第14話
ベッドの中でモゾモゾと動いているから眠れないのだろう、だからって……
「……抱いて欲しい」
私の気持ちを知ってるくせに、そんなこと言わないでよ。
「さっき、真紘さんが初恋の人の話してた時、私嫉妬してた。私といる時に他の人のことを思ってあんなに優しい顔して欲しくない、真紘さんを誰にも渡したくないって思った。私、真紘さんのこと……」
気持ちは嬉しい。
けれど、こんなに興奮して感情をあらわにするのも珍しいから。
私が抱けば落ち着くの?
その後は?
冷静になったら後悔するんじゃないの?
今抱いてしまったら、私はもう貴女を離したくない、自分のものにしてしまいたくなる。だけどそれは、きっと今までと同じ。しばらくは幸せかもしれないが、結局最後には私の元から去ってしまうの。
一時的な感情で抱きたくはない。
抱けない……京香が本気で私の世界に入ってきたいと思うまでは。
翌朝、早くに京香は部屋を出ていった。私は眠っているふりをして、見送ることはなかった。
これでもう、会えないかもしれないなと静かに涙を流した。
月を見ていた。
最近は夜空を見上げるのが習慣になってしまった。
今夜はカーテンを全開にして、期待せずに待とうと思う。
たとえ待ち人が来なかったとしても、この綺麗な満月がきっと私をなぐさめてくれる。
あの日、京香が出ていった日。
このリビングのテーブルの上に一枚の紙が置いてあった。
今どき書き置き?
気軽にメッセージで連絡が取れてしまうこの時代に、きっと何かの覚悟があったのだろう。
あれ以来、一切の連絡はない。
『ケジメをつけてきます。一週間後会いに来ます』
月を見ていた。
二人で、並んで。
「凄い、月がこんなに近くに見えるなんて」
「今日はウサギもしっかり見えるでしょ、満月を見るとうさちゃん思い出すのよね」
「ウサギだけに?」
「そう、単純だけどね」
普通に会話が出来ていることが嬉しい。
「真紘さん、愛してます」
こんなにダイレクトに告白されたことなくて、焦ってしまう。
「直訳なの?」
嬉しいのに素直に返事が出来なくて茶化してしまう。
「私、今日初めてあのランジェリー付けてるんです、勝負下着なんですよ? 月が綺麗なんて、まわりくどいこと言いません。愛しています」
京香の真剣な眼差しが刺さる。
そうよね、ノンケの彼女が生きづらいこちらの世界の扉を叩くことは、随分悩んで相当な覚悟をしているはず。
私も真摯に受け止め、覚悟を決める。
「京香、嬉しい。私を選んでくれてありがとう。私も愛してるわ、二人で幸せになろう」
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