第50話 魔物と魔族の違い
『魔族と魔物の違い』
200年前の、『神の戦い』によって大陸と2つの種族が離れ離れになった時代、
それよりも以前、ずっとずっと、昔から盛んに論じられている話だ。
例えばゴブリン、私達が戦ったゴブリンは『魔物』であった、
しかし見た目は瓜二つでありながら『魔族のゴブリン』も存在している。
見た目も、生態などの特徴ある部分は全く変わらないが、
魔族のゴブリンは魔物と違い、言葉を話せる、思考できる、そして理性がある。
対して魔物のゴブリンは武器を使い、火を起こす等の知性と思考能力を持つが
言葉を理解せず、そして理性があると思えないほど、欲に身を任せ他者を襲うのだ。
それが人族にのみ向けられているのであれば、
魔物は魔族が生み出した一種の兵器のような物だと人族は疑うだろう。
だが魔物は魔族さえ襲い、魔族も人族と同様に魔物と戦っている。
人族領であれば、そこに生きる魔族はほぼ魔物で間違いない、
ややこしいか、ややこしいよな、私はややこしいと思う、
でも私達人族領の人族はまだいい、魔族の方はもっと酷いと思う。
だって同じ仲間だって思って近づいたら魔物で、攻撃されるんだもの。怖いよ。
ちなみに例の魔族の神様でさえ、
『握手しようとして手を伸ばして殴られたら魔物』と言っている。
それくらい一見すると全く見分けが付かない、それこそ
一説によると魔獣の成り立ちと同様に、魔族が淀んだ魔力を取り込み過ぎた所為で
理性を失い、野生化したものが何処か人目のつかない場所で繁殖した結果が魔物。
それが昔に語られた最有力説であったが、近年までの研究の結果、
『その説でも不明な点があり、立証するには材料が少なすぎる』と、
まぁ要するに、研究するほど益々分からん、怖い、ということだ。
「あ、見えてきましたよ」
テスが指差した先に煙が立っているのが見え、やがて建物が視界に入って来る。
「本当に勝手に村に戻って来たんだな・・・賢い牛だ」
ここに来るまでに何度も岐路があったが、動物の帰巣本能というのは大したもので
一度も迷わず、真っすぐと歩き続けた結果、無事に自分の村へ帰って来たのだ。
「あら?あらあらあら!こりゃうちのとこの牛じゃないか!
お嬢ちゃん達、この牛どうしたんだい!」
村に入ってすぐ、恰幅の良いおばさんが声をかけて来る、
この牛を知っているということはこのおばさんが、依頼人の家族ということか。
私達は牛車から降りて、事の詳細をおばさんに伝えると、
おばさんは申し訳なさそうな顔をして謝った。
「おやまぁ、そりゃうちの旦那が悪い事しちゃったねぇ。
ほんとありがとうね、お礼になるか分かんないけどね、
うちの息子夫婦がこの村で宿やってるから、沢山サービスするように
私から伝えておくよぉ、ありがとう」
牛を無事に引き渡せたことに安堵し、一息ついたところで
クラウディアが私達に声をかけてくる。
「私も、改めてお礼を言うわ、ありがとう」
「大した事じゃないよ、とにかく無事で良かった」
「何か礼にあげれるものがあれば良かったのだけれど・・・。
そうね、今度私の家に来てくれるかしら、
きっと娘も歓迎してくれると思う、勿論貴方達が良ければだけど。
それともすぐにでもと言うならこの貧相な体で申し訳ないけど」
「いえ、お礼して頂く程の事ではないですから、気にしないでください」
「そうは行かないわ、命の恩人なのだから」
「命の恩人に対して体で礼をするってかなり無礼だろ」
それからしばらく、体を差し出したい兎を2人掛かりで説得して
『気が向いたら家に行くね、多分、きっと、行けたら行く』で話が着いた。
願わくばお互い多忙とかで都合が合わず有耶無耶になっても構わない、
むしろ有耶無耶になってほしい、クラウディアの娘さんがどういう人か知らないが
要らぬ誤解で苦しめたくない、これ以上ややこしいことは御免なんだ。
・・・娘さんが母親似だったらどうしよう、
唐突に私は会った事のない娘さんの事が心配になった。
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