第6話 ミナトの町

それから私達は歩き続けた

1日、2日、宿に恵まれず、野宿をしながら、

ひたすら歩き続け、やがて思い出したことがある


あの子供向けの地図、一見するとこの大陸はとても小さいと思える。

だが実際のところ、縮尺が狂い過ぎているのだ

本物の大陸は馬鹿みたいに広く、

北の端から中央の『血染め境界線』までの距離は

ざっと綺麗な街道を歩いたとしても直線距離にすると1カ月ほどかかる


そう、人族領の縦の距離、徒歩1カ月分なのである


「なぁテス、もう町には着くのか?」

「そうですね・・・あ、ほら。見えてきましたよ」


太陽が丁度最も高い位置に上った頃だ、

街道の先に木造りの門らしきものが視界に入り込む

そして近づくにつれて、その全容が見え始めた時、私は小さな感嘆の声をあげた


「凄いな・・・大昔にはこれほど大きな町はなかったぞ」

「機人族、精霊族の協力もありますが、何より全ての人族の努力の結果ですね。

 魔族領も、人族と同じくらい文明が発展していますよ」


「おや、お嬢さん達旅の人かい?ミナトの町は初めてかね」


門の前から見える活気に関心する私達に、門番らしき男が声をかけてくる

身なりは軽装であるが革製の鎧と小手を付け、

腰には片手で持てる大きさの剣を下げていた。

その恰好を見て、私は直感で感じた事を言葉にした


「あんた、自警団って奴?ミナトってのはこの町の名前か?」

「あぁ、そうだよ。このミナトは商売だけで発展した町でね。

 色んな国から様々な売り物がこの町を通ることから、海の『港』から来てるのさ。

 そしてこのミナト、国やギルドを介さず、商人の組合が仕切っていてね、

 トラブルこそ多いが、色んな商人達が好きに商売するのがこの町の魅力だよ」


国が仕切れば税を取られる

ギルドが介入したらトラブルはなくなるが金は取られる

安易ではあるが、自分達で治めれば損失を無くすことができる、単純な話だ

だが、おおよそ半日歩き回ってやっと町の全てを見て回れるかどうか、

それほどの大きさの町が町としての形を保つのは相当な苦労があるだろう。


「それで、お嬢さん達は旅行・・・だろうな。

 商人と言うには荷物が少ないし、傭兵や冒険者にしては服が綺麗過ぎる。

 気分を悪くさせてしまうなら謝るが、今はタイミングが悪い。

 早めにこの町を通り過ぎた方がいいぞ、特に狐耳のお嬢ちゃんはな。」


自警団の男が私の顔を見てそう言った、

その言葉の意味を考え、理解することはそう難しいことではない


「私が獣人族だからか?だけど私は上位種と言って

 人族の中では多少なりとも権利が保障されているはずだが」

「国のお膝元ならな、だけどここは所謂自治区って奴だ、

 悪い言い方をしたら無法地帯とも言える。

 商人組合だって好きで犯罪を見逃してる訳ではないが、

 どうしても目の届かない事もあるってことさ」

「ふむ・・・留意しておくとしよう、その親切に感謝する」


自警団の男と別れ、私達はなるだけ人通りのある場所で

今後の方針について話し合うことにした。

男の話では、ここにギルドの支部は無い、

であるならば、すぐにでもこの町から一番近い町に向かうべきだろう。

流石のテスも大陸全土を調べているわけではなく、

不本意だがここで一度、情報収集が必要になりそうだ


「情報収集と言えばやはり、王道の宿や酒場だろうな」

「えぇ、丁度お腹も空きましたし、向かいましょうか」

「うむ、私の奢りだ、好きなだけ頼んでいいぞ。

 路銀として金貨100枚、財布に入っているからな」

「わぁ凄い、簡単な日雇い労働者の生涯収入5、6人分くらいですね」


テスにそう言われ、私は手に持った革袋に目を向ける


この世界に流通する貨幣は『銅貨』『銀貨』『金貨』、

銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚になる。

そして金貨でも取引できないものは小切手を使う事もあるし、

未だに物々交換が成り立つ地域も珍しくはない。


日雇い労働者が運良く仕事にありつけたとしても、肉体労働なら銅貨10枚が相場だ

酒場でパンと水を買うくらいなら1食分で銅貨1枚か2枚、

だがそういった相場なんて地域によっては変動するから不確かな物だ


そう考えると金貨100枚入ったこの革袋の重みがより一層増した気がしなくもない。


「まぁまぁまぁ、とにかく宿を押さえよう、あそことかどうだ?」


露店が並ぶ通りに目立つ『INN』の看板を指差し、私は提案した。

野宿の寝袋よりは確実にまともなベッドで惰眠を貪りたい、

美味しい料理を沢山食べたい、果物のジュースも飲むぞ。

そんな楽しみと期待を胸に、私は宿の扉を開いた



「とっとと失せなこのクズ野郎ども!!」



が、聞こえてきたのは思わず耳を塞いでしまうほどの、男の怒声なのであった


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