知恵の光、偏見の闇
藤澤勇樹
プロローグ
中世ヨーロッパの片隅にある小さな村、リューベック。
この村は、緑豊かな森林と清らかな川が美しい、まるで童話の一場面のような場所だった。しかし、村人たちはその美しい風景の背後に潜む恐怖を知っていた。
ある日、村の広場に集まった人々は、村長のマイヤーが厳しい顔で告げる言葉に耳を傾けていた。
「我らの村に再び悪魔が現れ、人々を病に冒している。これ以上の犠牲者を出さぬため、皆で力を合わせ、悪魔を払わねばならぬ。」
村長のマイヤーは、厳しい顔で告げた。彼は、村を襲う恐ろしい病が「人食いバクテリア(病原菌の一種)」と呼ばれる存在によるものだとは知らず、悪魔の仕業だと強く思い込んでいた。
「昔々、我らの村に悪魔が舞い降りたことがある。その時も、今と同じように人々が次々と病に倒れていった。村人たちが力を合わせ、祈りを捧げ続けたおかげで、悪魔は退散したのだ。」
マイヤーは村人たちに語り聞かせた。
「今回も同じように、我々は団結し、悪魔に立ち向かわねばならない。一緒に祈りを捧げ、村を守るのだ。」
マイヤーの言葉に、村人たちは不安そうな顔を見合わせながらも、うなずいた。
村人も村長と同じように、この不可解な病を悪魔の仕業だと信じ込んでいた。
村人の中には、特に狂信的な人物がいた。彼は悪魔について独自の想像を膨らませ、意味不明な内容を村人たちに吹き込んで回った。
「悪魔は人の姿に化けて、我らの村に紛れ込んでいるのだ!」
「悪魔に取り憑かれた者は、月が満ちる夜に村の森に集まり、恐ろしい儀式を行っているに違いない!」
「悪魔を追い払うには、村中の家々に聖なるお守りを飾り、毎晩欠かさず祈りを捧げねばならぬ!」
こうした根拠のない噂が村中を駆け巡り、村人たちの不安と恐怖をさらに煽った。
次第に、この狂信的な人物に同調する者たちが現れ始めた。
彼らは自分たちの見た悪夢や、奇妙な出来事を悪魔の仕業だと決めつけ、村中で広めて回った。
「昨夜、森の奥から不気味な声が聞こえてきた。きっと悪魔が何かを企んでいるに違いない!」
「私の家の前で、黒い猫が不吉な鳴き声を上げていた。これは悪魔からの警告だ!」
村人たちの多くが、こうした根拠のない噂を信じ込み、恐怖に怯えるようになっていった。村の至る所で、悪魔についての議論が交わされ、互いを疑い合う雰囲気が生まれていった。
かつて平和だった村は、恐怖と混乱に包まれ、濒死の状態に陥っていた。
(続く)
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