【伊藤博文・大久保利通】自分でいいんですか?
大久保利通は驚いていた。自身が首相代理に選ばれたことに。伊藤博文は前の首相代理の仕事ぶりに満足できなかったらしい。しかし、伊藤博文が心臓の病のために検査入院中とは言え、こんな大役が務まるのか心配でもあった。
「天皇陛下、お目にかかれて光栄でございます」
そう、大久保利通が任された大役とは明治天皇への報告だった。緊張のあまり、自身の心臓の音が聞こえていないか心配になる。
「そうかしこまらなくてもよい。アラスカ購入からこの数年、伊藤博文をはじめこの国をよく支えてきている。そなたたちの頑張りに報いたいのだ。望みの物を述べよ」
アラスカ購入をねだっていた少年の姿はそこにはなかった。明治天皇は一人の大人として、いや国家の象徴として立派に育っていた。大久保利通は我が子の成長のように嬉しく思った。
しかし、望みの物と急に言われても困る。大久保利通は考え込む。さすがに領土のどこかを欲しいとは言えないし、だからと言って小さい望みではかえって信頼を失うだろう。なにか適度なものはないか。そのとき大久保利通はひらめいた。
「では、女性の社会進出について諸権利をください。必ずや成功させましょう」
そう、これでいいのだ。程よくかつ自分ができること。明治天皇の返事は「よろしい」だった。「そなたに大日本帝国発展の任を与えよう」と。
「大久保よ。そういえば、『かっけ』が流行っているのは知っているな?」
もちろん大久保利通は知っていた。かっけ。それは神経障害によって脚にしびれが出る病気だ。国内で流行っており、その悲惨さは大久保利通の耳にも入っている。
「あれは食事のバランスが原因だと聞いた。あれをどうにかする手段はないか? 国民が困っているのは見ておられぬ」
大久保利通は自身の頭をフル回転させた。チアミンという成分を摂取すると改善すると聞いた。では、何に多く含まれているのか。そうだ、豆類に多く含まれているはずだった。大久保利通は自分の考えを伝えると「国民の食改善にも取り組むよう」という明治天皇からの任務を与えられた。天皇陛下からのご指名だ。何がなんでもやり遂げねばならぬ。大久保利通は張り切っていた。
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伊藤博文は大久保利通からの報告を聞いて満足していた。自分がいない間も首相代理としての任務をまっとうしてくれた。明治天皇のおっしゃる通り、大久保利通は大蔵省のトップで終わる器ではない。アメリカを平定するときのコレラ生物兵器作戦を考案したのは大久保利通だ。伊藤博文は決めた。自分が首相を退くときは、後任に大久保利通を指名することを。
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