第10話 幼馴染は褒められる
「
連日のように和気あいあいと、机を並べて食べている姿を見る。
「自分で作ってるの?」
「え、っと、……は、はい!」
理代の話し方は依然としてぎこちないものの、表情が前よりも柔らかくなった気がする。
「すごーっ!」
褒められると、謙遜しながらも頬が緩んでいた。
「人参の切り方とか、ご飯の上に敷かれている海苔のデザインとか、細かいところまで凝ってるんだね」
「……あ、じ、時間はかかるけれど……その方が、作ってて楽しい、から……」
「アタシなんて面倒だからいつも購買だよー」
はむはむとあんぱんを咀嚼しながら久須美は言う。
「……い。おーい
「……………………もちろん聞いてる」
一緒の机で食べている剣村が訊ねてきたが、理代たちの方に意識がいっていて反応に遅れた。
「タイムラグありすぎだろ。絶対聞いてないパターンじゃん」
「……すまん。本当は全然聞いてなかった」
悪い、と眉を下げて謝る。
剣村は温和で能天気なタイプだからか、笑って許してくれた。
「今度はちゃんと聞いてくれよ。あのな、翠ちゃんがもうほんと可愛くて今日も朝は翠ちゃんの目覚ましボイスで起きてきたんだわ。目覚ましこれに変えてからは寝坊する日がなくなってさー、驚くくらいすっきり起きられて……」
オタク特有の早口で推しキャラの目覚ましボイスについて語り始める剣村。
楽しそうに話す剣村に対し、俺は呆れ混じりに相槌を打ったのだった。
* * *
放課後。
今日は剣村とショッピングモールへ行くことになった。
数日前に理代が、久須美や椎川と行ったところだ。
ここらへんで大きい店といったらそのショッピングモールが一番に上がる。
内部にある店でたいていのものは揃うからだ。
学校からも近いし、利便性抜群というのも大きい。
だから、放課後に寄る生徒も多いのだ。
剣村とまずはアニメショップへ寄る。
漫画、ラノベ、グッズなど、様々な物が陳列されたこの場所は、オタクにとっての神域だ。
剣村は早速食い入るようにグッズを吟味し始めていた。
俺は、有終のアトランティカのヒロイン、ティカのラバーストラップを購入する。
ショッピングモールに行くなら買ってきてーと、理代にお願いされたものだ。
会計が終わっても、剣村は特定のスペースから微動だにしていなかった。
まだまだ時間がかかりそうなので、別の店へ行くことを告げて、売り場を出る。
ふらふら歩いていると、ロボットのプラモデルがたくさん売られている店を発見した。
本当になんでもあるなこのモール……と感心しながら、袖を引かれる思いで店内へと歩みを進める。
中は狭い敷地に大量のグッズが陳列されており、たくさんのロマンが詰まったような印象を受けた。
好みのロボットプラモデルのコーナーへ行き、陳列された商品箱を眺める。
プラモデルは組み立てる工程は心躍るし、飾ると見るたびに幸せな気持ちになれる。
一度買うだけで二度楽しめるからかなり好きだ。
家に何個か飾っているが、お小遣いだけで欲しいものは一部しか買えない。
この店には他ではなかなか見ないようなものもいくつか置かれていて、喉から手が出る思いだった。
絞ってどれか一つだけ買うことを決心する。
非常に悩んでから、とある箱に手を伸ばした。
その手が、他人の手とぶつかる。
プラモデル選びに夢中になっていたため、視野が狭くなっていたようだ。
「す、すみませ――」
「ごめんなさい……って幸田くん!?」
横を向き、謝罪を口にしかけたところで相手が椎川だったことに衝撃を受け、言葉に詰まる。
俺と同様に、椎川も驚きに固まっていた。
「……椎川さんも、プラモに興味あるのか?」
「え!? い、いやそそそんなことはないよ? 偶然気になって見てただけだよ……」
必死に弁明を始める椎川。
普段の落ち着きはどこへいったのやら。
しどろもどろになっていて、顔はほんのり赤くなっている。
とりあえず、嘘を言っていることは一瞬で見抜けた。
学校では清楚で優等生な椎川がプラモ好きとは意外性がある。
その意外性が羞恥に繋がって、それを隠そうと躍起になっているのだろうか。
「隠さなくてもいいんじゃないか。プラモ好きの女子もいるだろうし」
「そ、そうかな……変じゃない?」
椎川は確かめるように俺に訊く。
「意外だとは思ったけれど、別に誰が何を好もうと自由じゃないか。俺的には話せる相手が増えて嬉しいなと思う」
理代だって男性向けの漫画をよく読む。
だから別にどんなものを好きになろうと、俺は気にならなかった。
むしろ自分が好きなものを誰かと共有したいから嬉しいくらいだ。
「そっか……ありがと、幸田くん」
そのまま二人でプラモデルを見ていると、椎川がどこか懐かしむように話を始めた。
「私ね、お兄ちゃ……兄の影響でこういうかっこいいものに幼少期から触れてきたの」
懐かしむように目を細めながら、椎川は話す。
その瞳はどこか遠くを見ているようだった。
椎川は兄に影響されてプラモを好きになったのか。
やはり近しい人が好きなものは、影響を受けやすいなと感じる。
俺も理代に勧められて好きになったものがあるし、反対に理代が今熱中しているもののなかにも俺が勧めたものが数多くある。
「最初はなんとなくアニメ見たり、おに……兄とプラモデルを一緒に組み立てる程度だったんだけど、そのうち自分でも買い始めたりして……」
椎川は内にある好奇心を抑えきれないかのように瞳を輝かせる。
「でも、周りの子はこういうのに興味ないだろうから、なかなか打ち明けられなかったの。私がロボ好きなことを知ってるのは茜くらいだよ」
そこまで言い切って、椎川は俺の方を向いた。
彼女のダークブラウン色の瞳が、俺の心を探るように見る。
「幸田くんは、どのロボが好き?」
「俺はあれが好きだな」
上の方に置かれている大きな箱を指さす。
このアニメに出てくるロボットの人気ランキングを開催すれば、恐らく三番手以内には入ってくるであろうロボットだ。
絶望的状況に突然現れ、二刀流で敵を片っ端から切り捨てていくシーンはきっと誰もが見惚れたことだろう。
俺もそのかっこよさに惹かれたうちの一人であった。
「終盤で出てきたロボットだね。両手に持つ二本の剣で敵を薙ぎ払うシーンはすごくかっこいいよね!」
椎川はすらすらと解説を挟みながら共感を示す。
「椎川はどれが好きなんだ?」
「私はね……これ」
椎川が指したのは、最強の敵と有名なロボットだった。
強靭な見た目に、黒を基調とした外見。
主人公たちが苦戦を強いられる元凶となった、とてつもなく強いロボットだ。
「敵だけれど、銃の光線で一網打尽にするのがかっこよくて……!」
好きな話をしている椎川は、普段の表情とは違って見えた。
恍惚とした表情で、語調も弾んでいるように聞こえる。
俺はそんな彼女と趣味の話をするのが楽しく感じていた。
「……あの、今日のことは誰にも話さないでもらえると助かるなぁ……」
「ああ、わかった」
それじゃあね、と言って椎川はプラモデルの箱を持ってレジへ向かう。
意外な秘密を知った一日だった。
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