愛妻弁当
「ごめんなさい、今日はお弁当作れなくて」
今朝、妻にそんな風に言われたのを、お昼の時間になって思い出した。
最初はコンビニへ行ったのだが、コレというものがなく、会社近くのスーパーへ足を向ける。
そこのお弁当コーナーを覗くと『愛妻弁当』という名前のついた弁当を見つけた。
木目をプリントしたポリスチレン容器で、なかみの見えない作りになっている。値段はワンコインの500円と、この店ではお買い得だ。
どうせ名前だけ、と思ったものの、何が入っているのか気になったので、試しに買ってみた。
会社のデスクに戻り、フタを取る。
彩りや栄養バランスの考えられたおかずに、真っ白なごはん。食べてみると、普通にうまい。
コンビニ弁当とも、一流シェフが拵えたものとも違う、家庭レベルでのおいしさだ。
見た目は悪くないし、普通のお弁当と違ってより手作り感が感じられる。これはこれで悪くない買い物だ。
辺りを見渡すと、同じような容器の弁当を食べている社員が何人かいる。
愛を買う時代なのかな、と思いながら、500円の弁当を平らげた。
帰宅して、妻に弁当の話をしようと考えていると、
「わたし、パート先を変えようと思うの」
そんな話を聞かされた。
今の職場に不満が多いことは聞いていたし、近所の仲が良い奥さんも行っている職場だそうなので、特に反対はない。
その旨を告げると、妻は嬉しそうだった。
またお弁当のない日、あのスーパーへ弁当を買いに行くとやはり『愛妻弁当』が売っていた。
会社でフタを取ると、やはり普通にうまそうな内容だ。
「あ、先輩の弁当には卵焼き入ってるんですね、良いなぁ」
同じように『愛妻弁当』を買っていた後輩にそう言われた。後輩のものと比べると、なかみがだいぶ違う。
後輩に羨ましがられた卵焼きを口にいれると、よく知った味がする。
妻の作る卵焼きの味だ。
そういえば、妻の新しいパート先の仕事内容を聞いていない。
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