異世界転生したけど種族が人間ではなく吸血鬼になってるんですけど!?
美鈴
プロローグ
“…ポタッ…ポタッ…”
そんな音と共に床に徐々に大きく広がる溜まりに滴り落ちる真っ赤な雫…。
左上腕部にはズキズキと鋭い痛み…。見なくても分かる。それは先程剣で斬りつけられた深い傷だから…。
「…次の一撃で終わらせる」
相対する白銀の髪の美少女が俺に向かってそう言った。
彼女の持つ細身の剣が淡く蒼く輝き…
―次の瞬間…彼女の姿が一瞬消えたように見えた後、蒼い光の筋みたいなモノが俺に向かって来るのがなんとなく分かった。
イヤな感じがする。もしかして詰んだ?これって死の予感というヤツなのだろうか?逃げ場のない部屋の片隅でそんな事が脳裏によぎる。
前回死んだ時は分からなかったけど…と、いうよりも前回死んだ時の事は全然憶えていないんだが、ほら、よく言うじゃん?体は動かないけど頭だけはやけにクリアになって、事故の瞬間は世界がスローモーションになるとか、死の瞬間は走馬灯が駆け巡るだとか…。
まさに今がそうなんだよね。先程から全てがスローモーションになってるんだよね…。だからこそこんな風に語れったり思える訳なんだけど…。
―とにかくこんな状態だからこそ分かる事が1つだけ…そう1つだけある。俺にとって非常に重要で重大な問題…。それは俺に迫る白銀の髪の美少女が俺に対してしようとしている事だ。
どうやら彼女は俺の首を剣で斬り落とそうとしているんだよね………。トホホ…。これはもうどうにもならないよな?さっきも言ったけど体は思う様に動かないしなし、ソレを避けきれそうにない。まさか二度目の人生が始まったと思ったらその日のうちに終了だなんて…。
俺は諦めて目を瞑りこの世界に来る前の事を思い返す。折角転生させてもらったのに…
(―アーシェ様…)
***
「―ここは?」
何があったのかは分からない。俺はそこに居た。
辺りを見渡すと真っ白い空間。
「―俺はどうしてこんな所に?」
『残念ながらあなたは過労で亡くなってしまいました』
声がした方へと視線と体を向けると神々しいとでも言えばいいのだろうか。とにかく光を纏った何かが立って…いや、浮いていた。
背からだと思うが翼らしきものが生え、声やなんとなく分かる体つきからして多分女性だとは思う…。光のせいでその姿をハッキリと見ることは出来ない感じだ。俺は恐る恐るその女性?に問い返す。
「か、過労で亡くなった …んですか?
俺、いや、僕は?」
『普通に喋って貰って構いませんよ』
「あ、はい」
『簡単にお話するとあなたは過労で亡くなり私の所へと魂が導かれて来たのです』
そうか…。俺は死んだのか…。死ぬ直前の事も俺自身の事も何故か覚えていない。
『それは私の元へと来る時に魂が一度洗浄された為でしょう。必要な事以外は覚えていないと思いますよ』
口にはだしてなかったよな?
―と、言う事は心を読まれたのか?
じゃあ俺の目の前いるこのお方は神様?
『ええ。その認識で間違っていませんよ』
「なるほど…。でしたら…俺はこれからどうなるのでしょうか?天国とかそういう所に行くのでしょうか?」
『私の元へとその魂がやって来たという事はあなたは転生する事が出来るのです。』
「アニメやラノベとかでよく見る流行りの奴ですか!?」
『くすっ…ええ。それです。今流行りの異世界転生であっていますよ』
神様に笑われた!?思いの外喜んでしまってた!?オタクとか思われてないよねっ!?
…っていうかそういうのは覚えているのかよ、俺。
『あなたにとってそういった知識等が必要になるからでしょう』
こういう知識が必要なら魔法とか色々ある世界か?
『ええ。モンスターもいますよ』
「マジかっ!? っと、すいません。興奮してしまいまして…」
『気にしないでいいですよ。ここに来た人は必ずと言ってもいい程そう言いますから』
ここに来た人という事は何人かは既に異世界へと行ったという事…だよな?
もしかしてその人達が先に何か技術や知識なんかを色々広めていたりするのかな?
『いえいえ。何も広まっていませんよ、あなたが向かう異世界は。各々向かった異世界は違いますしね』
「!?」
それじゃあ、俺が今から行ける異世界はやろうと思えば俺自身の手で色々作ったり、色々広めたり出来る訳か。
『人の言葉で言うならその方が生きがいがあるでしょう?』
「確かに」
何もかもされているよりかはされてない方がいいよな?考え込んでしまっていると、
『では…そろそろ時間です。色々聞きたい事はあるとは思いますがそれらは後々知る事になるでしょう』
神様が言った。
「えっ!? ま、まだ色々―」
『我…女神アーシェの名において、あなたに私の恩寵と先立って必要なものを与えましょう』
神様の名はアーシェというのか。女神アーシェ様か…。女神という事はやっぱり女性の神だったのか…。そんな事を思っていると“パァァァァ――ッ”っと俺の体が輝きだして…景色が歪みだし…
『…どうか今度こそ――』
何か女神様が言っているんだけど…俺が聞こえたのはそこまでだった。
***
「―んんっ…こ…こは?」
最初に視界に入って来たのは多分どこかの家の部屋の天井らしきものだった。
「…知らない天井…だな…」
朦朧とする意識の中でもある意味お約束の台詞は出てくるもんなんだな…。
「…それ…に…アーシェ…様は…最後に何て…」
言ったんだろうかと、口にしようとしたと同時に“カチャカチャ…”という鍵を開けるかの様な音…それからすぐに“ギィィィ”と、ドアが開いた様な音がしてドアが閉まった音。そしてコツコツという足音が聞こえてくる…。
(誰か来た!?)
俺は慌てて上半身を起こし周りを確認…。すると俺はどうやらベッドに眠っていたみたいで、その部屋には他に中窓が1つ、タンスに小さめの机や椅子があるのが見てとれる。
「…もしかして俺が倒れていた所を助けて介抱の為にベッドに寝かしてくれてたとか?」
―で、こちらの部屋へと近付いて来る足音の主はここの家主さんで、俺を助けて介抱してくれた後、どこかに出掛けていて帰ってきたとかそういう事か?それしか考えられないよな?縛られたりしてないしな。とにかくどこの誰かは分からないけど、この部屋に入って来たら挨拶しないとな…。ドアから入って正面に俺が居るベッドがあるし、向こうもすぐに俺が起きている事に気付いてくれるだろうし。
“カチャ…キィッ…”
「…っ!?」
ドアが開いたと同時に彼女は声にならないような声を短く発した。驚いた様な表情も一瞬…表情は引き締まり、腰に差してある剣へと素早く彼女の手が伸びて抜刀…あれっ……おかしいな…。何か彼女のリアクションが思ってたのと違う気が…マズくねぇっ!?
「ちょっ、ちょっと待って!?俺は…」
***
そして問答無用で斬りかかられ、咄嗟にソレを避けたと思ったものの左上腕部に傷を負い冒頭へと至った訳だ…。出来れば痛みを感じず一瞬で終わるのなら終わればいいなと思いながらその時を静かに俺は待ったのだった…。
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