第8話 憂鬱

 劇的な出会いから少し経つと、担任が教室に入ってきた。

 新卒、といってもいいくらいの若い女の先生だ。元気で可愛らしくて優しそう。「山下」という名前で担当は英語。


 先生はお決まりの挨拶をした後、出欠を取り始める。


 またこのヤなイベントがやってきたよ~。


 気分はみるみるブルーになっていく。

 何故かというと、理由はまぁ色々ある。


 まず、名前とキャラとのギャップがイヤ。見てくれがほぼ外国人なのに純粋な日本人の名前、というのがもう純粋に恥ずかしい。クラス替えで周囲の状況が大きく変わる度、出欠を取ると、か・な・ら・ず、ざわめきが起こり、そのあとしばらくイジられる。騙したような気分になるのもイタダケナイ。


 声もまた嫌いなポイントの一つ。鼻にかかっていて、まるで寝起きのようなのだ。そして風邪を引いて鼻が詰まっているようでもある。かなり甘ったるい声という自覚はあるので、カワイ子ぶったり媚びたりしているように思われてそうで嫌なのだ。


 舌足らずで滑舌がものすごく悪いのもイヤ。しかも、口の構造に問題があるのか空気の漏れが激しい。そのため、しょっちゅう聞き直されてしまうからフツーに困る。


 極度の上がり症だから、緊張すると言葉が出にくくなるのも困る。


 そして極めつけが名前の漢字。読み自体はそうでもないのだけど、漢字で表すと…。

 とりあえずこれは、今の時点ではヒ・ミ・ツ❤

 後ほど触れることにするとして。


 もうホント、憂鬱の極みなのである。

 とはいえ避けては通れない道。


 後ろの彼も変に思うんやろーな。笑うんやろーな。


 入学初日にしていろんなことを諦めた。




 担任は情け容赦なく出欠を取り始める。

 40人クラスで男女混合のアイウエオ順。

「き」から始まるので割と早く順番が回ってくる。


 あ~、ついに始まったよぉ~…1/3は北小出身やき、この人たちからまずは見た目とのギャップでしばらくイジられるよねー。あと、漢字も…あ~あ、イヤやな~。


 自分の順番が近付くにつれ、憂鬱さが増していく。

 そしてついに、


「木藤セイコさん。」


 名前を呼ばれた。

 一度大きく深呼吸をして、


「…はい。」


 返事をすると、


「え?なんで?」


「マジ?」


「外人さんやなかったって。」

 訳:外人さんじゃなかったんだ


「そーいや、さっきクラス分けの紙見たときカタカナの名前無かったよね?」

 訳:そういえば


 予想通りのリアクション。


 ほら~…やっぱ、そげ言いたくなるよね~。後ろの彼もゼッテー変っち思ったよね?しばらくは我慢するしか無さそうやね。


 考えていたら恥ずかしさが限界に達し、身が縮んだ。

 少し遅れて耳や頬が異様なまでの熱を帯びてくる。


 うっひゃ~!恥ずかしい!!


 悶え苦しんでいるうちに、


「はい。」


 後ろから声。


 しまった!名前、聞きそびれた!


 痛恨のミス。


 あ~あ…もぉ、なんなんよ。


 恥ずかしがり屋な性格を恨んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る