第53話 西の村の事情
「とりあえず、貴方が闇属性の魔法を使うことは理解しました。
・・・何故使えるのか、使う事への人体の負担など、
機人族としては研究の対象という意味で興味は尽きませんが、
それについては隠したい事情があるかも知れませんので
深く詮索することは止めておきます」
「・・・そう。そうね、そうしてくれると助かるわ」
クラウディアの返答から見るに、恐らくかなり後ろめたい方法によって
闇属性の力を得た、ということだろう。
人が悪魔・・・いや魔族は全部が全部悪魔ではないが、
超越した力を得るには必ず代償が要る、という事に例外はないからだ。
「ただ、認識阻害についてはどういうことなのでしょうか」
「さっきも言ったけど、これは体質みたいなものよ。
闇はあらゆる物を飲み込み、隠してしまうように、
私という存在もまた、他人によってあんまり認識されない・・・
要するに、影が薄すぎて記憶に残りにくいってことね」
「私と出会った時、そして先ほどので 合わせて二回、
私はその認識阻害のせいでクラウディアの言葉に疑いを持つことは無かったな」
「・・・普通はなんらかの要因で一度でも、自力で私の認識阻害に抗えれば
再び阻害を受けることはないはずなのだけれど・・・」
「・・・ララァ様は、そういった幻惑の類に滅法弱いので、
下手したら何度でもかかりますよ」
可哀想なものを見る目を私に向けるテスに対し、
私はなんかとりあえず力強く頷いて応える。
幼少の頃からそうだ、『幻惑と言えば狸か狐』と言われるほど、
私達獣人族狐種は幻惑魔法が得意だったりする、
だけれど私は幻惑魔法を使うも受けるも超絶苦手、
その代わりに武芸や付与魔法は才能と努力で頑張ったと言う過去がある。
「ふふ、それにしても不思議ね。会ってまだ1日も経ってないのに
私自身のことをここまで話したのは貴方達が初めてよ」
表情の変わらなかったクラウディアがこの瞬間初めて笑顔を見せた。
性格はアレだけど、元から可愛い顔だっただけに笑えば更に可愛く見える、
本当に、性格は、アレだけど。
「とりあえず悪意が無い事だけは理解した、
すぐには慣れないだろうけど・・・良い友人になりたいと思う」
「友人って関係で満足できるの?」
「友人で良いです、友人が良いです」
それからすぐ、私達は村の入口で会ったおばさんから紹介された
宿へと向かった。
おばさんから既に連絡があったらしく、経営者である息子夫婦が
笑顔で歓迎してくれ・・・ると思っていたのだが、
いや、確かに笑顔ではあるのだが、目に見えて分かるくらいに
ぎこちない笑顔であった。
「・・・何か、私達に至らぬ所があっただろうか」
「い、いえ!・・・あの、つかぬ事をお聞きしますが、
この村へはどういった用事で・・・?」
「あんた!余計なこと聞くんじゃないよ!」
「・・・?私達は首都で活動している冒険者で、
ある人を探しにここから西の村へ行く予定ですが・・・」
息子夫婦改め、主人の質問を女将が慌てて制すが、
私達は別にやましく・・・いや、やましいか。
かなりやましい事情を隠し、テスが当たり障りのない表現を使って
目的を説明する。
「あぁ!あんたら冒険者だったのかい、
俺達ぁてっきり、獣人の奴隷商なのだとばかり・・・痛ぇ!」
「仮にそうだとしてもアタシらが首を突っ込むことじゃないだろ!
・・・本当にごめんなさいね、お客さん達」
「い、いや・・・身元を示してない以上、
私達にも疑われる理由はあったから気にはしないが・・・、
どうして、私達を奴隷商の集団だと思ったんだ?」
私もクラウディアも、身なりが綺麗だし拘束されている訳ではない。
だと言うのに疑うのは、それなりの判断材料があるのだろう。
「・・・実はあんたらが行こうとしている西の村だが・・・、
行かん方が良い。あそこは今、奴隷商達のたまり場になっていて、
頻繁に、獣人族どころか人族の罪人まで奴隷として売り買いする場所に
なっているんだよ」
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