2つの純粋な夢
天川裕司
2つの純粋な夢
タイトル:(仮)2つの純粋な夢
▼登場人物
●軽井純夫(かるい すみお):男性。30歳。独身サラリーマン。恋愛経験がほとんど無い。
●比戸似 頼子(ひとに よりこ):女性。29歳。純夫の同僚でのちに結婚。器量は普通。
●角川由美子(かどかわ ゆみこ):女性。27歳。純夫の部屋の隣の住人。抜群の美人。
●夢野朋香(ゆめの ともか):女性。30代。純夫の夢と本能から生まれた生霊。
▼場所設定
●某貿易会社:純夫達が働いている。一般的な商社のイメージでOKです。本編では「会社」とも記載。
●Dream Boyfriend:都内にあるお洒落なカクテルバー。朋香の行きつけ。本編では「カクテルバー」とも記載。
●純夫の自宅:都内にある一般的なマンションのイメージでお願いします。隣の部屋に由美子が引っ越してくる。
●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。
▼アイテム
●Pure Duplicity:朋香が純夫に勧める特製のカクテル。これを飲むと心が積極的になれて生活も豊かになる。でもその延長で道徳を外れた事までさせてしまう事もある。
NAは軽井純夫でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたは1人の人を愛せますか?
その生涯を貫き通し、1人の人を本当に愛する事が出来るでしょうか?
ときに若さと言うのは夢を諦めさせない力を持つもの。
そしてときにその夢は欲望になり変わる事もあります。
今回は純粋に2人の人を同時に愛してしまった
ある男性にまつわる不思議なお話。
メインシナリオ〜
ト書き〈会社〉
俺の名前は軽井純夫。
今は都内にある貿易企業で働いている。
今30歳で、これから人生を設計していくところ。
でも俺は1つ、他の人には無いような経験を持っている。
それは…
純夫「…ホントに俺の人生に、出会いなんてあるんだろうか…」
そう、俺には今愛する彼女が居ない。
と言うかこれまで1度もまともに付き合った経験がなく、
学生時分から恋愛は俺にとってかなり縁遠かった。
まぁ俺の容姿や性格を見ればそれも分かるだろうか。
器量は良くなくどちらかと言うと不細工な部類。
甘えた性格も抜けず、身の周りの事もちゃんと出来ない。
背も低い。
おまけにかなり奥手な性格で、
女性にまともにアプローチする事も出来ないでいる。
ナンパなんて初めから論外。
ト書き〈カクテルバー〉
その日の会社帰り。
俺は久しぶりに飲みに行った。
もちろん1人。
自分のこんな気持ちを晴らしてくれるのはやはり酒。
そう思いながらいつもの飲み屋街を歩いていた時。
純夫「ん、あれ?こんなお店あったんだ」
『Dream Boyfriend』という
見た事もないようなカクテルバーが建っており、
結構よさげな店だったので俺はそこに入った。
そしていつものようにカウンターにつき飲んでいた時…
朋香「フフ、こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」
と1人の女性が声をかけてきた。
彼女の名前は夢野朋香さんと言い、
都内で恋愛コンサルタントやヒーラーの仕事をしていると言う。
結構な美人だった。
そんな美人が声をかけてきたのもあり
俺はつい隣の席をすぐに空け、とりあえず一緒に飲む事に。
でも話している内に不思議な感覚に包まれる。
なんだか昔から一緒に居てくれた人のような気がしてきて、
だからか一般女性に見るような恋愛感情が湧かず、
ただ自分の事をもっとよく知って貰いたい…
自分の悩みを打ち明けて彼女に解決してほしい…
そんな気にさせられ、気づくと俺は本当に
今抱えている自分の悩みを全て彼女に打ち明けていた。
朋香「そうなんですか?これまで1度もまともに恋をした事がないと?」
純夫「え、ええ。こんなこと初対面のあなたに話すような事じゃないんですけど、でもどうしても聞いてほしいみたいな、そんな気持ちになっちゃって…。ハハwどうかしてるんでしょうかね僕は。すみません」
ほとんど愚痴のような悩み相談だったが、
それでも彼女は真剣に聴いてくれていた。
そして…
朋香「いえいえ、あなたのような方はこの現代、本当に多くいらっしゃるんですよ。男性だけじゃなく女性のほうでもその奥手な性格が治らず、普通に皆がしてるような恋愛が出来ない、出会いも無い、結婚なんて夢の又夢…そんなふうに言われる方も多くて、私がやっておりますヒーラー教室にもそんな方が毎日来られてます」
純夫「はぁ…」(何となく聞く姿勢で)
朋香「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が今のあなたが抱えておられるそのお悩みを、少しでも軽くして差し上げましょうか」
純夫「え?」
そう言って彼女はマスターを呼び、
一杯のカクテルをオーダーしてそれを俺に勧めた。
純夫「これは?」
朋香「それは『Pure Duplicity』と言う特製のカクテルでして、それは飲めばきっとあなたの心は豊かになって、これまで出来なかったような恋愛にも積極的になれ、交際はおろか結婚も夢ではなくなるでしょう」
純夫「…は?」
朋香「フフ、純夫さん。新しい一歩を踏み出す時には、まず何事も信じる事から始まります。自分の未来を信じ、そして自分の力を信じて、あなたなら必ずその幸せを手にする事が出来る…そのように自己暗示でも良いので、自分をその気にさせてみて下さい」
やはり彼女は何となく不思議なオーラを持っている。
普通なら信じない事でも、彼女に言われると信じてしまう。
そして俺はその差し出されたカクテルを手に取り、
その場で一気に飲み干していた。
ト書き〈出会い〉
それから僅か数週間後。
頼子「あ、あの軽井さん、私ずっと軽井さんのこと見てました。もしよければですが、その…私と付き合って頂けませんか…!?」
純夫「えぇ!?」
正直驚いた。
それまでずっと一緒に会社でやってきた
同僚の比戸似 頼子さんという彼女から俺はいきなり告白され、
その日から本当に交際が始まったのだ。
これまでこの会社でこんな展開は本当に1度も無かったのに、
朋香さんからいろいろ助言されその気になって
少し生活への姿勢を変えた途端、こんな嬉しい転機が
本当にやってきてくれた。
純夫「は、はは…凄い。人生は気の持ちようでいろんな事が好転する…なんて聞かされるけど、それって本当だったんだ」
本当に心の中は万々歳で、
俺は頼子と一緒にその後ずっと幸せにやっていこうと
これまで積み上げてきた生活の土台を2人で共有し、
ただ明るい未来へ向けて歩こうとしていた。
俺は今、都内のマンションに住んでおり、
そこに頼子も定期的に来てくれるようになっていた。
これまで1度も女性なんて来た事もないこの部屋。
だからか頼子がそんなふうにして来てくれるようになってから
この部屋の中は一気に明るくなった。
花が添えられたようなものである。
ト書き〈カクテルバー〉
そんなある日の事。
俺は又あのカクテルバーへ1人で立ち寄っていた。
もしまた朋香さんと出会えるような事があれば
今のこの幸せを彼女に伝え感謝して、
彼女と一緒にこの喜びを分かち合いたい…
なんて気持ちも正直あった。
そして店に入って見たところ、
なんと前と同じ席に座って飲んでいる朋香さんを見つけた。
純夫「朋香さん、来ておられたんですね♪いやぁまたお会い出来て嬉しいです」
それから話に花が咲き、俺は彼女に心から感謝していた。
彼女もやはり俺達の事を祝福してくれて、
まるで自分の事のように喜んでくれた。
でもこのとき彼女は1つだけ、
忠告めいた事をしてきたのである。
純夫「え?それってどう言う事ですか?」
朋香「フフ。いえ、大抵の人の場合そうなんですけど、心に余裕ができ生活にもゆとりを持てば、ふとそれまで見えなかった周りが見えてくるものでして、その時に興味をそそられるようなものがあればそれに飛びつく…そんな本質というか習性を人は持っていると言う事です」
純夫「はぁ。…いや、でもそれがどう言う…?」
朋香「はっきり申し上げましょう。前にあなたに勧めたカクテルには、あなたの魅力を最大限に引き出す効果も含まれていました。だからあなたは新しい出会いを引き寄せる事が出来、その魅力をもって今、頼子さんと2人で明るい将来に向かって歩いているのです」
朋香「そしてその頼子さんを引きつけた力というのは今でもあなたから発揮されています。と言う事はこれから先も、もしかすると新しい出会いがあり、その人がもし頼子さんより魅力的に思えてしまえば、あなたの心もおそらく揺らぐ事があるでしょう」
純夫「え!?いやそんな事…そんなこと絶対ないですよ!」
つまり朋香はこの時「浮気するな」と言っていたのだろう。
それが分かった瞬間、俺の心に少し怒りが芽生え、
「俺の事をそんなふうに見ていたのか」
と声を荒らげた調子に言ってしまった。
朋香「いえいえすみません。あなたを怒らせるつもりはなかったんです。ただ私もこのお仕事を長くしておりますので、あなたと言う人間がどういうものか?それについても私なりに、少し分かるところがあるんですよ」
純夫「は…はあ!?」
朋香「今のあなたはおそらく、1人の女性を愛し尽す事が出来ません。それはこれまでの生活歴に理由があって、恋愛経験がほとんど無いぶん新しい物好きの心が芽生えてしまい、他に良いものを見つければそちらへ飛びつく。この習性から抜けないところがあなたにもあるようです」
純夫「さ、さっきから何を言って…」(遮るように朋香が話す)
朋香「ですから念押しで、今あなたにこう話してるんですよ。おそらく今後また、あなたの周りで華やかな事が起きるでしょう。でもその時でも必ず頼子さん1人を愛するようにして、心を別の所へ動かさない事です。そうすればあなたは必ず幸せになれ、頼子さんと2人でその未来を歩いて行けるでしょう」
少し一方的にそう言われていたのもあり
俺はやはり苛立ってしまい何を言っても埒があかないと…
純夫「朋香さん!今あなたにそんな事を言われるとは思いませんでしたよ!頼子1人を愛して行けですって!?フン!そんな事あなたに言われるまでもありませんよ!ええ約束しましょう!僕は必ず頼子1人を愛し、彼女を幸せにしてみせます!」
そう言って席を立ち、俺は足早に店を出て行った。
朋香「フフ、約束ですよ…」
ト書き〈1年後〉
そして1年後。
俺と頼子は周りから祝福されて結婚した。
俺がそれまで住んでいた部屋に頼子と2人で住み、
それから幸せな新婚生活が始まったのだ。
しかしそれから数ヵ月後。
頼子は専業主婦になってくれる予定だが
まだ共働きで生活費を蓄えようとしていた時でもあって、
それからパートの仕事をし始めていた。
この日、頼子はそのパートに出て家に居なかった。
そして俺は久々に有給を使い部屋で寛いでいた。
まぁこれまでずっと働きづめに働いてきたから
偶には良いかと思って優雅なひと時を過ごしていたのだ。
するとそこへピンポーンと呼び鈴が鳴り、
ついこないだ隣に引っ越してきた
角川由美子さんと言う人が俺の部屋に入ってきた。
実は前から少し気になっていた存在で、
由美子さんはとても綺麗で上品で、
ここに引っ越してきた時から俺にだけはなぜかよく挨拶もしてくれて
何か身近な感じがしていた。
その由美子さんが昨日の夕食の残りを…と持ってきてくれ、
少しの間、俺の部屋で談笑する事になってしまった。
でもこの時に過ちを犯してしまったのだ。
由美子「純夫さん、私、前からあなたの事を…」
純夫「ゆ、由美子さん…!」
頼子が居ないのを良い事に、
俺はそのとき由美子と愛の営みまでしてしまった。
ト書き〈オチ〉
そして、その瞬間だった。
ハッと気づくと部屋のリビングに朋香が立って居り…
純夫「と、朋香さん!?あ、あなたどっから入って…」
もう忘れかけていた彼女が、
部屋のドアも開いてないのに
いきなり俺の前に現れてめちゃくちゃ驚き、
その驚きは文字通り、恐怖のように思えた。
俺がまだ喋り終えない内に彼女は…
朋香「純夫さん。あなた、私との約束を破りましたね。あれだけ頼子さん1人を愛するように言っておいたのに。あなたもあれだけ豪語して啖呵を切って店を出て行った割には、あっけなくその純情を踏みにじってくれましたね」
彼女がそう言った瞬間、由美子の気配が消えていた。
部屋のどこを見回しても彼女は居らず、
まるで白日夢を見ていたかのようだ。
そして…
朋香「純夫さん。あなたには今から責任を取って貰わなきゃなりません」
彼女がそう言った時、
俺はそれから自分がどうされるのか?…を何となく理解できた。
そして…
純夫「す、すみません!ごめんなさい!違うんです!これは彼女が僕を誘ってきたからつい魔がさしてしまって…!よ、頼子への、頼子への愛は本当に変わってないんですよ!」
となんとか責任逃れをし、自分が助かるようにと彼女に訴えていた。
散々土下座する勢いで謝った時、彼女は少し折れたのか…
朋香「フフ、仕方ありませんね。誰にでも魔がさすと言う事はあるもの。でもあなたは私との約束を破りました。この事の責任はやはり取って貰わなきゃなりません」
そう言って彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、俺の意識は飛んでしまった。
ト書き〈純夫のマンションを見上げながら〉
(頼子と由美子の夢の中だけに現れる純夫)
朋香「結局人の欲望というのは、今の幸せも未来の幸せも無くしてしまう。純夫はもう現実で頼子と由美子の前に現れる事はなく、その2人の夢の中にだけ現れる理想の夫になってしまった」
そう、俺は朋香が言うようにこの世での実体を無くしてしまい、
頼子と由美子が夜に眠って見るその夢の中だけに現れ、
その夢の世界でのみ、2人にとっての理想の夫になったのだ。
(頼子と由美子の2人の夢の中)
純夫「ハハ♪頼子、俺はお前をずっと変わらず愛しているよ」
頼子「ほんと?嬉しい」
純夫「由美子、これからもずっと2人で一緒に幸せな未来へ歩いて行こうな」
由美子「うん♪私あなたと一緒ならどこに居ても幸せよ」
(純夫のマンションを見上げながら)
朋香「私は純夫の『純粋に2人の人を同時に愛したい』と言う夢と本能から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。純夫は恋愛経験においてはまだ若かったのね。若さは夢という名の欲望を諦めさせない。その強さは強靭で、ついそれが理由で自分の身まで滅ぼしてしまう」
朋香「頼子と由美子、今日も楽しそうな夢を見ているようね。純夫がその夢の中で、理想の夫を演じているのかしら…?」
動画はこちら(^^♪
https://www.youtube.com/watch?v=pwDkfR_AzPA&t=214s
2つの純粋な夢 天川裕司 @tenkawayuji
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