第46話 より楽な方に

「見えたぞ、ここからならスコープ越しに狙えるだろ」

「あれだけ拓けた場所に陣取っているなら、スコープも要りませんね」


結局あれから、折角ここまで来たのだからと言う事で作戦は続行、

茂みに潜んでいたはぐれのゴブリンを私が静かに、素早く始末することで

今の所は敵に察知されることなく、目的地に辿り着くことが出来た。

テスが慣れた手付きで銃を構えるのだが、私は1つ気になることがあった。


「テスって銃、使った事あったっけ?」

「えぇ・・・?使えるのですから、この作戦を提案した訳ですけど?」

「いやぁ、テスなら近代銃の扱いなんて簡単だろうとは思っているのだけれど」

「トロワほどではありませんけど一通りの銃種は扱えます。

 そしてこの銃はあの時即興で【作成】した私専用の物ですから、

 精度や取り回し等は問題ありませんよ」


テスが立ったまま、狙撃銃を構える。

立射スタンディングという構えだ、数ある構え方の中でも機動性がある反面

立っているのだから敵に見つかりやすく、敵の攻撃を受ける面積も広いことから

待ち伏せなどの長距離狙撃に向かない構えだ。


うつ伏せブローンの方が良くない?」

「伏せたら茂みしか見えませんよ、知識だけでアドバイスするタイプの人ですか」


パァン

火薬の弾ける音が静寂を破り、木霊する。

私の軽口に答えた直後、テスは躊躇わず引き金を引いた、


「目標倒れました」


軽口に集中を乱すことなく、ただ一撃、そして当然の如く当てた。

ゴブリンの王はあっけなく、自身が気付くことなくその命を終える。


よくある子供の冒険譚のように、激戦の末に放った攻撃で倒せば様になるだろう、

だが所詮、現実はこういう物だ、誰一人傷つくことなく、苦労することなく、

群れの首領だけを狙って倒すことが、現実で最も望まれる勝利の形なのだ。


「ララァ様の言う通りですね、王の強化が途切れたゴブリンが慌て逃げています」

「あぁ、聡い奴等がどうやらゴブリン退治を始めたらしい、

 テスはこのまま町に戻っていてくれ、私は王の首を回収する」

「分かりました、ですがくれぐれもお気をつけて」


テスと別れ、私は木々が生い茂る坂を下り、真っすぐと王の下へ向かう、


「グギャッ」


伏兵の如く茂みに隠れるゴブリンの額に目掛け、小さなナイフを投げる。

投げることに特化した、小さく、細い刃物であるが、

ゴブリンのような皮膚の柔い魔物であれば簡単に刺さる。

テスの銃に比べれば遥かに地味だし、嵩張って枚数持てないが、

音を出さずに敵を仕留めることが出来るこの武器は、昔から今も尚現役だ。


「はっはっは!その首を置いてけぇ!」

「ギャッ!?」


丘を登り、草むらから勢いよく飛び出す美少女ラブリー狐娘に驚き、

王を取り囲むゴブリン共が一斉に飛び退く、

ゴブリンの習性の一種だ、王が倒れたらその側近が次の王になる。

その為に、王の死体から装飾品を剥ぎ取り、自分を飾り付けて力を誇示する。

ただ、その側近が多かったのだろう、奪い合いのいざこざの最中に、

私が偶然現れた、要するに奇襲成し得た形になっているのだ。


「力の制限を外すまでもないな」


金色一尾の姿のまま、オーバードライブを発動する。

白尾に戻れば無制限で1/1000秒の世界で戦うことが出来るが、

今の姿では数分間を1/100秒で動くのが精々だ、

それでも弱体化したゴブリン相手への奇襲ならば十分過ぎるくらいだろう。


目に見えてゴブリン達の動きが鈍くなる、私はナイフを構えて近付き、

1匹ずつ、その首に刃を当てて、引き裂くように傷をつける。

血はすぐには出ない、だが全てのゴブリンに同様の行動を取った後に

固有技を解除すれば、周囲は一瞬でゴブリンの血飛沫で赤色に染まる。


「・・・中々、普通の冒険者と言うものにはなれないな」


ストーン級らしかぬ戦働きに、私は1人でそんな感想を述べる。

だって仕方ないじゃない、これくらい何十匹何百匹と倒してきた

元冒険者で、元神様だもの。


「とりあえず王の首を切り落とすか、丁度奴等が手頃な剣を持ってて助かる、

 保存に苦労するが・・・町で箱と塩を調達して、

 塩漬けにしてからミスティに送ればいいだろ」


ザシュっと景気良く王の首を切り落とす、

テスの銃弾は王の頭を撃ち抜き、顎付近で見事に貫通している。

手放しで称賛すべき大手柄だ、テスに見せてやりたい、嫌がるか、そうだよな。


「おぉい!!!!待てぇ!!!!!」


背後から滅茶苦茶デカい声が聞こえ、驚きで体を震わせてから振り返る。

そこに居たのは逃げ出したと思っていた、あの弓手先輩、

思い詰めた必死の顔で、私の事を見ていた、

そしてその手には弓と矢を持ち、いつでもこちらを狙える体勢だった


「え、何・・・」

「その首をよこせぇ!!!!!」


いや声デッッッッッッッッッカ


出会った時の余裕ぶった表情は何処へ行ったのやら、さながら

とりあえず最初は大声でビビらせようぜと言う素人な野盗の如く、

ただの町娘や小童なら泣いて逃げ出すだろう、

しかし私を畏怖させるにはその程度では到底足りない、


「お前、まさかとは思うが私からこの首奪って、

 自分の手柄として町に持ち帰るつもりじゃあるまいな?」

「そうだよ、仲間に裏切られて、君達にコケにされて、

 それで何も無しで、ゴブリンに負けて何もできずに帰ったなんて!」

「そうか、仮にこの首をやって、お前はどうなる?」


私の問いに、弓手先輩は宿での時のように言葉を詰まらせ、黙ってしまう。

まただ、楽な方に逃げて、またこうして黙って、そしてまた逃げ出すのだ。

ゴブリンの王はブロンズ級では歯が立たなかった、

となれば討伐難易度はシルバー級、いやゴールド級に及ぶかも知れない。


「かような大物をブロンズ級が1人で討伐した?それは快挙だな。

 ブロンズ級では勿体ない、ゴールド級くらいにせねばなるまい」


昇級の言葉に、弓手先輩は一瞬喜びに口角を上げるが、

それが何を意味するのか、分からない訳ではないはずだ。


「で?そのゴブリン如きにボコボコにされたお前が、

 ゴールド級になって、何が出来るって言うんだ?」

「それは・・・えっと・・・」

「ゴブリンの王に匹敵する敵と言えば、

 生ける石像ゴーレム・・・首無しの騎士デュラハン、は強いか。

 あぁ、最近出会ったのであれば寄生菌パラサイトグールに寄生された大熊、

 あれは弱ってたとはいえ、ゴールド級が徒党を組んで当たる相手と聞いたな」


私は首を相手に突き出すように持ちながらゆっくりと迫る。

目の前の利益に簡単に目が眩ませる大馬鹿ではあるが、

私の言葉の意味を一度理解すれば、体が自然と離れようと後退る。

それでも私は迫る、あぁ、最早ただの嫌がらせだ、

何故なら私はこいつの親でなければ先生でもない、

言葉で優しく諭す義務も義理もないのだから。


「はい、それを理解したのならこの首をくれてやろう」


笑顔でゴブリンの生首を差し出す、傍から見ればサイコパスのそれなんだよな。

案の定恐怖で、いや宿の時と同じく重圧に心が折れたのだろうか、

弓手先輩は弓を手から放し、腰が抜けたようにへたり込み、天を仰ぎ見て叫ぶ。


「うわぁああああ!!!!!!」


いや声デッッッッッッッッッカ・・・・・






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る