転身

天川裕司

転身

タイトル:(仮)転身



▼登場人物

●野潟玲子(のがた れいこ):女性。38歳。独身OL。極度の男嫌い。独立心が強い。転身後は「小和田」として生活する。本編では「小和田(玲子)」と記載。

●瀬川百合子(せがわ ゆりこ):女性。36歳。玲子の会社の後輩。性格が少しだけ玲子に似ている。

●岡田元治(おかだ もとじ):男性。40歳。玲子に車でハネられる。本編では「男・男性」等とも記載。

●上司:男性。50歳。新しく働き始めた貿易会社での玲子の上司。一般的なイメージでOKです。

●箍葉 亜芽瑠(つげは あめる):女性。30代。玲子の本能と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●某デザイン企業:玲子達が働いている。都内にある一般的なイメージでお願いします。

●New World to Ruin:お洒落なカクテルバー。玲子の行きつけの飲み屋街に知らない内に建っていた。亜芽瑠の行きつけ。本編では主に「カクテルバー」と記載。

●貿易会社:小和田となった玲子が新しく働き始める。一般的なイメージでOKです。

●街中:会社帰りの道などこちらも一般的なイメージでお願いします。


▼アイテム

●World of Dominance:亜芽瑠が玲子に勧める特製の液体薬。これを飲むと独立心が強化され生活は充実するが、更に男への敵対心を覚えさせる。

●Turnover:亜芽瑠が玲子に勧める特製の液体薬。これを飲むと外見上の性別が転身させられる。外見だけなので指紋や性器はそのまま。


NAは野潟玲子でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたは女嫌いですか?それとも男嫌い?

こういう男性・女性、現代では少し多いように思えます。

時代がそうさせたのでしょうか?

本当は好きなのに嫌いと言ってしまう。

でもその生活が長く続けば本当に相手の事を嫌ってしまい、

男の人は女嫌い、女の人は男嫌い、

そんな習慣が身に付いてしまうもの。

今回は、極度の男嫌いの女性にまつわる

ちょっと悲惨ながら不思議なエピソード。



メインシナリオ〜


ト書き〈デザイン企業〉


私の名前は野潟玲子(のがた れいこ)。

今年、38歳になる独身OL。


この会社には女性しか働いていない。

だからここを選んだ。

そう、私は生来の、極度の男嫌いの性格なのだ。


別にこれと言って理由はないが、

男性という生き物を生理的に受け付けない。

もって生まれた性(さが)とも言うべきか、

私はその宿命から逃れられないでいた。


百合子「ねぇ野潟さん、今度一緒にどこかディナーでも行きませんか?そんでそのあとは喫茶店にでも行って、綺麗な夜景スポットでも見に行けたらイイなぁなんて思ってるんですけど?」


玲子「あ、良いわねぇ♪行きましょっか。そうね、今度の週末なんかどうかしら?私その日ちょうど空いてるし♪」


今日も後輩の百合子さんからお誘いが来る。

彼女は私の部下ながら年齢が近かったのもあり、

仕事でもプライベートでも仲が良かった。


だからこうして時々ランチやディナーを一緒に楽しみ、

そのあとはレジャースポットやカクテルバーなんかに行って

お互いの近況を報告し合ったり将来の夢なんかを語り合ったりしてる。


彼女とはとても気が合う。

と言うのも、実は彼女も私に似て少し男嫌いの性質があり、

「生涯、独身を貫く」

なんて私と同じような事を言っていたのだ。


ト書き〈トラブル〉


そして週末。

私と百合子さんは約束通りディナーへ行って

そのあと喫茶店に行き少し談笑してから、車を走らせ、

綺麗な夜景スポットが見える丘まで来ていた。


玲子「う〜ん、気持ちが良いわぁ♪こんな綺麗な景色を見れるトコがあったなんて、百合子さん有難うね♪」


百合子「いえいえ、私も野潟さんと一緒に来れて嬉しいですから♪あ、あの野潟さん…」


そのとき彼女は少し驚く事を言ってきた。


「私と一緒に居ると安心できる…」

「私の事が自分のずっと前からの憧れだった…」

「私、実は野潟さんの事が前から好きだった…」


そんな事を彼女は、はにかみながらはっきり言ってきたのだ。


玲子「え!?」


もちろんそうなったけど、でもその理由は、

「私たち似た者同士だから、このままずっと生涯を共にできたら嬉しい」

と言うもので、決して邪な気持ちからじゃなく

純粋に手を取り合って人生を歩んで行けたら…


そう彼女が願っている事が分かり、

私も少し安心して、彼女がそう言ってくれたのを喜んだ。

そして「こちらこそ、どうぞよろしくね」

と優しい気持ちで私も彼女に応えていたのだ。


(トラブル)


でも、それから僅か数カ月後の事だった。


玲子「ちょっと!私とずっと一緒に居てくれるんじゃなかったの!?こんな抜け駆けのような形で自分だけ幸せを掴むなんて…!」


百合子「ご、ごめんなさい…!」


百合子はなんと、舌の根も乾かない内に

自分だけ他に良い男の人を見つけてしまい

その人と恋仲になり、やがては結婚する…

そんな約束まで取り付けていた。


それが分かった時、

さすがに裏切られたような気持ちになってしまい

私は彼女を思うままに責め、

「結局あれは全部嘘だったのね!」

なんて我儘と逆恨みから

彼女の存在を全て自分の内から蹴散らした。


百合子はそのまま私の元から去ってしまい、

その後、2度と私に近づく事もない。


これをきっかけに、

その日から私はどんどん心と生活が荒れていった。


ト書き〈カクテルバー〉


玲子「ふぅ。ホントつまんない…。今日はどっか飲みに行こかな」


ある日の会社帰り。

私はフラといつもの飲み屋街へ行き、

行きつけの居酒屋へ行って心行くまで飲もうとしていた。

でも歩いていると…


玲子「ん、あれ?こんなお店あったかしら?」


『New World to Ruin』と言う見た事もないカクテルバーがあり、

外観はかなりお洒落ながら中は落ち着いていて、

今のこの心を癒すにはぴったりだと思った私は

ついそのまま店内に入りカウンターにつき

いつものように1人飲んでいた。


していると…


亜芽瑠「フフ♪こんばんは。お1人ですか?よければご一緒しませんか?」


と1人の綺麗な女性が声をかけてきた。


彼女の名前は箍葉 亜芽瑠(つげは あめる)。

その変わった名前の理由は彼女が都内で

スピリチュアルコーチやヒーラーの仕事をしていたからで、

本名は別にあり、その名前はペンネーム感覚で

自分で取ってつけたものだったから。


玲子「へぇ、ヒーラーを本業にしてる方なんてホントに居るんですね」


亜芽瑠「フフ♪今の時代、結構多いですよ?」


そんな感じで世間話からいろいろ話題が広がり、

気づくと私はなぜか今の自分の悩みについて

彼女にほとんど打ち明けていた。


少し一緒に居て気づいたが、彼女は不思議な人だ。

何か昔から一緒に居てくれた人のような気がしてきて、

心が和んだ上で自分の事を打ち明けたくなり、

おかしな話、

「彼女にその悩みをどうしても解決して欲しい…」

そんな思いにまでさせられるのだ。


亜芽瑠「え、そうなんですか?」


玲子「ええ。私なぜか昔から極度の男嫌いで、そのせいで恋愛も結婚もこれまでまともにしてきた事がなかったんです」


そしてつい先日、

仲違いしてしまったあの百合子の事も彼女に話していた。


玲子「ハハw笑って下さい。この歳になってこんなこと言ってる女なんて、ほんとに子供と一緒ですよねw」


でも彼女は親身に聴いてくれていた。

そして…


亜芽瑠「大体の事は分かりました。そこで玲子さん、1つだけご確認させて頂きたいのですが…」


さすがは仕事柄と言ったところか。

本当に悩み相談室のような感じになってくる。


亜芽瑠「あなた本当に、自分の男嫌いの性格を直そうとは思わないのですか?自分もその百合子さんと同じようにして、良い人と巡り会い、やがてはその今の悩みから羽ばたくようにして逃れたい…そんなふうには思えませんか?」


彼女は私の顔を見つめ、真剣にそう聞いてきた。

確かに幸せは欲しい。女性としての幸せが。


でもこの時またあの百合子の顔が甦ってきてしまい、

信じようとしていたのに自分を裏切ってくれた人…

いっときの…いや永遠の幸せにすがり付きたいと思っていた自分…


そんなこんなが交差するように私の心を責めてきて、

一瞬もう訳が分からなくなった後、私はやっぱり…


玲子「…いえ、私は彼女のように弱い人間じゃありません。自分1人でも生きていける、そんなキャリアウーマンになるのが昔からの夢だったんです。今更男にすがり付いて生きようなんて思いませんよw」


そう、かなり強がって応えてしまった。


でもこれは私の本心だ。

本当にこれまで1人でやってきた上、

その今になって男にすがり付き、結局、

百合子にまで弱い自分を見せるなんてまっぴらごめん。


少し、片意地になってた所もあったんだろう。

でも私はその姿勢を崩さなかった。


亜芽瑠「本当にそうですか?あなたはさっき私が百合子さんの事を話した時、女性としての幸せが欲しい…少しぐらいそう思ったんじゃないですか?違います?」


ちょっとドキッとした。

やっぱりこの人は不思議な人なのか、

私の心を何となく見透かしたような所がある。


でもだからこそ余計に私は頑なになり、

「そんな事ないって言ってるじゃないですか」

と何度も言った。


すると彼女は…


亜芽瑠「そうですか。分かりました、では私がそのあなたのお悩みを少し軽くして差し上げましょうか?ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私に少し力にならせて下さい」


玲子「え?」


そう言って彼女は持っていたバッグから

瓶入りの液体薬のような物を取り出し、

それを私に勧めてこう言った。


亜芽瑠「フフ、これは『World of Dominance』と言いまして、まぁ飲んだその人の心を強めてくれる『生活の栄養剤』と思って頂いて構いません。その昔、西洋のある国で発明された向精神薬として生まれたもので、今のあなたにとっても最良の薬になってくれるでしょうか」


いきなりそう言ってきたのでよく解らなかったが、

なんでも今の私を助けてくれて、

この独身生活をもっとより豊かにしてくれるそんなお薬?

…のように聞こえたのもあり、私は少し興味を持ち

その薬の詳しい説明なんかも聞いてしまった。


そして…


亜芽瑠「フフ、私のこう言うお仕事は全てボランティアでやっておりますので、そのドリンクのお代は無料で結構です。それは必ずあなたの助けになり、今のあなたにとって損をする事は何もない筈です。自分の人生をもっと華やかにしようと革命を起こすなら、その第一歩には勇気が必要。どうか勇気を持って、その一歩を踏みしめてみませんか?」


そうまで言われた私はやはりその気になってしまい、

その場でその液体薬を手に取り、一気に飲み干していた。


ト書き〈変わる〉


それから数週間後。

私はすっかり変わっていた。


ドリンクを飲んでから、それまで私を密かに悩ませていた

孤独からの責めが一切なくなり、百合子の事ももちろん許し、

仕事にもプライベートにも充実した

明るい将来・未来を見るようになっていたのだ。


でもその代わり、私は男に対してもっと警戒するようになり、

少しでも周りに男が居るとみんな敬遠し、

一切男には寄り付かない、そんな生活を送るようにもなっていた。


つまり孤独に強くなったぶん、

私は本当に心の底から男を必要とせず、

男の力にすがり付く自分を一切捨てる事ができたのだ。


玲子「フフ♪これよこれ!これこそ私が目指してた、最高の人生のあり方だわ!♪」


はたから見れば、不幸な女に見えるだろうか。

でも決してそうじゃなかった。

私にとってはこれこそが、自分にとって最高の人生の幸せだった。


世間ではただ気づかれないだけで、

こんな人も本当に居るものなのだ。


ト書き〈カクテルバー〉


それからある日。

私は又あのカクテルバーへ寄っていた。

するとまた前と同じ席で飲んでる亜芽瑠さんを見つけた。


私はすぐ彼女の元へ駆け寄り、自分を変えてくれた、

この人生に確かな幸せを見つけさせてくれたその彼女の好意に

心の底から何度も感謝していた。


玲子「本当に有難うございます!私本当に、今まで心のどこかでくすぶってた憂いみたいなのが無くなっちゃって、今が最高に幸せだってそう思えるんです!あのドリンクのお陰だと思います!いえ…それをくれて、親身になって私の悩みを聴いてくれて、私の人生そのものを変えてくれた亜芽瑠さん、あなたのお陰ですよ♪」


私がそう言うと彼女も自分の事のように喜んでくれ、

私の将来を心から祝福してくれていたようだ。


でもこの時、彼女は1つだけ私に忠告してきた。


亜芽瑠「本当にあなたに喜んで貰えてよかったです。私も嬉しいですわ。ですが玲子さん。人生最良の時こそ、注意が必要とも言います」


玲子「え?」


亜芽瑠「あなたは今『これまでの自分の人生の中で最良の時を過ごしている』と言い、その生活の土台は自分1人で生きていける、その強さを持ったからでしょう。そしてその強さは男を必要とせず、自分で何でも出来てしまうそんな理想に燃えているから」


亜芽瑠「でもその理想は妄想とも置き換える事が出来まして、その妄想があなたに落とし穴を用意してくる事もあるのです」


玲子「…え?どう言う事ですか…」


亜芽瑠「簡単に言いましょう。その男嫌いの性質が祟って、あなたは必要以上に男性を攻撃してしまう…その危険性があると言う事です」


玲子「え…えぇ!?w」


私は半分笑って聞いていた。

何か飛躍的な事を言われている気がして、

そんな事ある筈ないじゃない…そう思ったのだ。


亜芽瑠「フフ♪無ければ無いほうが幸せなのですが、それが人生のトラブルと言うもの。あなたの期待とは裏腹に、そのトラブルはやってきたりするものです。まぁとにかく、くれぐれも注意して下さい。衝動的に男性を攻撃しないようにする事、これも節制・自制の内に含まれますから…」


余りしつこく言ってくるので

私はもう途中から話を聞いておらず、

適当な愛想笑いを浮かべて、その夜は彼女と別れた。


ト書き〈トラブル2〉


でも彼女がこの夜言った、

私の人生を大きく変えてしまうトラブル…

いや悲劇が起きたのだ。


ある日の会社からの帰り道。

私はいつも車で通勤していたのだが

その日は会社でミスをしてしまい少しイライラしていた。


玲子「くそっ!前の車、とろいわね!もっと早く走りなさいよ!」


車内で叫ぶようにそう言いながら

何度かクラクションを鳴らしてしまった。


するとその前の車が少し走った所で路肩に停まり、

中から男性が1人降りてきて、私に文句を言った。


岡田「ちょっとクラクション鳴らすのやめて貰えませんか?ここは法定速度40キロなんですから、早く走らないのは当たり前でしょう?」


私達が走っていたその道は、確かに府道からそれた細い道。

少し向こうにある看板にも法定速度40キロと書いてあり、

一々納得できる説明を男はしてきた。


でも聞いている内に段々また腹が立ってきてしまい、

私に説教した相手が男だったのもあり、

余計に煮えくり返った私は男がまた自分の車に戻ろうとした時…


玲子「うるさいのよ!」


と叫んでアクセルを思いきり踏み、男を道端にハネて

そのまま走り去った。


玲子「男なんて全部私の敵よ!私はもう1人で生きていくって決めたの!今更しゃしゃり出てきて男がゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ!」


暫くワザと心を煽り、憤慨しながら走っていた私だったが、

ふと我に返った時…


玲子「…あたし、人を轢いてしまったのよね…」


その当たり前の事実が私を責めてきて、

それから私の心は恐怖に取り憑かれた。


ト書き〈カクテルバー〉


それから私は家には戻らず、

あのカクテルバーへ向けて一直線に走っていった。


彼女はいちど私の人生を変えてくれた。

その経験があるからか、

今度もまた私の人生を本当に変えてくれて

今のこの私の窮地を救ってくれる。


私は勝手な妄想でそう思い込み、何がどうでも彼女に会いたくなった。


そして店に入ると…


玲子「あ、居た!亜芽瑠さん…!」


やはり前と同じ席で座って飲んでいる彼女を見つけ、

私は一足飛びで彼女の元に駆け寄り、

さっき起きた事を全部話した上で…


玲子「お、お願いです、どうか、どうか今のこの私を助けて下さい!このままじゃ私は必ず法廷で裁かれて、もしかして、極刑…。いや…もう私生きていけない…!お願いします、助けて下さい…助けて…」


彼女の隣の椅子にへたり込むように座り込み、

カウンターに顔を突っ伏したまま、彼女にそう無心していた。


やっぱり彼女は私が思った通り、本当に不思議な人だった。

そんな突飛な話を聞いても冷静なまま、

私を宥めた上で、そのとき必要な助けをくれたのだ。


亜芽瑠「そうでしたか。やはりこんな事に。…分かりました。今のあなたが助かる道が1つだけあります」


玲子「…え?」


そう言って彼女はまた持っていたバッグから

栄養ドリンクのような物を取り出し、

それを私に勧めてこう言ってきた。


亜芽瑠「どうぞこちらをお飲み下さい。これは『Turnover』と言って、前のドリンクと同じような効果を持つ特製の液体薬です。ただそれを飲めば、あなたのこれまでの人生や生活は全て失われ、あなたは新しい人生を、まるで別人のように生きていく事になるでしょう」


玲子「人生を失って…別人…?」


かなり怖い事を言われてると思ったがその時、

カウンター奥のテレビでやってたニュースで…


キャスター「先ほど入ってきたニュースです。S通りで男性がおそらく車に轢かれた模様で、その男性は…」


さっき私が起こした

あの轢き逃げ事件の事をもう報道していた。

私が轢いてしまったあの男性は今…


それを聞いて極度に恐ろしくなってしまい、

膨大な不安に駆られた私は…


玲子「あ、亜芽瑠さん!お願いします、今までの人生とか生活とか無くして良いですから、私を別人として生きていけるようにして下さい!お願いします!」


その時の不安を一切振り切り、彼女に、

「自分を生まれ変わらせて欲しい」と心から願った。


ト書き〈オチ〉


それから数日後。

あれから私は会社を辞めて、今は別の所で働いている。

ここは普通に男性も働いてる貿易会社。


上司「あ〜小和田君!小和田君!」


小和田(玲子)「あ、はい何ですか課長?」(男の声で)


「小和田君」とは私の事。

私はあれから男に成り代わり、第2の人生をここで

平安に暮らしている。


誰も「玲子」だった私の正体を見抜く者はないだろう。


ト書き〈貿易会社を見上げながら〉


亜芽瑠「フフ、彼女、今日も働いてるわね。男に成り代わって、一体どこまで逃げおおせられるかしら?彼女が最後に飲んだあの『Turnover』はその名の通り、性別を変えてしまうお薬だったの。今の玲子の外見は男そのもの。確かに昔『玲子』だったその正体を見抜ける者は居ないかも。目撃証言から世間では、轢き逃げの犯人を女性だと見て探しているから、暫くは逃げおおせられるかもしれないわね」


亜芽瑠「でも伝えるのを忘れてたけど、あの『Turnover』は外見だけを変える効果を持つ液体薬で、性器は女性のままだし、実は指の指紋もそのままなのよ。まぁ何はともかく、指紋が変わってないと言う事はその線から警察に追われる事もやっぱりあるかも…。これからもやはりボロを出さないように、用心深く生きていく事ね。それにしてもいざとなれば、あれだけ嫌っていたその男性に成り代わりたいなんて、人間の心はつくづく曖昧で、頼りないものよね」


亜芽瑠「私は玲子の『1人で何でも出来る理想の人生を手に入れたい』と言う本能と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れたけど、どうやら彼女の本当の幸せにとっては逆効果だったかしら?」


亜芽瑠「彼女は自身の欲深な罪を見出せず、それを改めようともしないままただ他人を攻撃し、自分の思う通りに周りを動かそうとしていた。でもそんな事、やっぱり社会が許す筈もない。今度もまた新たなトラブルがやってきて、理想に夢に裏切られた!…なんて事にならないようにね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=fISW-DgtIuY

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転身 天川裕司 @tenkawayuji

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