私はつばめ! ペアゴルファーつばめ!!

おれごん未来

1番ホール 奇跡も、魔法も、あるんだよ

 202X年、ゴルフは時短の炎に包まれた。


(マスターズのような歌)


 15世紀に競技として成立したゴルフは、遠く地球の裏側スコットランドにて産声をあげました。日本へは明治に伝来、現在は戦後期の第1次ブームやバブル期の第2次ブームをもしのぐ、第3次ブームにわき立っています。

 発端は2020年。歴史的大疾病により抑圧された日々を過ごした人々が、伝統に風穴をあける革新の嵐をまきおこしたのです。新しいゴルフが手にした、新たな可能性という名の両翼、それは。

 『時短』、そして『ペア競技化』でした。

 ときは流れて2027年。いまや隆々たるペアゴルフ界が、高校生たちの頂点をきめる夏の祭典を新設します。その名は全日本高校生ファストペアゴルフ選手権大会。その記念すべき第1回がいま————


 改めましておはようございます。

 全国津々浦々の高校生たちが待ち焦がれた、来たるべきこの日を迎えました。第1回全日本高校生ファストペアゴルフ選手権大会を、栃木県にあります皐月ゴルフクラブ佐野コースよりお届けいたします。

 各都道府県1代表を基本に、人口比を加味して東京都や大阪府などを複数校選出とした、合計64校によって第1回の覇者を決める本大会がいよいよ。

 本日の解説には元プロゴルファーで、現在全日本プロファストゴルファー協会をたばねる理事であられます上野夏樹うえのなつきさん。進行はわたくしこと東中央テレビの高木翔たかぎかけるにてお伝えしてまいります。

 本日はよろしくお願いします上野さん。


 え待って?

 ちょっとぅ高木クン!? 改名していまは真冬まふゆだってったでしょう!


 こ、これはたいへん失礼をいたしました!

 手元の資料では、その。

 先日みずからの性自認を告白し改名をされました、全日本プロファストゴルファー協会理事の上野真冬さんです。改めましてよろしくお願いいたします。


 おほん、分かればいいの。

 んよろしくお願いしますぅ。


 その。

 いかがですか、本大会発足に尽力された上野さんの心境など。


 んそうねぇ〜?

 率直に、子供が巣立つときの心境かしら。アタシ子どもを産んだことも、育てたこともないんだけども!

 あのとき深夜に集まって、適当にルールを定めたお遊びみたいなゴルフ。それがいつのまにかゴルフ界の中心になった。

 来年の2028年、ロサンゼルスオリンピックからは公式競技となることが急きょ決まり、ますますの盛り上がりをみせるこの競技。いまやゴルフファンは全員、こちらを向いているとゆってしまっても過言じゃないと思うの。


 おっしゃる通りです。

 誕生と同時におこったブームも手伝い、ファストゴルファーの裾野は広がるいっぽう。オリンピック競技化はブリスベンからとうわさされていたところロサンゼルスからと、サプライズ追加が昨年ありました。


 なにやら、どこからか強い働きかけがあったとかウワサされてるけど。ここで話題にするには無粋だったかしら。

 んま。

 中身がどうあれ、オリンピック競技には正式採用された。そのオリンピック代表選手として、今日ここで活躍する高校生が選ばれるかもしれない。それで十分よね。


 はい。

 さあ、画面に選手が映ってまいりました。まもなく始まります。

 全長9763ヤード、パー76。栃木県佐野市の避暑地にもひびくのは力強いセミの声。その音をせおい、熱気でゆらめくティグラウンドにさっそうとレモン色のユニフォームで現れましたのは?

 長崎県代表、長崎県立長崎東西高等学校の大空です。大空つばめ、なんと1年生。


 ウフフ。日に焼けた境界線を隠しきれない、白のプリーツスカートが目にまぶしいわ。


「ちょおっと美月ちゃん? やっぱこれって短くない? いくらなんでも短すぎると思うんだけどっ!」


「今さらですね。デザインなんて例年と同じですのに、はぐらかしながらずっと放置していたのはどなた? それを問いつめたら開き直って、すべて任せるとおっしゃったのはつばめさんではありませんか」


「そうだけどもぉ〜。ほったらかしにも丸投げもしたけれど。手渡された時に面積ちっさと思ったけどもっ。県大会で実際に着たらさらに短かくて! 今日ひさしぶりに着たらもっともおっっっっと短かったの!」


「知りませんよ、また一段と成長されたのではありませんか?」


「成長、って? ふ、太ってなんか! ……たったの900グラムだけだも〜ん」


「わたくしはいつも通りの丈ですので気になりません」


「それは美月ちゃんがモデル体型だから言えるセリフ! ボクはほら、見てよコレ! この人一倍たくましい太ももが、あろうことか大衆の面前に! あまつさえ全国のテレビに!」


「さ、いつまでも駄々をこねていないで。始まりますよ」


 大空からひときわ大きな声が出ました。なにやらにぎやかなティグラウンド周辺ですが。


 始球式とはゆいながら長崎東西にとっては大切な第一打よ。この緊張感の中でどう打ってくるかしら。

 長崎の子、大空ちゃん?

 ホント、彼女はかわいらしい、極めて小柄な選手よねぇ。


 手元の資料によりますと、大空は身長149センチ。51キロ。ゴルフ歴は14年。

 その体躯からは想像もできないような飛ばし屋で、幼稚園年長時には小学生以下の世界記録を塗り替えて一時話題となりました。


 へぇ、小学生以下の記録を幼稚園児のときに?

 たしかに、アタシのウエストくらいあるいい太ももをしてるわ。


 ところがゴルフの成績そのものはあまり良くなかったようです。


 ウフフ、ちびっ子でよくある話よね。遠くへ飛ばすことばかりにかまけちゃう。


 はい。

 大空はその後、小学1年から中学卒業までを海外で過ごし、今春に帰国。本大会でペアを組む水守の誘いに応じてペアゴルフへと転向、高校初の大会参加で全国まで上りつめてきました。

 そのティグラウンド。


「よろしくお願いしまぁす!」


 これはいいですね、実に高校生らしい。朝からよく声が出ています。


 え待って?

 あれ見て、大空ちゃんのウッド。今どきめっずらしいわぁ。


 そうなんですよ、大空の手に握られているドライバーはパーシモン製。現在ではなじみの薄くなった、ヘッド部分が柿の木でできた1番ウッドです。

 しかも1番だけでなく、大空のウッド系はなんとすべてパーシモンで統一。さらにシャフトも木製、ヒッコリー材のこだわりよう。どうやら現役高校生唯一のパーシモン使いのようです。


 へぇ、飛距離にはそうとう不利なのに、あんな若い子がわざわざパーシモンなんて。ねえ?

 プロなんて皆無なんだから、競技ゴルファーに限れば今や唯一の使い手なんじゃないのぅ?


 そのようですね。

 さて、大会会長がおもむろに席を立ちました。これから始球式へと移るもようです。


 栄えある第1回大会の組み合わせ抽選で1番クジを引いた学校の栄誉よね。

 緊張よぉ〜。強運とたたえるべきか、貧乏クジとゆうべきか。


 ハハハ、そこはぜひ強運と。

 次年度からは今大会の優勝校が担当する予定です。

 おっと?


「では。そろそろ参りましょうか」


 控えていた、同じ1年生の水守もティグラウンド上に出てきました、か?


 選手宣誓をやってた子ね。まるでそつのない印象の子。

 今さら気づいたのだけど、ごめんなさいね。長崎東西はふたりとも女子? 長崎東西は女子ふたりのペアなの?


 ご指摘のとおりです。

 ショートゲームが得意な選手を入れた男女混成は珍しくないペアゴルフではありますが、女子ふたりはなかなか見ません。

 基本性別にしばりを設けないものの、競技ペアゴルフでは男子ふたり組が大多数を占めます。そのなかにあって長崎東西は全国大会に進出できた高校で唯一の女子ふたりのペア。このあたりでも長崎東西の活躍に期待したいところです。

 大空の横にならんで遠くの旗へ目をこらすのは水守。大空とともにドライバーをたずさえています。


 あのそぶり。まさか一緒にアドレスに入るとでもゆうのかしら?


 アドレスに? ふたり一緒にスイングを行うと?

 もしそうなら意外な展開、非常に珍しい事例となります。競技ゴルフの公式戦では前例がありません。


 SNSのおもしろ動画ならあるわよ? アタシ見たもの。


 あれらはいずれも3秒ルールを守っていませんし、ティグラウンドの範囲から出ますから。

 さあ、1回戦第1試合からさっそく波乱を含むもよう。国内では前代未聞となる可能性、長崎東西はなんとティグラウンド上に横一列。ふたり並んで素振りをはじめたのは水守・大空ペア。

 これがどのようなショットを生むにせよ、国内初の試みとなります。


 横一列に限定するのならおそらく世界初よ。プロアマ区別なく。アタシ見たことも聞いたこともないもの。

 いやん、これは見ものだわァ。


 水守がティアップ。

 ゴルフ歴14年。長崎東西高校1年、水守美月。

 同級生からは『みずみづ』の愛称で親しまれる彼女は長身の176センチ、47キロ。非常にコントロールに長けた選手。

 レギュラーゴルフの小学生大会ではなんと、全国優勝をした経験もあります。それも小学1年生時に。


 1年生が6年生に勝って優勝を!?

 思い出した、あの年の。さっきからどこかで聞いた名だとは思っていたのよ。

 ずいぶんと長いあいだ見かけなかったけれど、あいかわらずの美人さんよねぇ。お人形さんが一転、モデルになって帰ってきたじゃない。


 ところが、当時芸術とまで賞賛されたスイングはおそらくガラス製でした。急激に伸びた身長に乱されでもしたのか、年を追うごとに飛距離もスコアものび悩み。

 今夏にいたるまで県大会出場もかないませんでした。


 ジュニアじゃよくある話よね、驚かないわ。

 でも努力をやめなかったのよ彼女は。じゃあ今回が小学1年生以来ってことね。


 はい。

 ここに彼女がソロゴルフ時代の、ペアゴルフ転向前の詳細なデータがあります。こちらによりますとパー4のパーオン率は26%、さらには、パー5のパーオン率に至ってはゼロ、となっています。


 パーオンが? ゼロぉお?

 それ本当なの? そんなのまるでゴルフにならないじゃないのよさ!


 ええ、ですから中学まではどの大会もすべて予選落ちでして。


 どんな弱小校の選手って言ってもゼロってのはいくらなんでも。

 どれ? 見せて?


 はい、こちらです。


 ははあ、数字だけでもわかるわ、どうにか食らいついてゆけてた試合勘はさすが全国レベルとゆったところかしら。にしても? げせないわね、あれだけ身長があったなら十分なはずなのに?

 まあ、筋力が足りないようには見えるわねぇ。アタシあの子より身長が低いけれど、このホールだったら手で投げたって3オンできるわよ?


 ッハハ投げて? ハハハ、それは上野さんだからですよ。

 ところが水守のデータは事実でして。彼女の飛距離は小学1年生時の優勝を境に突如失われました。そうした長距離砲を持たざる水守の、穴を埋める存在が現れたのでしょう。


 それが大空ちゃん、とゆうわけね。


 お互いの弱点を補いあってここまで勝ち上がってきたのか長崎東西。水守は久しぶりの大舞台で復活なるか。


 高校生らしいハツラツとしたプレーに期待したいわね。


 のびのびとした大会となることを期待しましょう。


「さあスタートホール! 美月ちゃん、いよいよ全国だよ。準備はいい?」


「もちろん。でもまさか、あなたとこうして一緒にゴルフをできる日がまたくるなんて」


 目元をぬぐう仕草をしたのは水守。目になにか入ったでしょうか。

 台風19号が日本列島に接近中であり、佐野からは逸れる予報ではあるものの少し風があります。


「イヤイヤイヤ、今さらなに言ってんだか。長崎県大会も普通に一緒だったでしょうよ。なんならもう終盤だし。昔のことはもういいから、泣かないでよ。どうせなら優勝した時にでも振り返って?」


「ふふ。そうですね、そういたしましょう」


 放送席? 放送席の高木くん?


 赤井さん。

 ご紹介が遅れました。本日最初の試合となる、長崎東西高校対茅ヶ崎学園高校についてコースレポートをしてくださる『世界の赤井』。

 全日本ゴルフツアー機構会長兼シニアプロゴルファーの赤井勇あかいいさむさんです。


 よろしく。

 さっきから聞いていたが、放送席の君らは彼女らのプレースタイルを詳しく知らないみたいだね。


 そのおっしゃりようですと、赤井さんは長崎東西の選手をご存じと。


 半年ほど前からちょっちね。

 つばめくんと美月くん。

 片やアイアンが一切使えず、片や飛距離が壊滅的。そんなふたりが出会ってどんなペアが生まれたか。

 これまで周囲からうしろ指をさされてきた者と、栄光ののち見限られた者。そんなふたりが全国を舞台に化学反応をおこし、誰しもがおどろく大輪の花火をあげる。

 その瞬間をいま、君らは目の当たりにしようとしているんだ。

 見届けてよ、彼女らの戦いを。


 おお、なんと赤井さんのお墨付きがでました。

 あの陣形からどのようなショットが飛びだすのかをご存知と。ここは期待して見守りましょう。


 へぇ、あの赤井さんに目をかけてもらえるだなんて。

 妬けちゃうわね!


 あの形を見ると彼女ら、ついにアレを使うつもりらしい。


 アレ、と言いますと?


 いや、もう打つ。説明するより見た方が早い。


 おそろいのサンバイザーをして横に並びます。さながら練習場のよう。

 しかし緊張感がまるで違います。

 さあ始球式、まず第1打は水守から。


「覚悟はよろしくて?」


「もちろん! 早く打ってよ美月ちゃん。ボクはもう、さっきから待ちきれないんだ!」


「ふふ、頼もしいこと。……では。いきますよ! つばめさん!」


 打ちまし、おっと!?


 あらら、緊張したかしら?


 左に大きく引っかけた!

 フォアと、対戦相手から観客へ注意するよう大きな声が出ています。


 危ないわ!

 岩に当たった飛球が選手に向かって跳ね返ってるわよう!?


 っと!?

 振りかぶります大空、スイングに入った!?

 これはいったい!?


 ちがうんだ、長崎東西はあれでいい。


 赤井さん?


 はばたけよ! 小鳥!


「この一打で小鳥つばめは鷲になる! 第一の奥義、タイタン・オブ・イーグル!!」


 あれはっ————!


 ウッソでしょおおお??


「いっっっっっっっっっけええええええええええええ!」


 !!!!

 ……言葉を失っていましたすみません。

 改めてご説明しますといまの一打、長崎東西の水守が放った打球はコース左にしつらえた滝へと向かい、即座に大岩に当たってはね返りました。その飛球が大空をおそうあわやの場面、しかし彼女は打ち返したのです、的確に。フェアウェイを目指して。


 ええっと?

 まさか、はじめから意図して? トラブルではなかったとでもゆうの?


 放送席?

 すごい飛距離が出てるはずなんだよ。こっちからは見えないから早くボール追って、早く。


 そうでした、まだ滞空中の長崎東西ボールは?

 どうでしょうか?

 ようやく落着したのはなんとグリーン手前! いきなりグリーン近くにつけてきました!


 いいや。

 だったらそれ、乗るよ。佐野の1番はランが出る。


 まさかですよ赤井さん、410ヤードを高校生が? しかもパーシモンで!?


 それも女子の、1年生ペアがですか?


 まあ見てなって。


 ボールの勢いはなくなったが? 赤井さんがご指摘のようにまだ力を残しているのか?

 なお、視聴者の方々も多くはご承知のとおり、ファストペアゴルフでは時短のためパットをいたしません。

 パー4の場合、3打でグリーンに乗せればその時点でパーとみなされます。2打で乗ればバーディ。もしも1打で乗るようなことがありますと————!


「ぃやったあ! 乗ったよお美月ちゅわんんん!」


「あきれた、グリーン上がここからで見えまして?」


「だって。見えるんだも〜ん」


 なんと始球式が1オン! イーグルです!

 パー4のグリーンに一打で乗せましたのは長崎東西高校! 水守・大空ペアがスタートホールでいきなりのイーグルを決めましたァーーーーッ! 

 強めのハイタッチで互いを讃えるのは長崎東西ペア!


「いえーい!」


「……痛いです」


「そう? もっと喜びなよぉ」


「それよりも。なんです今のは。技名だって恥ずかしいのを我慢していますのに、その上『第1の奥義』だなんてないしょでつけ足して」


「バレた? だってえ、かっこいいじゃない?」


「理解に苦しみます。それにまだ第2も第3もないではありませんか」


「いいのいいの、言わなきゃバレないんだから。あるって思わせるのも作戦のうち? それにこれからぜったい増えるって。『フッ、次は第2だ』、とかさ。なんならブロックサイン出すよ?」


 大空の、水守に対してのVサインが光ります!

 この大舞台で世界初となる大技をきめたのは、長崎県代表・長崎県立長崎東西高等学校!


「ですから、叫んだことで全国にぜんぶ開示してしまっているではありませんか。技名も、番号も」


「そっか、そいつは……やってしまったねぇ。でもぉ、声にだした方が飛ぶんだよ、試したもん。だって黙って打った結果、グリーンに届かなくなったらヤでしょ?」


「もしや新手の脅迫です? 練習のときのように、剣道や砲丸投げみたいな気合いではどうしてダメなのですか」


「だって。かっこいいじゃない?」


 どうした水守、ひざから崩れおちましたが? 緊張がとけて力がぬけたか。

 しかし見事なショットでした。


 ほんと、すっごいわぁ〜。

 なんだかとてつもないものを見せつけられたわねえ。アタシ、あの子たちのファンになっちゃいそう!

 いいこと? ゴルフは工夫次第でこんなにもエンターテインメントになるのよ!


 興奮冷めやらぬ放送席です。

 ここでジャッジがグリーン上のボールを確認ののち回収する時間を使い、手短にペアゴルフの特徴的ルールをご紹介いたします。


 あ、それすっごくいい。テレビでご覧の方々の中にはまだペアゴルフを知らない方がいるかもしれないものね。


 まず、と言いますかこれらがほぼすべてなのですが。ファストペアゴルフ特有の3大ルールはご存知でしょうか。

 この新しいゴルフは基本、既存のゴルフのルールに則りますが、大きな変更点が3つ存在します。

 ひとつめは『カップインを必要としない』。グリーンに乗せた時点でパット分とみなす1打を加算して自動的にホールアウトとなります。これは時短を目的として採用されました。

 ふたつめは『3ホール先取制』。どちらかが先に3ホールを先取した時点で決着となります。3アップのマッチプレイと異なるのは取って取り返してが発生しないこと。先に3ホール分を奪取することが勝ち名乗りの条件です。

 また、本大会にはイーブンのホールでキャリーオーバーが新設されることになり、より迅速に決着がつくよう変わりました。こちらは後ほど、さらに詳しく。

 最後となるみっつめは、ソロのファストゴルフにも存在しない本競技最大の特徴、通称『3秒ルール』。より厳密には、『ペアを組む2者のスイングは、3秒以内に終わらなければならない』。


 ようは3秒以内なら何回打ってもいいってわけ。このルールに触発された子たちから新打法が近年さかんに開発されているわ。SNSのお遊び動画を再現するかたちで、あるいは自ら考案することで新しいショットが日々生まれてる。

 新技はこれからいくらでも出てくる、いまの一打はそれを予感させるものだったわね。


 長崎東西のふたりがまさに、新時代の到来を見せつけてくれました。


 放送席?

 茅ヶ崎学園の選手がジャッジになにごとか伝えているな。たぶんアレじゃないだろうか。


 そうでしょう、残念ながら。

 茅ヶ崎は1オンができなければこのホールを落とします。基本はマッチプレーのルールですから、技量を有しないと打つ前から判断できる場合は、そのホールのギブアップを宣言できます。


 おそらくはそれよねぇ。

 あ、やっぱり。


 コースジャッジの指示にしたがい、両チームが1番ホールを離れます。


 高木クンはこんな言葉を聞いたことがあるかしら。『ペアゴルフは、飛距離がすべてを凌駕する』。

 アタシの言葉じゃないんだけれど、すっごく的を射てると思うの。

 国内の高校生もどうやら本格的に400ヤード時代に入ったわ。これから400を飛ばせないペアは勝ち残れない、あっというまに淘汰される。そんな時代に入ったのよ。

 見てて。この大会でアタシたちはとんでもないものを目にするわ。高校生たちのポテンシャルったら計り知れない。いま見た400ヤードがかすんじゃうくらいの、事件の数々をきっと目にする。


 おお……!

 それを為すのはどのペアでしょう?


 フフフ、あの子たち、なのかもしれないわね。


 俺からもコメントいいかな?


 ええ赤井さん、どうぞ。


 茅ヶ崎はこれにめげず2番ホールから巻き返してもらいたいな。あれはたとえプロであっても晴天の霹靂だった、それだけは間違いない。

 にしてもどうだい、なかなかすごいだろう若者たちも。


 ええ。今ので痛感しましたわ。それでこそ骨を折った甲斐があったというもの。


 彼女たち世代の台頭を受け、どうやらゴルフは新しい段階に入ったんじゃないだろうか。

 長生きだってするもんだなあ。


 世界の赤井から感嘆のため息がもれたところで一旦CMです。

 この始球式をもって各校が2番から18番ホールでスタートいたしました。こちらの熱戦も逐次。

 CM明けは2番ホール、茅ヶ崎学園の紹介から入ります。

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