夢の世界から

hibari19

(1)

第1話

「さいっってぇ」

 そんな捨て台詞でガタンと立ち上がり、さっさとお店を出て行った彼女を私はぼんやりと見送っていた。


 最低……おっしゃる通り、いつものパターンよね。


「相変わらずですね」

 そっと、カクテルを置いてくれたのはこのお店のバーテンダー。

 私は肩をすくめただけで黙って口をつける。

「どうして、いつもそんなーーあ、何でもないです」

 常連と言ってもいいくらい通っているこのビアンバーは、平日の遅めの時間だからかお客はまばらだった。

「カウンターに移っても良いかしら?」

「構いませんよ」


 振られた時にはいつも一人で飲むけれど、今日は何故か誰かと喋りたい気分になっていた。

「いつも最低なことしてるわよね、私」

 だからつい、バーテンダーに話しかけていた。

「いえ、そこまでは……ただ、自分自身も傷つけている気がして、何でだろうとは思います」

 そんな風に見られていたのかと驚いた。


 私がここに通うのは一夜の相手を探すため。さっき出て行った彼女は先週の相手だった。今夜もどう? とか、好きになりそう……なんて言ってくるから断っただけ。割り切った関係がいい、もう傷つきたくない。

 断った理由を聞いてくるから答えたの。

「だって気持ちよくなかったもの」と。

 そう、私が傷つきたくないから彼女を傷つけた、最低な女。


「誰かと本気で付き合う気はないんですか?」

 バーテンダーの言葉に何人かの顔が思い浮かぶ。過去、本気で好きになって去っていった女性たち。

「そう出来たらいいわよね」

「出来ない理由が?」


「ノンケばかり好きになるのよ」

 彼女は私の言葉に、あぁ……と納得したような表情をした。


 女性しか好きになれない私は、それでも恋した女性に果敢にも告白をして。

 振られることも多かったけれど、何人かとは付き合うことも出来た。

 一緒に暮らしたこともあったのに……最後はみんな私の元から去っていく。


「だって、結婚したいからとか子供が欲しいからとか言われたら、別れるしかないじゃない」

 私が決して与えられなかったものを、他の男になら簡単に与えてもらえるんだもの。

 悔しい……今は、ただそれだけだ。


「お隣、いいですか?」

 バーテンダーが他の客の相手をしている間に声をかけてきた女の子。

「どうぞ、もう遅いけどこれから飲むの? 明日はお仕事?」

 若いな、けど色気もしっかり備わっている。

「明日は休みなんです、あと一杯だけにしようかなと」

 イケる?

「なら私も! 飲んだら一緒に出ようか?」

「はい」

 笑うと、片頬にエクボが見えた。

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