第12話

 あれから京香に会えていない。

 お互い忙しいから、というのは口実だろう。それで良いと思う。

 彼女が幸せならばそれでいいの、そう言い聞かせている。

 私の方もいよいよの開店準備で寂しさは紛れているし、ビアンバーも癒してくれる。ただしもう、一夜限りの遊びは控えている。そういう気分じゃないから。


 開店日は、ちょっとしたパーティーみたいになっていた。お世話になった人たちに挨拶やおもてなしをしていた。

 そんな時、後ろ姿を見かけた。急いで受付へ行くとお花を預かったという。

 待ってよ!

 パンプスを履いているけど、追いつくためには走らないと。

「うさちゃーん」

 何も望まない、会いに来てくれただけで嬉しいから。友達としてまた会えたら万々歳だ。

「私、真紘さんのこと好きです。でもやっぱりよくわからなくて」

 彼女も今日まで悩んでいたんだとわかる。

 それでいい、嫌われてないだけで充分なんだよ。


 私たちはまた友達として付き合うことにした。



 夕食を共にしたり、新店舗にも足を運んでくれたり。

「ここはいろんな靴があるんですねぇ」

「そうなのよ」

 ヒールの高いパンプスだけじゃなく、カジュアルなものやスニーカー、ランニングシューズや登山靴まで幅広く置いている。ターゲットとなる年代もバラバラだが、それ故に家族で来店しても飽きさせない、そういうお店だ。

「良いですねぇ」

 いつか、彼女が夫や子供を連れて来ても、私がしっかり応対したいと思っている。


「ハッピーバースデー、京香」

 誕生日当日は彼とデートだろうから、その数日前に夕食に誘った。

 美味しいものをお取り寄せして、何品かは私が料理をする。私からのプレゼントは残るものではなく、食べたらなくなるものがいいと思ったから。

 私の手料理の方が美味しいと言って食べてくれるなら、心を込めて作った甲斐があったというものだ。


 話を聞くと、誕生日には豪華なディナーが待っているようで、きっとプロポーズなりなんなりの進展がありそう。

 私は京香の幸せを願って見守るしかないのだと改めて思うのだ。

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