第17話 二人の魔法少女
俺が廊下に出て施設の中を見回していると、向こうから二人組の少女が歩いてきた。
一人は褐色肌の女性で、メッシュの入った派手な髪を左側にまとめて巻いている。指先には長い爪とキラキラのデコレーションが光っており……一言で言うなら、ギャルだ。
あれも魔法少女なのだろうか。ウイカとはあまりにも印象が違いすぎて戸惑う。
もう一人はウイカと同じぐらいの低身長少女。ミディアムショートの髪は癖っ毛で跳ね回っており、装飾品も特に身に着けていない。パッと見は内向的な印象。対照的な組み合わせだと思った。
と、ギャルの方が俺に気づいた。何故かニヤりと微笑み、高いヒールのブーツをカツカツと響かせてこちらに駆け足で近づいてくる。
「あー! 君が噂の……ふーん。へえー」
言いながら俺を上から下までじろじろと見まわしている。
「な、なんですか」
近づいてきて分かったが、身長も俺より少し高い。ヒールの分を差し引いてもギリギリ負けている気がする。
かなりグラマラスな体型で目のやり場にも困るのだが、少女は俺の反応を一切意に介さず、さらにずいと近づいてきた。
「君、あれでしょ? ウーちゃんの任務の子」
「う、ウーちゃん……?」
「そう、ウイカ・ドリン・ヴァリアンテ。あれ? 知らない?」
いや、ウーちゃんと言われてピンと来るわけないだろ!
かなり軽い口調の少女だが、おかげで警戒心は少し薄れた。ジェラルド司令との会話では緊張感があったので俺もだいぶ不安になっている。
少女はにこやかに挨拶した。
「あたしはドロシー・スターホーク。よろしくー! こっちはルーちゃん」
「る、ルイス・ミラー。……どうも」
「ああ、えっと。荒城勇人です」
丁寧に名乗られたのでこちらも返したが、ギャルのドロシーさんとは打って変わってルイスさんはあまりこちらに良い反応を見せていない。元々目つきはかなり鋭そうだが、それとは別に俺を完全に睨みつけている。
俺、何かしたかなあ。
そんなルイスさんの反応にも構わず、ドロシーさんは俺に提案してきた。
「ウーちゃん捜してるっしょ? もう部屋に戻ってるから、案内してあげよっか?」
「ありがとうございます、助かります」
「あたしらも居住区戻るからねー。それに、君のことは知っておきたかったし」
「?」
よく分からないが、渡りに船だ。この施設の構造はまったく分からないし、そもそも言語も入り乱れている。案内図も英語で俺の語学力では心許なかった。その点二人は見事な日本語で話しかけてくれたので助かった。
……そういえば。
「お二人とも、日本語お上手ですね」
二人が歩き出したので、付き従いながら問いかける。
ドロシーさんは再びニヤりと笑う。笑顔を見せてくれるのは助かるが、笑うところなんてあっただろうか。
「あたしらね、今の任務が終わったら日本担当になるんだってー」
「担当?」
魔法少女は地域別に割り当てられていたらしい。
日本での任務があるから日本語を覚えたのだろうか。どれぐらい勉強したのか分からないが、まったく気にならないネイティブな発音で感心する。
というか、そういう仕組みならウイカの日本語も勉強の賜物なのかもしれない。
「日本は比較的安全だったから、ウーちゃん一人で大丈夫だったんだけどね。最近は獣魔の量も増えちゃったし、増員タイミングだったんだー」
「へえ。そういう感じだったのか」
日本の担当はこれまでウイカ一人だったようだ。戦闘中に増援が来ないのかと藁にもすがる思いで願ったのが無駄だったと今分かるとは。
しかし、獣魔が増えているというのは只事じゃない。今日のバトルでは明らかにウイカも苦戦していたし、あんなのがどんどん出てくれば本当に身がもたないだろう。
……やっぱり、俺が。
「そうそう。君さ、魔法が使えるってマジ?」
「そう、みたいです。今日はじめて使いましたけど。というかもう知られてるんですね」
「まあねー。特例ってことで、今施設内はその話題で持ち切りだよーん」
言われてみると、廊下をすれ違う他の魔法少女らしき人たちもみんな俺の方を見ている。
が、正直言って反応がよくない。ドロシーさんの隣にいるルイスさんも明らかにこちらを警戒しているし、他の人たちも基本的に俺には嫌疑の目を向けている気がする。俺から視線を送ると全員逸らしてくるし。
ドロシーさんだけが優しい。
「みんな見てるねー。しゃーないか」
「あの、あんま好意的な感じがしないんですけど」
「んー? それもしゃーないよ。あたしも、君のこと嫌いだし」
「え?」
訂正。ドロシーさんも優しくなかった。
嫌われるようなことをしたつもりは一切ないし、なんならジェラルド司令は彼女らを助けるために力を貸せとまで言っていたのに。
別に救世主として崇め奉られるのは趣味ではないが、それにしたって温度差が激しい。ジェラルド司令も歓迎してくれるような人ではなかったので基本的にみんな冷たいのかもしれないが……。
「俺、なんで嫌われてるんです……?」
「えー? 分かんないかあ。まだまだだねー」
質問したのに思いきりはぐらかされた気がする。
ルイスさんの様子もチラりと確認するが、やはりこちらを警戒しているというか、できれば会話したくないという反応だ。
なんだか分からないが歯がゆい。
とにかく、話しながら廊下をぐねぐねと曲がり、階段を上って別のフロアに出たところでドロシーさんは足を止めた。
「はい。道案内はここまでー。ウーちゃんの部屋はそこね」
いくつか並んでいる扉の一つを指差す。ご丁寧に表札が出ており、アルファベット表記だがウイカの部屋だと分かった。
嫌われているのは釈然としないが、ここまでの道のりは助かったのでお礼はきちんとしておこう。
「丁寧に、ありがとうございました」
「いいっていいって。……あ、そだ」
ドロシーさんが俺の耳元に顔を近づけてきた。
彼女の長いまつ毛がやたらと印象的に映り、俺はドキッとする。
「ウーちゃんと話し終わったらさ。あたしの部屋にも来てよ。この廊下の突き当たりの部屋だからさ」
「ええっ!?」
話の内容もかなり緊張するものだった。それって、どういう……?
しかし、詳しく聞く暇もなくドロシーさんは手を振りながら離れていく。一緒に歩いていたルイスさんは俺に一切目もくれず、二人一緒に廊下の向こうへと消えていった。
「……なんだったんだ」
一見優しく接してくれたが、ドロシーさんはハッキリ俺が嫌いだと言った。ルイスさんも態度から見て同意見なのは明らかだ。
すれ違った他の魔法少女たちも、外から来た俺が物珍しいというだけではない警戒の仕方をしていたように思う。
しかしその上で、ドロシーさんは俺を部屋へと招待した。なんだか煽情的な誘い文句だったが……これ、大丈夫か? めちゃめちゃ俺のことを憎んでいて部屋で拷問されたりしないよな?
考えても埒が明かない。
今はまずウイカと話をするところからだ。俺は意を決して、彼女の部屋の扉をノックする。
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