第16話 一つ目の事件?

新年が始まり、まだ強い寒さを感じるこの時期に、いつもと違って僕たちはネットや紙資料を用いて作業していた。特に探偵事務所を休みにしているわけではないが、本来より客の少ないここでは調べものをする時間はたくさんあるわけだ。

「ヒーローサイト……「悩み、相談なんでも乗ります!ヒーローがお助け!」か。」

僕はサイトの見出しにある文を口に出した。

「一見すると普通の相談用サイトって感じだけど……本当に事件に繋がってるって思いづらいね。」

「ん。」

ヒーローサイトというのは、家達さん曰く事件…最悪の場合、殺人事件を引き起こす恐ろしいサイトだ。家達さんの資料によると、このサイトへの相談はネットによるいじめや誹謗中傷が多いらしいけど、その加害者…つまり、いじめなどを行ったものが大きな事件に巻き込まれ、死に至ったりしているらしい。

「お兄ちゃん曰く、現場には森亜のカードが残されてるらしいしね。」

「そうだね。」

森亜は大きな組織だ。それでいて悪を許さない。いじめ等の相談が真実がどうかを確かめ、本当ならば加害者を殺すことだってできるだろう。

「流れとしては、このサイトにある連絡先から悩みを相談するって形みたいね。相談は個人の間で行われるらしいし、第三者が見ることはできない。」

「家達さんは、サイトの主を見つけてほしいって言ってた…できるのかな。」

「ん~~結構厳しいね。一見すると、ただ相談に乗ってくれる良いサイトだし、事件との繋がりを示すのだって難しいね。このサイトから個人を特定まで持ってくのはほぼ無理だね。」

「そうだよね……よく家達さんは事件に繋がってるって分かったなあ。」

「お兄ちゃんはたまたまって言ってたけど…」

家達さんは他の事件を担当してるときにこのサイトの存在に気づいたらしい。その事件ではネットで誹謗中傷をした男が殺害されていて、その調査をしていると、このサイトへの相談が判明したらしい。初めは偶然だと思ったらしいけど、他のいくつかの事件も調査していると、このサイトに繋がっていることが分かったとのことだ。

「はい、チョコ。」

「ん、ありがと。」

イエはずっと、家達さんの事務所が今まで担当した事件の資料を読んでいる。当然その数はすさまじく、机の上には山ができている。イエは資料を見て、このヒーローサイトに繋がってそうな事件がないかを調べているのだ。定期的に糖分を取るくらいでここ3日ぐらいはずっと資料を読んでいる。さすがの集中力と言ったところだろうか。

「よし!一旦読み終わったかな。こっちはカンケー無さそうなやつで。こっちがありそうなやつ。」

「おつかれ、イエ。」

イエが関係あると言った紙の束は、思ったよりも少なく、この全ての資料の20分の1にも満たなそうだ。と言ってもこの資料も家達さんの事務所の資料のほんの一部なんだけど。

「さて、ここからが大変ね~。こいつらのうちいくつが実際に、ヒーロサイトと関係があるか調べなきゃなんない。そのためにはこれらの事件の関係者に話を聞くしかないし。」

「そうだね。それに、正直に話してくれるか分かんないからね。家達さんは巧みな話術で吐かせたらしいけど……できるかなあ。」

イエの人見知りを思い出して言った。

「ん~~まあ!とりあえず、休憩!お花をもいでくるねー」

「摘んでくれ。」

イエはそう言ってトイレの方に歩いていった。僕はイエがトイレに言ってる間に資料に目を通すことにした。僕が見たのは三年前の三月のものだった。その月だけで三件の相談があった。一つはホテルマンに関するもので、その人の彼女が誹謗中傷により命を落としたと言う事件、二つ目は一つ目に似ていて、工場で働く人の恋人がネット詐欺により深い傷をおったと言う事件、三つ目はサラリーマンの相談で、相談者の友達がネット詐欺にあったという事件。一つ目と二つ目は相談したわずか一ヶ月後に、誹謗中傷やネット詐欺をしたものが何らかの被害にあっており、三つ目の事件も三ヶ月後に被害が出ている。僕は背筋がゾッとした。どうやって森亜は、ネット加害者を見つけ出し、罰を下しているのだろう。その森亜という組織の大きさに改めて気づかされたのだ。そんなことを考えているときだった。ピンポーンとインターホンがなった。僕は依頼かな?と思い、玄関に向かった。ドアを開けると、久しぶりに見る深緑の服に包まれた鳥羽刑事が立っていた。

「お久しぶりです。」

「ああ…上水くん、探偵はいるか?」

「今お手洗いに……あっどうぞ、あがってください。」

「すまないな。」

僕は、鳥羽刑事をソファーへ案内し、イエが戻ってくるのを待った。と言っても、イエはすぐさま戻ってきた。

「鳥羽っちじゃん!久しぶり!」

イエは嬉しそうに声をかけた。

「変な呼び方をするな。」

反対に刑事は不服そうな顔をした。

「また殺人?顔が暗いよ。」

「……まあな。分かるか?」

「ん、顔の暗さもそうだし、タバコの匂いもする。刑事けーじがタバコ吸うのはいつも重めの事件のときだもん。」

「そうか……悪いな。本当はこの探偵事務所に来るつもりはなかった。」

「……お兄ちゃんのとこに行ったの?」

「!…よく分かったな。」

「まあ、お兄ちゃんは1番の探偵だしね。ここじゃない探偵事務所なら、そこしかないでしょ。仮に違うとこだったら、私たちのところに来ないし。」

「その通りだ。小太家達の事務所に行ったんだがな。事件の概要を話すと、「イエちゃんのところへ行ってくれませんか?ちょうど良いので。」と言われたんだ。」

「ちょうど良い?何が?」

「さあな。だが彼はそういっていた。まあ、忙しくて適当言っただけかもしれんが…」

「お兄ちゃんは理由もなしに殺人事件を私の方に回さないよ。」

「だろうな。」

その通りだ。刺激の強い事件を、わけもなく家達さんがこっちへ回すはずがない。今までだって、窃盗や迷子になった猫の捜索などの比較的安全な事件を多忙ゆえに、回してきたときはあったけど殺人はなかった。家達さんにとってイエは大事な家族だからだ。だからこそ、イエも僕も多少の驚きを隠せなかった。

「とりあえず、事件の概要を聞かせて!なんか分かるかも!」

「分かった。…事件が起きたのは昨日…1月7日の昼、3時頃。あるホテルにて『寿田すだ 助世すけよし』が殺害された。年齢は53歳の男性。ベッドで寝ているときに心臓を刺され、即死した。凶器は大きめの鋭いナイフで、遺体に深く刺されていた。犯人の痕跡はないに等しく、指紋もなければ、誰かが部屋を荒らした形跡もない。」

「つまり、金品が目的ではなく、殺害が目的ってわけね。」

「そういうことだろう。」

「昼寝中をちょうど狙ったって、ことですか?それとも偶然ですか?」

「俺は必然だと考えるな。実は被害者の寿田は、先日までアメリカの方で生活していたらしい。つまり、昼に寝ていたのはいわゆる時差ぼけと考えられる。」

「ってことは犯人は、被害者がアメリカに行っていたことを知っているのね。」

「寿田が帰ってきてすぐ殺されたことから、相当の恨みが感じられるな。」

「けど、ナイフで1刺しってのは冷静さを感じるね。強い恨みがあれば、何度も刺しそうなものだし。この事から、恨みはあれど、時間が経ってかなり落ち着いてきていると考えられる。恐らく、アメリカに行く前にひと悶着あったんじゃないかな。」

「今、詳しく調べているところだ。とりあえず分かっているのは、寿田がアメリカへ行ったのは7年前ということだ。」

「なるほどね。…他に現場に気になるところはあった?」

「先程も言ったが、現場には証拠らしきものは残っていない。二つを除いてな。一つは森亜のカード。」

「!」

この事件も森亜が関わっているのか!

「そしてもう一つ、気になるものが見つかった。」

「気になるもの?」

「ああ、寿田のスマホケースは、カード等をしまえるようになっていたんだが、その中に一つ、『フクシュウ』と書かれた紙が入っていた。」

「!」

イエはその言葉を聞いて何かひらめいたように目を大きく開いた。

「そういうこと……ね。お兄ちゃんが私たちに任せたのは…」

小さい声でそう呟くとイエは立ち上がって、鳥羽刑事に言った。

「とりま、私たちを現場に案内して!なんか分かるかもしんないし!和斗!外出の準備!」

「うっ、うん!」

イエは何やらやる気が出てきたようで、準備をしに二階へ駆け上がった。


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