第3話 弟子は旅立つ

夜が明けて、朝日が昇る


人が1人通れる程度の高さと幅の円形の光の前に私達は居た

これは隔離世界と、元の世界を繋ぐ門

ここを通れば、私とテスはともかく、

ジンはもうこの隔離世界に戻ることはできない


「元の世界の常識はテスから学んでいるから問題はないだろうが、

 まずは人族の大きな町を目指し、冒険者ギルドで登録するんだ。

 ジンの実力だけなら『ダイヤ級』か『マスター級』だろう。

 だが皆最初は『ストーン級』から始まる、

 生活は苦しいかも知れないが、ひたすら実績を積み重ねるしかない」


『冒険者』と言う職業は人族のみが定める職業であり、

その冒険者には等級がある

これはどんな空想の冒険者物語でも存在しているルールだ。


この世界の冒険者等級は全部で『実質8等級』

ストーン級、スチール級、ブロンズ級、シルバー級、

ゴールド級、プラチナ級、ダイヤ級、マスター級


そしてマスター級の中でも、人族の国家に認められた『22人の伝説の冒険者』

これをタロットカードに準えて『アルカナ』と呼ばれている。


マスター級になれる存在などほんの一握り、

その中の更に上位22人になるなど不可能に近いだろう。

しかしマスター級、いやダイヤ級になれば、

国の有事になりえる事象の対処や国からの依頼の参加資格を得ることができ、

当然ながらその見返りの金額は破格の物になる。


逆に新人が属する『ストーン級』については簡単だが

その日の寝食になんとか足るだけの小銭しか稼げず、

多くの冒険者は日雇いの仕事を兼業するのがほとんどだ。



・・・我が弟子にそんなみすぼらしい生活をさせるわけにはいかぬ!



「そういう訳でだ、これは冒険者を志すお前に対する選別だ。

 1年は遊んで暮らせる金貨が詰まった袋と、

 私がコレクションしていた火炎竜の牙と鱗と・・・」


背に隠していたつづら箱からせっせと物を出して説明するも、

ジンは両手を×の字に組み、断固として受け取り拒否をしてきた


「先生、気持ちは嬉しいですが心配しなくても自分でなんとかしてみせます」

「むぅ・・・それならせめてこれとこれを受け取れ。

 両方とも、私がお前の為に作ったんだ」


あれやこれやと見せていた餞別をつづら箱に戻し、

私は1本の槍と、服をジンに見せた


槍はジンが最も得意とする武器だ。

柄には精霊族の住処に使われている大樹の、特に丈夫な部分で削り出し、

槍頭と石突には魔族の領地でわずかに産出されている魔石を使い、

装飾に私の毛を編み込んだ紐、それに付与魔法をふんだんに盛り込んでいる


服の素材は概ね魔物の素材で構成されている。

あらゆる属性魔法を耐える為に『火炎竜』や『水氷竜』などの皮を繋ぎ、

軽量化と丈夫さを保つために、特殊な植物繊維を編み込んだ布を使う。

機動力こそ武術を扱う者の命、それを失うことなく防御力もある、

我ながら至高の一級品であると胸を張るほどの出来であった。


あ、私の毛を編み込んでいるのは私の毛、というか

『強い狐族の毛には強い魔力を込めやすい』からと言う理由であり、

決して変なフェチズムとかではなく、

付与魔法の効果を高める為、至極真っ当な理由なのである。


「・・・ララァ様、ちょっと」


横で見ていたテスが、私から槍を取り上げ、何か魔法を行使し始める

テスの目の色が若干変わる、その微細な変化に対し、

私はそれがどういう魔法かを一瞬で理解した


「か、『鑑定魔法』しなくても変な物は入れてないぞ・・・」


鑑定魔法には大きく分けて3種類ある

物の価値を調べれる『宝物鑑定』

その物にどういう素材が使われているか調べる『素材判定』

そしてテスが今使っているのが・・・


「『不壊』『装甲貫通』『軽量化』『自動属性付与』『幸運』・・・。

 凄いですね、調べるだけでざっと50種類は『付与魔法』が使われています』


その物にどんな付与が使われているかを調べる『付与鑑定』だ。


「流石神様、と言いましょうか。

 1つの武具に付与できる効果は国家が認める付与師でも精々3、4種類。

 装飾にご自身の毛を織り込むことで、反則レベルで付与を盛り込むとは」


過保護が過ぎる、と言いたげな視線を向けられながら、テスから槍を返してもらう

仕方ないじゃないか、と言う視線を返したが理解してはもらえないだろう

ジンは自慢の弟子であり、家族のようなものだ

家族を命に関わるかもしれない、危険な世界に放り込むのだ

どこぞの冒険物語の王様みたいに勇者に木の棒だけ持たせて送り出すとかいう

鬼畜外道な行い、決してあってはならぬことだろう


「ジ、ジンなら分かるだろう?この親心に似た師の思いやりを」

「先生・・・」


ジンが私になんか、普段愛想悪くて多分数年振りになる微笑みを向ける。

ほら見ろテス、ジンは私の思いやりを理解してくれるのだ


「先生、過保護が過ぎます」



ジンは容赦なく、槍に付いた飾り紐(私の毛入り)を引きちぎったのだった










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