第5話 子供向けの地理

「それでは、これよりララァ様の為に

 今のこの大陸の情勢について地図を使って説明します」


街道から少し離れた原っぱに、私とテスは居る。

数年振りの外の空気と風は私の世界とは似て非なる物だと実感する。

何が言いたいかと言うと、風が気持ちよくて眠い、

雲一つない青空を見上げて草原の上で眠る、最高ではなかろうか。


「ララァ様にも分かりやすいように簡単かつ重要な場所だけ載ってる地図です。

 寝ずにちゃんと聞いてください、寝たら置いていきますよ」

「すみませんそれだけは。」


瞬時に意識を覚醒させ、地に広げられた地図を見る。


地図は確かにとてつもなく簡単だった、

大陸の形の絵に、おおまかな位置に城の絵や山の絵が描かれているだけだ。

街道や川、森などはほとんど書かれていない、

恐らく『児童向け』に作られた物だということは分かる。


「え、私って子供向けの地図じゃないと理解しないって思ってる?」

「それでは説明しますね」


私の疑問に答えることなく、テスは淡々とだが分かりやすい説明を始める。


この大陸は元々1つの広大な陸だったが、

伝承にあったようにタナトスとゼルが盛大に争った影響で

陸が大きく南北に分かれ、更に北の陸の東西に

小さな陸がそれぞれ1つずつ分かれた。


その南北の大きな陸地を中央に陸地を創って繋げたのが

『機神テスタ』であり、こいつの力のおかげで

中央の陸地はまるで砂時計のような形をしているのだ。


「例の『天使の啓示』によって主な種族にそれぞれ領土が定められました。

 大陸の北が『人族領』、人族と定義されていますが、

 獣人族や精霊族・・・精霊族の中でもエルフなど『人寄り』が

 この人族領に広く住んでいます。

 そして南が『魔族領』、当然ながら魔族が住む領土になります。

 人族領の東にあるのが『精霊族領』、西が『機人族領』、

 大陸はこの4つの領土に分けられています。」


テスが指を差しながら領土について説明する。

聞けば聞くほど、私が引き篭もってる間に世界は大きく変わったのだと理解した。

その上でどうしても気になることを、私はテスに聞いた。


「この人族領の『首都タナトス』というのは聞いたことがないぞ」

「そうですね、ここは元々タナトスが生まれ育った町があった場所なのですが、

 『英雄タナトスの町』からやがて国を興し、

 今では『人族の国の首都』と呼ばれるまでになりました。」

「ふむ、魔族の首都は『アビス』で・・・。

 では、この中央の『血染め境界線』と、それを挟むように立ってる砦は?」

「うーん・・・調査によるとその中央を境に、

 人族と魔族でお互い侵入しないように牽制し合っているみたいです」


人族と魔族が?

それを疑問に思えるのは、私達が『当事者』だからだろう。

実際の英雄タナトスと魔神ゼルノアは親友と呼び合う仲であったが、

伝承では大陸をぶち壊すくらいの大戦争をした敵同士である。

・・・その伝承の真実を語る機会が今後あるのかは分からないけどね。


「で、この機人族領の前にそびえる『ライカ山脈』ってなんだ?」

「ええ、私も気になって聞き取り調査を行いました」


テスは待ってましたと言わんばかりにメモを取り出した。


「名前の由来として『神獣ライカ』が神格を得る為に

 命懸けの特訓をしたところから『ライカ山脈』と呼ばれたみたいです」

「えぇ・・・私生まれて一度も山で修行したことないぞ・・・」

「そしてこのライカ山脈には『神獣ライカの眷属』を名乗る、

 正座で空を飛ぶ、体長10mの熊が徘徊しているとのことです」

「眷属なんて認めた事ないし、そもそもそんなの見た事ないぞ」

「その眷属は山脈の頂にある、美しい泉でよく水浴びをしているとのことで・・・」

「はぁー、綺麗好きなんだな」

「眷属を倒すには大陸に散らばった7つの宝玉が必要です」

「逆に見てみたいが!?」

「同感です、するべき事を終えた後に調査に向かいましょう」


地図を片付け、私とテスは立ち上がる。

出来る事なら今すぐにでもそのライカ山脈に向かいたい気持ちはある。

だが我々に今必要なのは、活動する拠点と、冒険者登録である、

その目的をまず果たすべき、その方針は私も納得している。


7つの宝玉がないと倒せない空飛ぶ10mの熊をめちゃくちゃ見たい気持ちはあるが。


「この街道を進めば交易で賑わう大きい町があります。

 冒険者ギルドもあるでしょうから、そこを目指しましょう。」



めちゃくちゃ見たいが、今は我慢だ。











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