ある夢の話

 夢を見た。


 真っ白な世界に大きな壁があった。

 無性にその壁を壊したくなって、壁に近づいていった。

 壁には大きく「夢」と書かれていた。

 気にせず壁を殴り付けた。びくともしない。

 今度は壁を蹴り付けた。壁の唸る音が聞こえた。


 いける。

 何度も何度も何度も何度も蹴り付けた。


 そのうちヒビが入り、悲鳴がし、遂にはガラガラと音を立てて壁は崩れた。

 よし!とガッツポーズをしたのもつかの間、壁の向こうから真っ黒い液体の波が押し寄せてきた。


 ビックリしている間にコールタールのようにねっとりとした液体に飲み込まれた。

 波に押しやられ、壁の穴をあけたところからだいぶ離された。

 頭から液体を被ってしまい、真っ白い服は真っ黒になった。


 なんなんだ、まったく。


 纏わり付く液体のねっとりとした感覚が妙にリアルで、気持ち悪い。

 水分を含んだ服が重い。

 せっかくだ、穴の向こうへ行ってみよう。


 重い服にふらふらしながら穴にたどり着いた。

 少しばかり狭い穴をくぐり抜けると、そこには夜の街が広がっていた。

 夜の街の空の上。

 そこに立っていた。

 上には星が瞬き、下には眠らない都会の明かりが灯っている。


 穴の方を見ると、ぽっかり開いた穴の上に、「現実」と書かれていた。


 なんの冗談だ。

 それ以前にこれは夢だ。

 悪い夢。

 覚めれば、おしまい。


 覚めろ覚めろ覚めろ覚めろ。


 覚めない。なんで?

 座り込む。

 夢の中で眠れば覚めるはずだ。漫画で読んだことがある。


 横になって目を閉じた。

 暫くして目を開けたが、覚めてなかった。

 朝になれば、覚めるよね。


 夢の中の現実の空がだんだん白みはじめる。

 あ、朝だ。

 もうすぐ覚める、はず。

 水平線に光の線が伸び、その真ん中から太陽がゆっくり昇り始めた。


 朝だ。朝だよ。覚めろよ自分。

 覚めない。

 どうして?

 わんわん泣いた。


 目覚めない自分が怖い。夢が夢でなくなっている。

 わんわん泣いて泣いて泣いた。


 そんな夢を見た。

 起き上がると、目の前の壁には相変わらず大きな「夢」の文字があって、憎たらしい。

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