白砂海

「遅かったね、夕凪くん。ずっと、待ってたよ。」

「白砂さん、なんで今日初めて会う僕の前で、飛び降りようとしてるの?」

「それはね、もう疲れたからだよ。みんなそろって、歌もダンスも出来る私のことをいじめ、ネットでは、他のみんなは少しミスっても慰められるだけなのに、私だとバッシング、ひどい時には引退しろなんてコメントで埋め尽くされる。挙句、作り笑顔だの、後輩に厳しいだの言われたり、事務所は私の経済的価値しか見てない人が一定数いる。社長は励ましてくれるけどそれ以外はみんな離れていったんだ。この学園でも、純粋な子以外からは嫌がらせを受けたりする、なんでわたしだけなの。」

 その声は彼女らしくなかった、アイドルらしからぬ感情の起伏、そして、息を入れる位置が明らかに遠く、彼女は息を切らしながら喋っていたのだ。

「それでも、僕を呼んだってことは、白砂さんは誰かに救って欲しかったんじゃないの、もしくは、普通の女子高生として生きていたかったんじゃないの?それなら、白砂さんは昔の僕だよ。僕を呼んだのは、同じ雰囲気を感じたからじゃないの?」

「そうだよ、私はあなたに私と同じ空気を感じた、だけど、あなたは私とは違う気がしたの、だから、あなたと話したかった。誰かに救って欲しかったの。」

「僕は自分を知られるのが怖い、天才子役として活躍してたけど、ある日、大きな演技ミスをした。そこから、人前に出るのが怖くなったの、そして、それを、変わった自分を知られるのが怖いの、一般の人は知らないけど、とにかく、芸能界には関わりたくなかった。そんな中、VTuberを見つけて、個人でやっていたら大成功だった。声変わりを経ても、声の雰囲気は残っていたけど、他の天才子役同然、忘れられていたから、そのまま活動を続けられた。僕が思うに、僕たちみたいな人間はは本当は楽しく同じ目線で話したかった、そして褒められたかったんだよ。そして、一番大切なことは、逃げてもいいけど、逃げちゃいけないってことだと思う。だから、白砂さんは一回世間から逃げてもいい、けど、信念は忘れずに、完全に逃げたら、僕みたいに帰ってくるのが遅くなるから。」

 僕がそう言い終わると、白砂さんは泣き出した。

「逃げていいんだ。」

「うん、逃げていいんだよ。」

 塀から降りてきた白砂さんを胸に抱き、優しく頭を撫でた。少し恥ずかしいが、僕にはこんなことしかできないから、と思いながら、彼女の気が治るまで、支え続けた。

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芸能科に内緒でVtuberやってる通信科の俺、無事特定され、美少女たちによる俺の取り合いがはじまる。 @ruiyodo

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