2次元の夢…

天川裕司

2次元の夢…

タイトル:(仮)2次元の夢…



▼登場人物

●煮寺 創(にじ はじめ):男性。40歳。独身サラリーマン。アニメオタク。奥手。

●夢野仲江(ゆめの なかえ):女性。20代の印象。元々アニメのキャラ。他人には見えない。でもラストで創と立場が入れ替わる。輝恵が霊的な力で創と引き合わせた。

●同僚:男性。40歳。創の会社の同僚。一般的なイメージでお願いします。

●上司:男性。50歳。創の会社の上司の課長。一般的なイメージでOKです。

●呼野斗輝恵(このと きえ):女性。30代。創の理想と欲望から生まれた生霊。


▼場所設定

●某商社:創たちが働いている。一般的な会社のイメージでOKです。

●Marriage Door:お洒落な感じのカクテルバー。輝恵の行きつけ。


NAは煮寺 創でよろしくお願い致します。



イントロ〜


皆さんこんにちは。

皆さんには今、愛する人がいますか?

恋人や伴侶はいますか?

2次元愛好家が増えているこの現代、

独り身を貫き通し、親友もいない人がほとんど…

という事はあなたも既に知っているところではないでしょうか。

今回は、そんな孤独のどん底にある、

ある男性にまつわる不思議なエピソード。



メインシナリオ〜


俺の名前は煮寺 創。

今年40歳になる独身サラリーマンだ。


俺の趣味は漫画や映画を見る事で、

特に漫画は幼少の頃からずっと親しんできており、

将来は漫画家になろうとしていた程。

とにかく漫画やアニメが大好きで、その世界に入る事ができたら…

なんで実際思ったりした事も何度かあった。


と言うのは、今の俺を取り巻いているこの現実が悲惨だったからだ。

俺は生まれつきかなりの奥手で、器量もそれほど良くなく、

異性と付き合う接点などこれまでまるで無かった。


この年までほとんど童貞だった俺は

周りから馬鹿にされるのを恐れ、恋愛の話になるとふと遠ざかり、

余計に女性との接点は無いままだった。


創「はぁ。こんなこと繰り返してたら、結婚なんて夢のまた夢。その前に付き合う事すらままならないんだから、俺なんかもうどうしようもないよなぁ…」


こんな事を心の中で呟くのが最近の日課となっており、

俺はもう半分以上、結婚を諦めていた。


ト書き〈カクテルバーへ〉


そんなある日の事。

会社帰りに俺は久しぶりに飲みに行く事にした。

いつもの飲み屋街を歩いていると…


創「ん、あれぇ?こんな店あったかなぁ…」


少しお洒落なカクテルバーで、

名前を『Marriage Door』という見た事もない店が

新装開店していたようだ。


外観はこじんまりとしていたが内装が美しく、

また妙に心惹かれるところもあったので

俺は店に入り、カウンターについて1人飲んでいた。


創「フフ、『Marriage Door』…結婚への扉か。俺にはまるで無縁のような店だけど、1人趣味で来るんならこういう店も悪くないな」


いつものように自分の人生を少し嘆きながら飲んでいた時…


輝恵「フフ♪こんばんは。お1人ですか?もしよかったらご一緒しませんか?」


1人の女性が背後から声をかけてきた。

「え?」と振り返って見ると割と綺麗な人。

名前を、呼野斗輝恵さんと言った。


どうやら都内でライフコーチやヒーラーの仕事をしていたようで、

特に恋愛カウンセラーなんかは彼女の専門分野だったと言う。


創「へぇ〜、いろんなお仕事をされてるんですね」


暫く喋っていて少し不思議だったのだが、

彼女と一緒に居ると何か…

「昔から自分の事を知ってくれていた人?」

と言うようなイメージがまず湧いてきて、

幼馴染の雰囲気があり、その意味で恋愛対象に見る事はなく、

ただ心の拠り所として彼女を見るような、

そんな感覚に襲われ出したのだ。


輝恵「ん?どうしました?何か私の顔についてますか?」


創「え?あ、いや、別に…」


外見に見惚れていたのではなく、

彼女の内側に見惚れていたような

そんな不思議な感覚も味わっていた。


そしてもう1つ不思議だったのが、

彼女と一緒に居ると自分の事を無性に打ち明けたくなる。

今の悩みを彼女に全部聞いてもらい、

「何とか解決してほしい…」

そんな気持ちに無理やりさせられていくのだ。


気づくと俺は、普段思っている事…

自分の人生に悩んでいる事…

将来の夢をどう追いかけたら良いかという事など、

「全部自分で考えろよ」なんて言われそうなそんな悩み事を

全て彼女に打ち明けていた。


でも彼女はその愚痴のような俺の悩みを全部、真剣に聴いてくれた。


そして…


輝恵「なるほど。でも今はそういう事で悩まれている男性は本当に多いんですよね。男性だけじゃありません。女性にだって同じように悩んでいる方がおられます。良いでしょう。こうしてここでお会いできたのも何かのご縁です。私があなたのそのお悩みを、少しずつ軽くして差し上げる上、解決して差し上げましょうか?」


そうまで言ってくれたのである。


創「え?」


と驚いていると彼女は、持っていたバッグから1枚の写真を取り出し

それを俺に見せてきた。


創「こ、この女性は…?」


その写真には1人の女性が写っており、

かなり綺麗で可愛らしい人だった。


輝恵「その方は、今私が開業しておりますヒーラー教室に通われている生徒さんで、名前は夢野仲江さんと言います。彼女も今あなたと同じように悩まれており、理想の男性を探し求める傍ら、まず恋愛への1歩を踏み出そうとしているところなんです」


創「はぁ…」


輝恵「彼女は実は以前に男性恐怖症に罹られた事がありまして、その延長で恋愛にまでダークなイメージを持ってしまい、男性と普通に恋をする事が難しくなっていました。その為の訓練を今しているところでして、いかがですか?彼女を助けると思って、あなたも恋愛のハウトゥを彼女と一緒に学んでみませんか?」


創「…は?」


てっきり彼女を紹介してくれるのかと思いきや、

その彼女と一緒に恋愛のハウトゥを学べと言う。


つまり輝恵さん曰く…


「俺はこれまでずっと恋愛から遠ざかってきたので、恋愛や結婚への扉を開ける事が出来なくなっている。まずはその扉を開ける為の努力が必要の事」


と言ってきていたようで、恋愛そのものに慣れる事、

そして女性と触れ合う事に喜びを感じつつそれも慣れる事…

その辺りの事も俺に勧めてきていたようなのだ。


創「い、いやぁ、そういう事でしたらちょっと…」


お断りしようと思ったのだが、やはり輝恵さんは不思議な人。


普通なら即断の形で断るところだが、

彼女に言われるとまた強引にその気にさせられてしまい、

「せっかくそう言ってくれるんなら、試してみても良いかなぁ」

なんて気持ちにさせられる。


そして気づくと俺は…


創「あ、あの、じゃあお願いします」


と今紹介してくれた仲江さんと一緒に

恋愛のハウトゥを学んでみる事にした。


ト書き〈翌日〉


そして翌日の夜。

俺はまたそのバーへ来ていた。


仲江「どうも初めまして。これからどうぞよろしくお願いいたします」


輝恵さんは仲江さんを連れてきていた。

でも俺はその時、仲江さんを見て心底驚いたのだ。


創「あ、あなたは…!?」


俺がこれまでずっと愛読してきた『セーラーSUN(サン)』

と言うコミックの主人公の女の子に激似だった事。

実は幼少の頃からずっとそのキャラクターに憧れてきており、

「こんな女の子と結婚したい!」

なんて気持ちを心密かに膨らませ続けていたのだ。


その気持ちは今でも変わらず心のどこかにあって、

今その仲江さんに会った途端、その記憶が沢山の

憧れや感情を引き連れてやってきた。


初め写真を見せられた時には本当に気づかなかった。


輝恵「フフ♪彼女にはもうあなたの事はお話ししております。それではお互いに、今後の明るい将来を勝ち取る為に今ここで恋愛を学び、自分の理想の恋愛や結婚をしていけるよう、特に心の成長を目指していきましょう」


ト書き〈トラブル〉


それから俺と仲江さんとの疑似恋愛が始まったのだ。


つまり仲江さんと2人でどこかへ遊びに行ったり、

ランチをしたりディナーしたり、

普通の恋人がするのと同じような事をして、

俺は女性と付き合う事、

仲江さんは男性と付き合う事がどういう事なのか?

その辺りの事を一緒に確かめ合いながら体験していく。


ただし疑似恋愛ながらお互いの体に触れ合ったり、

普通の恋人と同じようにホテルへ行ったりする事は一切ない。


極めてプラトニックな恋愛で、自分にとっての恋愛観を養う事。

これが第一の目的になっていたのだ。


しかしそうする内にやはり俺は我慢できなくなり、

「か、彼女とどうしても結婚したい!」

そう思うようになってしまった。


しかしそれを輝恵さんに言っても…


輝恵「それはなりません。前にお話ししましたように、これは恋愛の練習に過ぎず、彼女もあなたも将来に向けて、恋愛作法を1から学ぶ為に設けた時間なんです。ものには道理と順序というものがあって、それを無視して結果だけを求めてしまえば、その人の元には必ず悲惨が訪れます。ですから…」(遮るように創が話す)


創「そんな事もう分かってます!その上で僕は彼女と結婚したいって言ってるんですよ!あなた、ひどいじゃないですか!あんな彼女を僕に紹介しておきながら、今になって『結婚するな』『ゆくゆくは別れる事になるんだ』なんて…これじゃあ一体何の為の練習なんですか!そもそも恋に練習なんて要るんですか!?そんな事してる人、どこにも居ないでしょう!」


実はもう俺はこの時、仲江さんに夢中になっていたのだ。

だから半分怒鳴るように輝恵さんにそう言ってしまい、

自分の希望をどうしても押し通そうとしていた。


輝恵「おやおや、これは認識の違いですね。私があなたに彼女を紹介したのは、あなたにも彼女にも、まだ充分に恋愛する為の土台が備わっていないと思ったからです。つまりあなたにも彼女にも恋愛においてはまだ問題あり、と言う事なんです」


創「は、はあ!?も、問題って…!」


輝恵「まぁこんな事になりましたので申し上げますが、仲江さんにはまだあなたの知らない問題がありまして、それは彼女自身の事なんですが、それを解決しなければ、彼女は普通に恋愛する事が出来ないんです」


創「な、なんですかその問題って…!?」


それから俺は更に食い下がった。

とにかく仲江さんと付き合いたい。

そしてどうしても彼女と結婚したい。


その思いがどんどん膨れ上がって、

もう目の前にいる輝恵の言葉はほとんど耳に入らなくなった。

そして…


輝恵「ふぅ、仕方がないですねぇ。そこまで彼女の事を想われてるんですか。まぁ私も、彼女を気軽にあなたに紹介したのが間違いと言えば間違いだったかもしれません。その責任もやはり私のほうにありますので、あなたの今言われている事、叶えて差し上げる事にしましょう」


創「え?」


散々俺が怒鳴り続けたから彼女も折れてくれたのか。

それから彼女は仲江さんと俺を取り持つ事を約束してくれた。


創「ほ、ほんとに…?」


輝恵「ええ。あなたの想いがそこまで本気だとは思いませんでした。まぁその気持ちに打たれたってところですか。でも約束して下さい。良いですね?今後あなたと彼女との間に何かトラブルが起きたとしても、私は一切、責任を負う事はしません。そんなトラブルも2人で解決し、乗り越える力を身に付けていって下さいね?」


輝恵さんは少し厳しい口調でそう言い、

それでも俺と仲江さんの幸せを願ってくれた。


創「は、はい!もちろんですよ!」


そして俺と仲江さんは本格的に付き合う事になったのだ。


ト書き〈トラブル2〉


しかし仲江さんとそうして付き合う事になってから、

第2のトラブルが起きたのだ。

いやトラブルと言うより、信じられない事だった。


同僚「いや、仲江さんってお前、その人どこに居るんだよ?」


創「は?…いや、だから今お前の目の前に居るこの人だよ?」


同僚「はあ?何言ってんだお前?ついにアニメオタクが講じて、幻想でも見えるようになったんじゃねぇのかぁ?wま、お前みたいな幻想狂に付き合ってる暇ねぇからよ、んじゃな♪」


創「お、おい!ちょっと待てよ!…ど、どういう事なんだよこれ…」


ある日会社の同僚に、俺に新しく出来た彼女として

仲江さんを紹介しようとしたところ、

その同僚にはまったく仲江さんの姿が見えていなかった。


いやその同僚だけじゃない。

他の誰に彼女を紹介しても、

俺と並んで横に立っている彼女の姿は誰にも見えない。


創「な、仲江?こ、これどういう事?」


俺はつい彼女本人にそう聞いてしまった。

そしてこの時、彼女が言った事が本当に信じられない事だったのだ。


仲江は実は、本当に俺がずっと読んできた

あのコミックの中から出てきた人物だった。

つまり仲江は2次元の存在となる。

だからこの3次元の世界ではその姿が認められる事なく、

彼女は誰にも見えない存在となってしまうのだ。


創「そ、そんなバカな事が!」


俺は末恐ろしくなりながらも、

一切、信じる事が出来なかった。

当然の事だろう。

こんな事、起こる筈がない。

でも実際に起きている。


それから俺は一気に変わっていった。


創「2次元なんか…!2次元なんか…恐怖以外の何者でもねえじゃねぇかよこんなの!」


俺はそれから仲江を置き去りにして、

その後2度と彼女の元に戻る事なく、

3次元の世界の女性、つまり現実の女性だけを求めるようになったのだ。

確かに一連の恐怖が俺にそうさせたのもある。


ト書き〈オチ〉


しかしそれから僅か数日後。


創「え?いや、俺だよ俺!お前どこ向いてんだよ!」


いつも通りに出社して同僚に話しかけたところ、

その同僚はまるっきり俺を無視したままで、何の返事もない。

と言うか俺の存在そのものに気づいてなかったらしく、

俺の前を素通りしてそのまま社屋に入っていった。


それから会社に行っても、誰も俺の姿を認めてくれない。

みんな俺を見て見ぬ振りするかのように無視して、

俺がそこに居ないものとして行動して行く。


課長「なんだ?煮寺のヤツ、今日は無断欠勤か!?」


創「い、いや課長!ここに居ます!ここに居ますよ!」


課長「ったくしょうがねぇヤツだな。まぁこうやって辞めてくヤツは辞めていくんだよなぁ」


創「えぇ!?いやそんな、あの、課長…!」


俺は今、課長の真ん前に居るのに、その姿が課長には見えていない?


創「…ど、どうなってるんだよ、これ…」


しているとその日、新入社員が入ってきた。


仲江「皆さんどうぞよろしくお願いいたします。夢野仲江と申します」


創「…え?あ、あれは、な、仲江さん…?」


間違いない。

2次元のキャラクターから出てきたと言っていたあの仲江さんが、

今みんなに見える実体を持ち、拍手されて迎えられている。


創「ど、どうなってんだよこれえぇえ!」


俺はその後、結局、誰に認められる事もなく、

この世で空気のような存在として生活する事になったようだ。


ト書き〈公園のベンチに抜け殻のように座ってる創を眺めながら〉


輝恵「フフ、あれだけ言ったのに。仲江が誰にも見えない存在だったとしても、自分の伴侶として大事にしていけば、こんな立場の逆転なんか無かったのよ」


輝恵「『どんなハードルでも乗り越えていく』なんて勢いよく言ってたけど、結局、創が考えていたのは社会ステータスを確保する事。つまり自分の奥さんを他人に見せて『どうだ?こんな綺麗な人が俺の妻になってくれたんだぞ?良いだろうw?』みたいな感じで他人を蔑み、自分が優越に立つ事だけを考えていた」


輝恵「それが彼にとっての恋愛における問題。本当に愛していれば、誰に認められなくとも自分だけが本当に愛するその彼女を認め、お互い仲睦まじく将来へ向けて歩んでいけるもの。そして仲江が抱えていたトラブルと言うのはもちろん、彼女が元々2次元のキャラクターだったという事」


輝恵「私は創の理想と欲望から生まれた生霊。その純粋な夢を叶える為だけに現れたのに、彼は結局さらに自分の欲望を引き出してしまい、純粋だった夢そのものを自分で壊してしまった。まぁ仕方がないわね。これからは、純粋な夢を失ったその理想を追いかけていく事ね。そういう理想の事を、この世では欲望と呼ぶのよ…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=DEmsnFABbQI&t=150s

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2次元の夢… 天川裕司 @tenkawayuji

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