シックスフィートアンダー
宇宙(非公式)
音楽の国 クライデベレーナ
マリア
ヒト があらわれた!
ロッカーは ヒト をこうそくした!
2のダメージ! ヒト は動けない!
戦闘が終わる。とはいえ、ヒトは死んだわけではなく、ただ気絶しただけだ。
今となっては昔の話だが、世界は一夜にして、光を失った。人類は、魔王による呪いで朝と死を奪われた。
そのせいで、世界はいつまでも夜のままで、月の光を頼りに生活をしなければならなくなった。
さらに、人は死ねなくなり、本来の寿命が尽きると、先程の『ヒト』状態になる。脳も身体も老衰しきり、液体と固体の間みたいな体の、無力な存在になる。
「やっぱり、マリアと俺で探すしかないよな」
ロッカーが拳を握りしめる。ロッカーは私の幼馴染だ。
「そう、だよね」
さあ、気を取り直して。彼はそう、表情を変えた。
「いつものバーに、情報収集と行こうぜ」
こんな世界でも、クライデベレーナ王国には音楽が溢れている。人は無くなった朝の代わりに、太陽の歌を歌う。陽気な歌だ。
広場を通れば誰かの歌声が聞こえ、細い道を通ればどこからかジャズが聞こえ、無論、例のバーに行っても音楽が絶えない。
王立の広場で人々が優雅に踊るのを潜り抜け、三番通りに出た。少し歩くと、今度は月の音楽が聞こえ始めた。そういえば、いつの間にか夜になっている。絶好のバー日和だ。
「あ、そういえば、ロッカーは、どんな音楽が好き?」
「急だな」
「いつだって世界は唐突なのだ!」
好きな詩の一節を引用してはみたものの、あまり格好よく決まりはしなかったし、そもそもロッカーは考え始めているようで、私の話は聞いていなかった。
「まあ、こんな世界に変かもしれないけど、俺はやっぱり夜の歌が好きなんだよな」
「全然変じゃないよ、私も好き」
そうこう話しているうちに、いつの間にか人気が多くなってきた。道を右に曲がると、とても大きな建物が見えた。看板には、「シャ・ノワール」と書かれている。私たちはバー、『シャ・ノワール』の扉を開く。重厚感のあるベルが鳴った。カウンターに座って初めて、マスターは私たちの存在に気がついたようだ。
「いつもの」
「わ、私はミルクでお願いします」
マスターは寡黙な人で、一つ頷いて注文を承諾した。
この国の民はなぜか、一人のアーティストの曲を繰り返し聴く習性があるようで、マスターものその例外ではない。店内では常に一つのアルバムが流れている。そういえば、ロッカーはこの曲をよく聴くと言っていた。
この雰囲気が好きな人も多いのか、ここには国中の人が来る。そのため、情報収集といえば『シャ・ノワール』。そういうことわざもありそうだ。
早速、ロッカーは初老の紳士に話しかける。古びたピアノの隣に座っていて、私は弾きたくなった。紳士は髭を蓄えていて、整えられた髪から気品が感じられる。深く刻まれた皺が壮絶な人生を物語っていた。
「すみません、『聞いたら死ぬ音楽』を知りませんか?」
第一話
『古い音楽』
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