家のアップデート
@no_0014
家政婦ロボット
「家政婦ロボット?」
突然出された案に、夕食の支度をする手が止まった。
「うん。新しいのが出たらしいんだ」
「……そうなの。今の暮らしに必要かしら?何か不満とかあったら言って欲しいのだけど」
「ないよ。ただ、どんな機能が追加されたのか気になって」
息子と夫と、三人暮らし。もうすぐ息子は幼稚園に入る年だ。夫の光一郎さんは新しいことに好奇心旺盛で、戸建てに個を識別する認証方式のセキュリティと様々なサポートロボットたちがこの家で生活している。掃除も電気も全てがセンサー感知や学習した記録で反応し、稼働している。
「明はどう思う?」
再び夕食をテーブルに運びつつ、テレビに夢中の息子に声をかける。ネットに投稿される動画ばかり再生してあまり喋らない子だ。
「……」
「明、もうすぐ夕食だからみんなで食べる時には動画は消してね」
「……うん」
素直に聞いてくれるところはとても可愛らしいお利口さんの息子だ。
「その家政婦さんはもっと人間らしさがあるらしいというか……なんていうかな、感情に似たものをもっと出してくれるらしいんだ」
食事を始めて早々に光一郎さんは嬉々として話を始めた。
「もっと、もっとって……そんなに私じゃ足りないの?」
「いいや、君は完璧だよ。」
「じゃあどうして」
「アップデートだよ。家のね」
これは光一郎さんの魔法の言葉だ。この言葉を使った時は必ずそれは遂行される。そしてそれはいつも私から仕事を奪う代わりに明も喜ぶし、光一郎さんもご満悦になる。
彼らの幸せが私の幸せ。彼らが喜ぶことを私は否定することはできない。
今回は何を奪われるのだろう。私から二人のためにできることの中で。
それから数日後の事だった。夕食の買い物を済ませて自宅の前で鍵の認証を受けた。しかし、エラーが発生したのか玄関の鍵の認証キーは私を認識しなかった。
「どうしたの?今までずっと開けてくれていたのに……不具合かしら」
何度も何度も試したが、認証されて鍵が開くことはなかった。こうなると、鍵穴の無い扉はどうすることもできない。スマートフォンから光一郎さんの名前を探そうとしてはっ、とした。
スマートフォンには初期化された画面が表示されたのだ。視界にノイズが入るように目の前が揺らぐ。
慌てて庭に行き、窓から中を覗こうとしたがカーテンが閉じていてわずかな隙間からしか中を見られないが、そこには光一郎さんが家政婦ロボットと言っていた、彼女が夕食の支度をしていた。明や光一郎さんがよく家のアップデートを行った時に見せるような喜びの人間の笑顔を浮かべている。三人が笑顔で夕食を囲んでいる。
私には記憶がない。これはデータだ。亡くなってしまった妻の代わりにと、私を光一郎さんが連れて来た。私は妻じゃない。私は母でもない。
私は、旧型の家政婦ロボットだ・・・・・・。
家のアップデート @no_0014
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