クレアティオ・コンティヌオ

室井あきのり

自信モテ生キヨ 生キトシ生クルモノ スベテ コレ 罪ノ子ナレバ

Side A - 不穏な朝


朝7時、柔らかな陽光が部屋を照らす穏やかな朝だった。僕はいつものようにパソコンを立ち上げ、にぃにの配信にログインした。にぃにはすでに配信を開始しており、画面越しにその姿が見えた。


にぃには突然、奇声を上げた。まるで何かに取り憑かれたかのように。一瞬、配信のノリなのかと思ったが、すぐに様子が違うことに気づいた。にぃにはカメラを持って立ち上がり、部屋を出て行く。そこは複数のドアがある、少し変わった造りの部屋だった。


視聴者たちはざわつき始めた。いつもはにぃにの配信を楽しみに集まる常連組に加え、この奇妙な雰囲気に惹きつけられた好奇心旺盛な人々も混じっていた。


にぃには奥の部屋から戻ってくると、虚ろな目をして無表情で座り込んだ。声だけはいつものにぃにだったが、その様子は明らかに尋常ではなかった。


「お前らのせいだ...」


にぃにはそうつぶやき、再びカメラを持って部屋を出て行く。廊下は新築のように清潔で、左右に3つのドアが並んでいた。にぃには右側のドアを開け、中に入って行く。


そこは荒らされた部屋だった。窓ガラスが割れ、壁に穴が開いている。そして、その中央には... 首吊り自殺を思わせるロープと椅子が置かれていた。


視聴者たちの間で様々な声が飛び交った。心無い冗談を言う者もいれば、真剣に心配する者もいた。


「やばくね...」


僕はただ呆然と画面を見つめることしかできなかった。にぃにが、にぃにが死ぬなんて... そんなのあり得ない。


「頼む、にぃにが死んだら僕は何を生き甲斐にして生きていけばいいんだ...」


僕は必死にコメントを送った。にぃにが配信をやめるなんて、考えたくもなかった。


Side B - 混濁する記憶


意識が戻った時、そこは病院だった。時間の感覚はなく、何時間、何日経ったのかもわからない。ただ、自分が首吊り自殺をしたという記憶だけが、ぼんやりと頭に残っていた。


「外呼吸が出来なくなったことで、血中の酸素濃度が低下し、内臓が機能障害を起こした。しかし、奇跡的に細胞は生きている」


医者の説明は続くが、僕の頭の中は混乱していた。にぃに、配信、そして荒らしの系譜... 全てが混じり合い、現実感を失っていた。


「配信はどうなったんだ...」


僕は廃人のような顔で、白髪まみれの髪を掻き乱した。


「スマホ!パソコンをくれ!」


医者は静かに言った。


「あなたはとある配信者に憧れて、配信を始めたのですね。しかし、その配信者は精神を病み、最後は自殺をしてしまった。あなたは生き甲斐を失い、その配信者の幻影に取り憑かれて自殺未遂をしたのです」


にぃにの配信、にぃにの自殺... それらが現実なのか、夢なの中なのか、もはやわからなかった。僕の記憶は確かにそこにあったが、もしかしたらそれは、誰かの記憶なのかもしれない。

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クレアティオ・コンティヌオ 室井あきのり @k2-1208

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