第12話 おにぎりが一番好き
それからの話をしよう
「『オーバードライブ』アウト」
リーダーにデコピンを食らわした後に固有技を解除する
世界の時間は再び私に追いつくようになる
その後の景色は、それはもう酷いものだった
ある者は吹き飛び、地面を後頭部で削りながら数メートルほど滑り、
ある者は川の浅瀬に直立した状態で膝の高さまで突き刺さり、
各々があちらこちらと自由に飛び散って行った
そしてリーダーはまるで道化師の奇抜な芸かのように
空中で十数回転した後、顔から地面に激突してしまった
囚われの店主は何が起きたかと状況を理解しようと努めるが
そこに丁度よく、後に続いてきた自警団の一団が到着し、
賊を次々と・・・
まぁそれなりに『不思議そうな顔をしながら』捕えていく。
幸い、全員失神していたが頑丈さだけはあったらしい、全員生きていた。
本当に良かったと思う、数年ぶりの手加減無し・・・
じゃなくて手加減はした、ちょっとだけ。だから生きていて良かった。
そしてもう1つ、良かったことがある。
その後、賊の連中は私と対峙した時の記憶が一切なくなっていた、
自警団の聴取でも白尾だった私のこと、いや私と遭遇した時からも思い出せず
思い出そうとすると強い頭痛に苛まれるらしい
故に、私の事を知っているのは今目の前に居る『店主』だけだ
「しっかし・・・良いのかい?
命を助けてもらった、その礼が『握り飯』2つだけで良いって」
「構わんさ、マッドディアの肉売ってなかったし・・・。
それに私はおにぎりが好物なんだ、これも立派な報酬だよ」
太陽が大地を完全に照らし始めた今、私達はこのミナトの町を発つことにした。
自警団を始め、賊に悩まされた人々から感謝され、引き留められたが
私達には向かうべき目的地がある、あまり長居するつもりはなかった、
だからさっさと荷物をまとめて居たのだが、
最後に店主がどうしてもと言い、こうして見送りを受けている
「あー、これだけは言わせてくれ、お嬢ちゃん。
俺は、金払いの良い客は神様だと思っている。
神様には出来る限り最上のサービスを心掛けているんだ、
だからだな・・・まぁ、今度はマッドディアをご馳走すっからよ・・・。
また来てくれよ、『神様』」
「あぁ、また来るから、ずっと元気で居ろよ」
再開を約束した別れの挨拶なんて、これくらいあっさりした方が良い。
じゃなければ名残惜しさにいつまでも歩けずに居るからだ。
これは昔、仲間と旅をしたときに得た教訓のようなものだ。
「『神様』・・・ですか、今朝は随分はしゃいだご様子で」
「うん・・・うん、ごめん」
「気にしてませんよ、ララァ様がそこまでなさったのはきっと、
仲間の誰かの悪口を言われたからでしょう」
「まぁ、そんなところだ」
「神獣ライカが再び世界に姿を現した、
その事を誰かが知れば世界を驚かす騒動になるのは確実です。
ですが、それを知った上で仲間を想うララァ様の事、私は好きですよ」
そう言うテスの手にはおにぎりが1つ、それが私達の『昔からの約束』だ
狐族の里に迷い込んだテスを私が見つけた。
なんか元気がなかったから、持っていた2つのおにぎりの片方をあげた、
テスは何か言い淀んでいたが、私が無理やり食べさせたのだ、
するとテスは驚き、あっという間におにぎりを平らげた。
それから私とテスは仲間で友人で・・・
『何でも2つは1つずつ』
それが私達の『一番の約束』となった。
「なぁテス、お前はなんで私達と旅をしたんだ?」
「私達・・・と言うと昔、ですか?」
「そうそう、ほら私達って皆、何かしら夢とか持ってただろ」
そうですねぇ、と少し考えて、テスはこう答えた
「美味しいものを食べる為、でしょうか」
「機人族って食事も睡眠も必要ないってお前言ってたよな」
「そうですよ、だからララァ様が消えてからずっと、
機人族らしく食事も睡眠もせず、ずっと貴方を探していたのですから」
「それはなんか、ほんとごめん」
「言ってませんでしたけど、機人族には味覚は無いのです」
は?聞いてないが?いや今言ったのか、そうか、は?
だってずっと、え、じゃぁ今まで美味しいとか言ってたの演技か?
「演技か?って言いたそうですけど違います。ああ、いえ。
味覚がないのは本当ですが、それでも私にとって、
ララァ様との食事は満たされて、本当に味があるように感じました。
私は機人族の神という立場ですが、そんな私でも
その理由は今も究明されていません。
ですが初めて貴方に頂いたおにぎりの味を今でもはっきり記憶しています。」
「テス・・・」
「ですから、貴方が居なくなったあの日からすぐ私は行動しました。
貴方の痕跡から空間移動の魔法を解析し、
追跡できるように独自で魔法の構造を組み上げ・・・
そして偶然育てることになったジンと共に、貴方の世界を訪れました」
「・・・へへ、なんかそこまで言われると照れるな・・・。
私のこと好き過ぎるんじゃないか?」
「・・・?ええ、好きですよ。『愛してる』と形容できるくらいに」
風が止まった、さっきまで囀っていた鳥の声も、何もかもが聞こえなくなった。
決して固有技を使ったわけじゃない、
むしろ私が今、世界から置き去りにされている
「アイシテル・・・?」
「ええ、昔からずっと、ララァ様は気づいてはなかったですけど。
それで、今言いました、ララァ様はどうですか?」
「あ、えっと・・・あー、あぁー・・・」
言っておくがテスは美人だ、それもそこらの女性とは段違いだ
超美少女の私がそう言えるくらい美人だ、だから完璧美人だ
そんなテスにこんな風に言い寄られて、平気な訳がない。
ちなみに私は同性の恋愛には理解がある、むしろ寛容だ。
いやむしろ知らない男よりテスが良い、テスじゃないと嫌だ。
って言えたらいいのになぁ
こういう時に限って恥ずかしさで言葉が上手く出てこない
だってしょうがないじゃない、恋愛経験ゼロなんだもの。
「・・・す、すごく、嫌いじゃない」
照れ隠しの一言、それが私の精一杯だった
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