第24話 魔獣の森と霧異変

「あら、ララァ様」

「おお、テス、今来たか」

「あ、おーい。ララァさんとテスさーん」


ギルドから少し離れた所でひとしきりアルッセナという狂気に泣かされた後、

通りの向こうから、こちらに気づいたテスが近づいてくる。

それと同時に、別方向からロスウェルが、大柄の男を連れて来た。


「あ、そっちの女性がテスさん?

 私はミスティ、ここのギルドの職員長、よろしく!」

「ご丁寧にどうも、機人族のテスと言います、以後お見知りおきを」


テスとミスティが握手を交わし、今までのやり取りを共有する為に

話し合いを始めたところで、私はロスウェルの方に話かけることにした。


「意外とすぐに会えたな、見るに私達に何か用があるみたいだが」

「そうなんすよ、また2人の協力お願いできないかなぁーって。

 あ、こいつは俺の仲間で、『オイグ』っす。」


オイグという名の男がめちゃくちゃ野太い声で『よろしくー』と言う。

身長は人間にしては大きく190㎝くらいだが、横幅、

つまり腹回りも同じくらいあるように見える。

『デブ=そんな声』のイメージに忠実なくらいの野太い声、

やたらデカい紙袋から大量に詰められたフライドポテトを美味しそうに食べてる。


『絵に描いたようなデブ』がそこに居た。


「実は騎士団からの依頼で行方不明者の捜索頼まれたんすよ。

 で、オイグは回復魔法使えるし、行方不明者の運搬を担当するんで、

 今は腕利きの人を探してる所なんすよ」

「なるほど、しかし今から・・・あぁ、そうだ。

 お前からギルドに住む場所の都合を頼んでくれたんだな、ありがとう」

「いやいや、町じゃ何かと入用でしょうし、これくらい。

 そしたらタイミング悪かったすかね?今から案内してもらうところ、とか」


正しく、そう言って断ろうとした私を遮り、テスが話を続けた。


「事情は分かりました、私がギルドの方の対応をしますので、

 ララァ様がロスウェルさんに同行するのはどうでしょう。

 ミスティさんに聞いたところ、家はしばらく手入れをしてなかったそうなので、

 そちらは私が進めるのが適任かと思います」

「な、なにを言うか!これから2人で住む家だぞ、掃除なら2人で・・・」

「え、でも『前の家』の時はジンに片付けさせてたじゃないですか」


そこでスッと、私は口を閉ざした。

確かにそうだ、ジンに『家事もままならない者は冒険者になれん』と言って、

炊事も洗濯も掃除も、他にも私が担当する日の全ての家事を全部、なにもかも

ジンに任せていた、なんなら服や下着もジンに洗わせ、干させ、畳ませた。

そんな私と違い、テスは要領良く、てきぱきと家事をこなしていた、

その上、テスが『固有技』を使えば大体万事簡単に片付く。


「あッ・・・っす、分かりました・・・。よし、それじゃテス、あとは頼んだぞ」

「じゃ、ララァが戻ってきたら改めて私が案内するからさ、

 帰ってきたら絶対ギルドに報告来てね」


テスとミスティが手を振り、その場から離れて行く。

私はロスウェルに向かい直し、騎士団からの依頼を聞くことにした。



「なるほど、謎の霧と行方不明者か・・・」

「詳しいことは現地調査になるっすけど、

 今のところは騎士団の告知で他の冒険者などは立ち入り禁止になってるっす」

「あそこは騎士団や冒険者が実戦するのによく入るからねぇ。

 そんなところで変な事が起きたら大変だからね」


オイグが深刻な顔をして話すが、ポテトを頬張る手は決して止めなかった、

っていうかさっきから食ってるけど、どんだけ入ってんだよその紙袋。


・・・しかし、首都と魔獣の森との距離は近い。

霧の正体が不明な以上、何かしらの悪影響が出る前に対策したいと考えるのは当然。

だがそれと同時とはいえ、たった1人の行方不明者の捜索に

アルカナと呼ばれるほどの者を行かせるものなのだろうか。


「・・・もしかして、その行方不明者は何処ぞの貴族の坊とかじゃあるまいな」

「詳細にはそこまで書かれてないっすけど、恐らくはそうっすね・・・。

 気が乗らないのは俺もそうなんすけど、依頼元になんつーか、

 頭が上がらない、っていうか」

「お前も見かけによらず苦労してるな」

「そろそろ馬車が到着する時間だよぉ、南門まで行こう」



全く、人族の偉い奴らは相も変わらず面倒臭い。

そんな愚痴を誰かに言うでもなく、空に吐き捨ててから私は歩き始めた。

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