二つの人格
小鳥頼人
プロローグ
近年、インターネットの進歩は目覚ましいものがある。
ネットサーフィンだけでも十分な時間を通信費だけで潰すことができるのだから便利な時代になったものだ。
また、SNSや掲示板等を介して間接的に他者とのコミュニケーションを楽しむ空間も充実しており、仮に現実世界に友達がいなくともネット上で誰かと交流を深めることもできる。
交流を深めることでオフ会に発展したり、更にそこから現実世界――リアルでも交友を深めたり、恋仲になったりするケースも昨今では珍しくない。
俺、
タク :『新学期おつー』
宮下 :『おつー』
COLD:『帰宅なう』
タク :『COLD、おかえりー』
宮下 :『COLDおつー』
COLD:『あざーす。てか二人とも帰宅早いね!』
タク :『始業式は部活がないからね』
COLD:『なるほど』
宮下 :『今日もマターリ語り合おうや~』
気心の知れたフレンドたちとチャットで雑談に花を咲かせる。
軽快に打鍵されるキーボードの音が一軒家の二階室内に響く。
一時間ほどやりとりをして話題が尽きたため、一旦解散した。
――では、ここらでユーザーチェンジと参りましょう。
俺は『COLD』のアカウントをログアウトして、別のアカウントでログインし直す。
ヨシ :『いつも思うんだけどさぁ、狭い道を広がって歩く集団マジ邪魔だよな』
リバー:『それな。罪に問われないんならケツを蹴り飛ばしたいわ』
② :『やっちゃえばいいじゃん。そんなグズな連中、どうせ何の役にも
立たねー負債なんだからよ』
リバー:『妄想の中で勘弁するけど、本当邪魔だよな。もっと周り見ろってんだ』
ヨシ :『な。
リバー:『しかも歩くのが遅いから追い抜けないわトロいわで最悪だよ。
「すみませーん」って言うと
② :『クズ多すぎな件について。そんなアホどもは車に
そう。
俺は二つのアカウントでそれぞれ別のユーザーとして振舞っている。
表向きアカウントが『COLD』、裏アカウントが『リバー』。アカウント名は俺の苗字の寒川からそれぞれもじっただけなんだけど。
別のWEBブラウザを使えば同時に二ユーザーログインもできるんだけど、そこは落とし穴。不意のミスで裏アカ『リバー』として書き込むつもりだったレスが表アカ『COLD』でレスしたまま気がつかなかった――ってことになったら俺のSNS生活は終わってしまう。
だからユーザー切り替えには細心の注意を払う。
表アカでは好青年キャラなもんだから愚痴すら吐けないんだよね。だから裏アカを作ってこうしてストレスの捌け口にしている。
ヨシ :『つーか学校マジダリぃわ』
リバー:『一月八日から登校とか馬鹿げてるよな』
② :『世のリーマンは四日から出勤してるぞ』
リバー:『更に馬鹿げてるよな。政治家と経営者はちゃんと仕事しろやクソが』
裏アカ『リバー』として一時間ほど日常の愚痴や世の中への
さてと。
タイピングで手も疲れたことだし勉強――は、するわけない。
「テレビ観て寝るか」
明日から本格的に授業がはじまる。よって英気を養う必要がある!
俺は適当に時間を潰して明日に備えて寝た。
けれど、この時の俺は考えもしなかった。
二つのアカウントを操るなど、俺の手に余る所業だったとは全く思いもしなかった。
俺の驕り高ぶった行為が、俺や周囲に一波乱を巻き起こす事態になろうとは――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます