前の"なにか"に何者かと尋ねる。


「私は神である。」


静かに宣告したのは自分が神だと言うことだった。


到底信じればしないがこのときの私はすんなりと信じれてしまう。


この神秘的な空間で神々しい光を放ち、頭に輪っかを浮かばせる存在…


神以外に何がいると言うのか。


でもこんな摩訶不思議な状況で一つだけ確かな事実がある。


…とても信じたくはない事実だ。


「私…はしん…だの…?」


神は静かに…そして冷徹に宣告する。


「そうだ…お前は死んだ。だからここにいる」


やっぱり…か。


私…"紅羽海"は日本で暮らしていた。


家族との関係も友人関係も順調で


高校2年生までは体も健康そのものだったのである。


でも日々が崩れるのは突然で…とても無慈悲に崩壊した。


その年の夏私は今の医療技術では直せない不治の病にかかり、


全てが壊れていったのを覚えている。


友達が離れていき、家族も私を捨てて何処かに行ってしまった。


そして孤独の中さみしく私は死んでいったのだろう。


そんなことはわかりきっていた。


なぜだか涙が溢れて止まらない私は今まさに悲しみの渦中にいると言える。


神秘的な空間で感じた感動は重い事実と共に悲しみへと変わり果てた。


そんな私に神は怒りを剥き出しにして怒号を飛ばす。


「メソメソするな!過去のことなんぞどうでもいい!そんなお前に私が新たな"人生"を授けようとしているのだ!」


その時神秘的な空間が少し揺れたように感じた。


神様はそんなこと気にせず、呼吸を整えてまだ少し涙が止まっていない私に問いを投げかける。


「お前の願いはなんだ。新しい場所でその願いをかなえてやろう。」


神様の問いに私は涙が吹っ切れた。


新しい場所でやりたいことをやる、そんなことをこの人はかなえてくれるというのだ。


今の私が一番求めていること...ずっとやってみたかったことがある。


私の口はもう震えていなかった。


「私テレビで見た”漁業”をやってみたい!」


覚悟が決まっている私の目をしっかりと見て


神様は口角をにやりとあげる。


「よかろう!では貴様に”スキル”を授ける!その願い”異世界”でかなえるがいい!」


神様が持っていた杖を上にあげると同時に私を光が包み込む。


そうして私は剣と魔法のファンタジー異世界に転生したのだ。


ここから私...紅羽海の異世界漁業生活が始まる...!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る