僕に告白する女の子なんて裏があるに違いない
伝々録々
第1話 なぜ僕に告白を……?
問、この少女が僕を呼び出した目的を答えよ。
場所は校舎裏。放課後、日の傾き始めた時間。周囲に人の気配はない。
目の前には一人の少女。一つ下の後輩、恋歌。
彼女はとても人気がある。体躯は女の子らしく小柄で華奢、あどけなさの残る相貌は表情豊かで、何よりこの僕が話していて心地いいとすら感じるほどのコミュ力の持ち主だ。あえて欠点をあげるなら、その所作のひとつひとつがややあざといことくらいだろう。
一方、僕は実に平凡な男子高校生だ。体格も容姿も特筆するほど良くはないし、性格は自覚がある程度には悪く、クラスに友達はいない。こうして書き連ねると平凡未満に思えてくるが、しかし孤立を拗らせた高校生なんてどこのクラスにも一人はいるものだ。だから、ここではあえて自分を平凡と定義させてもらう。
その上で、この難題について考えてみよう。
「先輩? おーい。せんぱーい? 話聞いてます?」
上目遣いでこちらの目を覗き込むようにしてくる恋歌から顔を背けて、僕は考える。
わからない。何か裏があるはずだが、真相解明には判断材料が足りない。
「あの、先輩。何か答えてほしいんですけど……」
罰ゲーム?
いや、恋歌に限ってそれはないはずだ。人を傷つけて楽しむようなことはしない。その対象が僕のような集団に馴染めない人間であっても、絶対に。
「えっと、まさか、ほんとに聞こえてないなんて言いませんよね……?」
不安と緊張の入り混じった瞳が僕をじっと見てくる。
だが、やはり理由はわからない。
「無視ですか……? 流石にちょっと傷つきますよ……?」
「いや無視はしてない」
「してたじゃないですか! あ、でもやっと反応してくれた!」
不安そうにしていた恋歌が、ぱっと朗らかに笑う。
かと思えば今度は「ふっふっふ」とわざとらしく笑って、
「さあ、今度は聞こえなかったとは言わせませんよ」
と、決め顔で僕を見る。
そして恋歌は言う。僅かに頬を赤らめて。どこか緊張したような表情で。
「好きです、先輩。私とお付き合いしてください」
「……くっ、わからない。何故僕はここに呼び出されたんだ!」
「いやいやいやいやいや」
恋歌は食い気味に突っ込んできた。
「正気ですか? 私今、一世一代の愛の告白をしたとこなんですけど?」
「二回目だろ。さっきも聞いたぞ」
「さっきは好きとは言ってないです。ていうか聞こえてるなら何か反応してください!」
「わかってるさ。だから今考えてる」
「あ……そ、そうなんですか」
と、今度は急にしおらしくなる恋歌。
僕は「ああ」と頷いた。
「だがわからない。この僕に告白なんて、いったい……どんな裏があるんだ!」
「ありませんよ!?」
また食い気味のリアクションだった。
だがそんなはずはない。
僕は騙されない。並みの男子高校生であれば舞い上がって冷静さを欠いているであろうこの状況でも、孤立を拗らせた僕は落ち着いて状況を考察できる。
何しろ相手はあの恋歌だ。
みんなの人気者である彼女がこの僕に告白なんて、そんなことはありえない。
何か裏があるはずだ。
しかしその裏とはなんだろうか。
それからも僕はひたすらに考え続け、やがて日が暮れた。とりあえず恋歌と二人一緒に帰る運びとなり、いつも通り表情をころころと変える恋歌と会話をしながら考え続ける僕だったが、結局真相はわからなかった。
そして翌朝、通学時。
僕がなんとなく気になって恋歌の家の前を通ってみると、パトカーが止まっていた。不審に思って見ていると、僕に気づいた刑事がこちらに来た。
「失礼。君はここの家の人と知り合いかな?」
「家の人というか……後輩の家です」
「あ、もしかして昨日の夕方に恋歌さんと一緒にいたという先輩が君か。それなら少し聞きたいことがあるんだが」
「……何かあったんですか?」
尋ねると、刑事は少し困ったようにしながらそれを口にした。
「実は昨日の夕方、彼女の母親が殺されたんだ」
僕は考える。
何故彼女は昨日の夕方、僕に告白したのだろう。
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