第1章・幼少期 編
001:赤ちゃんって不自由だね
001:赤ちゃんって不自由だね
俺〈黒島 健吾〉は前世で死亡し、神様の心遣いで2度目の人生として異世界へと転生した。
異世界の赤ちゃんに転生したが、こっちでの両親は父に〈エリック=A=ドイル〉、母〈エノカ=ドイル〉の間に生まれた。そして両親とも元冒険者らしい。
「私、この子の名前決めたわ!! この子の名前〈アッシュ=アーサー=ドイル〉ってどうかしたら!!」
「おぉ!! エノカの名付けのセンスは、少し不安だったが………アッシュは良いじゃないか!! それで決定しようか!!」
「やったぁ!! 坊やの名前は、これからアッシュよ」
俺の異世界での名前が決まった。
意識があるから母の名付けに悩んでいる姿を見てきたので、どんなモノでも良いと思っていたが、想定していたよりも良い名前を付けてもらえて嬉しい。
これから俺は〈アッシュ=アーサー=ドイル〉だ。
母に感謝を伝えたいところではあるが、どうも0歳では話せないので伝えられない。
これは困ってしまった。
ここから喋れるようになるまでは、人と喋れないとなると退屈だろうな。
人と意思疎通が取れない事に、少しの不安は感じていたが、赤ちゃんになってしまったら、それはそれで楽しい日々を過ごせている。
ただし1つこれだけは何とか出来ないだろうか……。
「ほら、アッシュちゃ〜ん!! おっぱいの時間よぉ」
これだよ。
成人男性が授乳を受けるって考えると恥ずかしい。
しかも母のエノカは、前世の世界でいうところのハリウッド女優並みの美女だ。
恥ずかしさと申し訳なさはあるが、これは生きる為だと俺に言い聞かせて母の乳を喰らう。
「ふふふ………アッシュは食いしん坊でちゅねぇ。このままだったら、ママのおっぱいが萎んじゃいそうだね」
おいおい、そんな恥ずかしい言い方をしないでくれ。
この姿を神様が見ていると思うと、とてもじゃないが後ろめたくなってしまうじゃないか。
とにかく授乳期が終わるまでは我慢して、直ぐに離乳食を食らうようになってやる。
そんな強い意志を持ちながら母の乳を飲み始めて8ヶ月が経ったところで、ようやく離乳食に変わるタイミングがやってきた。
「ちょっと前まで、おっぱい飲んでたのにねぇ………成長が嬉しいようで、少し寂しいわぁ」
母親というのは、そういうモノだろうか。
俺としては飲み続けるのは論外だ。
とにかく今は離乳食を食べ始めて、少しは恥ずかしさが減ったのだが、今度は新たな悩みが出てきた。
それは歯応えのあるモノが食べたいという事だ。
あまりにも歯応えのあるモノを食べていないので、そういう食事が恋しいのである。
これもあれも数年耐えれば、体が出来上がって納得できる食事を取る事ができるだろう。
そういう風に納得すると、俺はハイハイができるようになると、俺は動きまくるようになった。そしてハイハイで父親エリックの書斎に入って本を読み始めた。
「(文字を覚えるのが大変そうって思ったが、見た事ない字なのに読めて理解できるな………)」
これもザグレニウス様が言っていたところのスキルという奴なのだろうか。
1から勉強をしなくて済むのは、時間が削減できるので神様には感謝しかない。
「(へぇこの世界の大陸って4つなんだ。なになに1番大きい大陸を《ヨーラジア大陸》っていうのか。あとは大きい順に《ファリカ大陸》《カメリア大陸》《オートリア大陸》っていうんだ)」
「あっ!! またパパの書斎に入ってたのね。文字なんて読めないのに、この子ったら勉強熱心なのね」
「(母よ、毎日寝てるだけじゃ暇なんです………)」
本を読んでいるのは良いのだが、毎日のように母に回収されて読書が強制終了する。
本をコツコツと読み始めて1年が経ったところで本から色々な情報を集めて、この世界に少し詳しくなった。
この世界は4つの大陸に分けれていて、俺がいる国である〈オートリア王国〉は、大陸で1番小さい大陸に鎮座する王国である。
そしてこの世界は異世界らしくモンスターがいて、それに付随して冒険者という職業もある。さすがは異世界と言ったところだろうか。
それからオートリア王国もそうだが、この世界の大半の国は世界連盟に加盟しているらしい。これは前世の地球と同じですんなり覚えられた。
色々と覚える事があって大変ではあるが、実際なら物心が付く前に勉強できているので、他の赤ちゃんと比べたら明らかに有利な立場にある。しかし母さんに、読書中に回収されるのは変わっていない。
「アッシュは大きくなったら、頭の良い偉い人になるかも知れないわねェ!! 今から楽しみだわ!!」
「(母さんには悪いが、俺は冒険者になりたいと密かに思ってるんだ)」
せっかく異世界に転生したのだから、この世界らしい事をしなければ勿体無い。
その為にも今のうちから本を読み込んで、動けるようになったら、この世界を謳歌しよう。
「(それにしてもモンスターって、どんな奴がいるんだろうなぁ。ゲームとかみたいに、ゴブリンやオークみたいなのとかもいるかな)」
そんな事を考えながら暮らしていると、意外にも時というのは経つもので、1歳になる頃には立ち上がって歩けるようになった。
歩けるようになったおかげで、俺の探究心にも火がついてしまったのである。
父さんと母さんの目を盗んで、書庫に入ると魔法の本などを読み漁った。字が自然と読めるので、スラスラ読めて面白い。
「(この体でも魔法って打てるもんなのだろうか? 試しに魔法を使ってみよう………えぇっと使う魔法のイメージを頭の中で浮かべて、使う魔法を言うのか)」
炎魔法:
俺は初級魔法を放ったつもりだ。
それなのに喰らえば即死みたいな高火力になってしまったじゃないか。
大きな音に驚いた父さんと母さんが、青ざめた顔で駆けつけてくれたのである。
「ま まさかアッシュちゃんが、魔法を使ったの?」
「(そりゃあ驚くよ。俺だって1歳の赤ちゃんが、こんな事をしたら目を疑うもん)」
「エノカが言ったように、この子には魔法の才能があるかも知れないな!!」
「えぇ確かにそうね。アッシュちゃんには、類稀なる才能があると思うわ………」
いつもの母さんならば「ウチの子、天才だわ!!」と言って大騒ぎしそうなものだ。
しかし今日の母さんは、いつもとは様子が違くて元気がないように見える。
「どうかしたのか? いつものエノカなら、天才だって騒ぐのにさ」
「えぇとても嬉しいのよ。でも、こんな高威力の魔法を持っていてアッシュちゃんの体は安全なのかしら」
「(あぁそういうところを心配してたのか………いつもは甘やかすけど、腐っても親って事だな)」
母さんの気持ちも分かって良かったが、親を喜ばすというのも難しいのだと思った。
そうなると赤ちゃんって不自由だよなぁ。
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