第9話

 人間にとって本当に辛いのは、孤独だと思うの。

 痛みや苦しさや、貧乏だったり地位が低いことよりもはるかに辛い。


 あまり居心地の良くないこの広い部屋で、ただ一つ気に入っているもの。

 大きな窓から見上げる月の綺麗さ。


 会いたいなぁ。


 その日は満月だったから、いや別に満月は関係ないけど何か理由づけがしたかっただけ。


 彼女に電話をかけた。

 声が聞きたかった。

 話がしたかった。

 会いたい。

 

「今から行きます」

 そんな言葉が返ってくるなんて思っていなかった。

 会えるんだ、そう思って見上げた月はいつもより輝いていた。



「早乙女さん、最近寝れてますか?」

 彼女は会うなりそんな事を言う。

 前回泊まった時に、睡眠薬を見つかったからだろうか。

「ご飯は美味しく食べれてますか?」

 ご飯はかろうじて食べてるが美味しくって? そこは重要なのだろうか?

「今日は私が早乙女さんの愚痴を聞きます」

 そんな宣言をされて、泊まっていくと言う。

 どうやら、私の疲弊がバレバレなようで、元気付けたい一心らしい。

 甘えてもいいの?


 同じベッドで二人で眠る。

「うさちゃん」

 前回の時も感じたけれど、体温とか匂いとか声も、とても安らぐ。

 だから弱音を吐いても大丈夫な気持ちになる。

 自分が悪いんじゃないと思わせてくれる。


「人生の中でタイミングが悪い時ってありますよね、今じゃなければって思うこと」

 本当にそうだ、もしも今じゃなくてもっと早くうさちゃんに会えていたら。

 うさちゃんが彼に会う前に、私に会っていたら?


 二人は恋人になれただろうか。


 そんな想像をしていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る