雨の国の猫巫女セレン

夢月みつき

🌟前編「雨の国の晴れ巫女」

 登場人物紹介


 セレン

 主人公の猫獣人族の巫女。


 レアン

 猫獣人族で町長の息子。


「雨の国の猫巫女セレン」表紙

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093077613766294


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 ここは獣人達が暮らす国、レインウォルド。雨の降りやまない“雨の国”と呼ばれている。

 誰が書き記したのかは不明だが、雨の降りやまないのは、太陽の国の神に雨の国の女神が恋をして、失恋をしてしまい、それからやまなくなったとの神話も残されている。

 茶の瓦屋根の一軒の家の窓から、憂鬱ゆううつな顔をして雨空を眺めている少女がいた。



 猫獣人族のセレン

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093077613941168



 彼女は、猫獣人族のセレン。猫耳と尻尾を持つ、ウェーブが掛かった銀髪ロングヘアと宝石のような青い瞳で、水色のワンピースを着た可愛らしい女の子だ。

 外には干せないので、毎日の部屋干しがこの国の当たり前で

 除湿剤やエアコンが飛ぶように売れる。



 訪問した人に見えないように部屋の奥には、洗濯物が掛かっている。


「ふう……今日も雨だねえ。この国は一年中、雨だにゃ」

 

 セレンは、ふにゃーと耳と尻尾をたれてテーブルに頬杖を付く。

 その時、家のドアがノックされた。

 外から、声が聴こえる。



「巫女殿、セレン殿、いらっしゃいますか」


「町長さんの息子のレアンさんだにゃ」


「はーい、今開けますにゃあ」


 セレンが玄関に出てドアを開けると、オレンジ色の髪と優しい緑色の瞳で国の公立中学のブレザーを着た猫耳と尻尾のある容姿の整った少年が立っていた。

 この少年は、この町の町長の息子レアン。



 セレンより、一つ年上の物静かな性格の猫獣人族だ。

 セレンは、雨をやませる能力を持っていて“晴れの猫巫女”として、一週間に一度だけ能力を解放して、この国の雨をやませていた。



「セレン殿、毎週お力添えを頂いてすみません。今日も、雨をやませて頂けますか」


 レアンは右手を胸に添えて軽く会釈をする。


 

 猫獣人族のレアン

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093077614293459



「レアンさん、今日も紳士だにゃ~、素敵だにゃん」

 

 セレンはレアンを見ながら、頬を染めていつものでっかい独り言をつい言ってしまう。

 すると、ぽっとレアンの頬が染まって照れながら彼女に言った。


「あのっ、セレン殿?いつもの独り言が、その……」

 ハッと気がついたセレンの顔が真っ赤に染まる。



「はにゃあっ!?心の中で呟いたつもりなのに、また!レアンさんゴメンにゃ」



 はにゃはにゃと、尻尾の毛を逆立ててあたふたしながら謝る彼女にレアンはふっと微笑むと「いいえ、謝ることではないのでお気になさらず、僕は嬉しいですよ。そろそろ、行きましょうか?町の広場へ」とセレンを導く。



 セレンは、レアンを少し待たせて、巫女服に着替えてから、彼と一緒に出掛けた。





 ☔






 しばらく傘を差して二人で並んで石畳の道を歩いて行く、立ち並ぶ家々は、瓦屋根の家が多く、この国の名物虹色の紫陽花が今日も、不思議な色味で咲いている。

 

 連日のように雨がしとしとと降り、町には虹色の紫陽花が咲いて洗濯物はいつも、部屋干し。生まれた時から、既に雨ばかりだった二人には、もう見慣れた光景だ。



 それでも、雨が降り続くと困りごとは山盛りなので、国で唯一と言われているセレンの存在は、人々にとって無くてはならないのだ。



 町の広場に二人がやって来ると、情報を聞きつけて町の人々が傘を差しながら今か今かと、待ちわびていた。



 広場の真ん中で、セレンの晴れの儀式が始まった。

 晴れ巫女と呼ばれるセレンは、舞を踊って雨を一時的に止めることが出来る力を持っている。



 晴れの猫巫女セレン

 https://kakuyomu.jp/users/ca8000k/news/16818093077614558930



 彼女が舞いを始めてから、数分後。

 それまで立ち込めていた分厚い雲が割れ、陽の光が差し込んで来た。



「わあっ、久しぶりのお日さまよっ、セレン様ありがとう!これで心置きなくお洗濯物を干せるわぁ」


 人々は、喜んでセレンに礼を言うと家に戻って行く。



「ありがとうございます。いつもながら、お見事ですね。セレン殿!見てください、町の人々があんなに喜んでいます」



 レアンが嬉しそうにセレンを見ると、セレンも「良かったにゃ」とほくほく顔でレアンと顔を見合わせる。



「たまの晴れの日にゃ、レアンさんと一緒に空飛びたいにゃあん」

 


 セレンは、またでっかい独り言を漏らし、もじもじしながら頬を染めている。

 それを見聞きしたレアンも頬を染め「いいですよ、セレン殿が望むならよろこんで」そう言うと「よろしくお願いします」とセレンに頼んだ。



「ありがとですにゃん、レアンさん」

 


 セレンは、ぱあっと顔を輝かすとレアンの手を握ってふわりと宙に浮いた。

 セレンの能力が発動されて、セレンとレアンの体が虹色に輝くと二人の背中に光の翼が生えて大空へと飛びたった。




 快晴の空を二人で飛んでいくセレンとレアン。


「風が気持ちいいですね!あっ、あそこに洋菓子店が。あんなに小さく、みてください。セレン殿」



 レアンは指を差し、いつもの落ち着いた雰囲気と違って気分を高揚こうようさせ、子供らしく興奮している。

 そんな彼の様子を見て、セレンはレアンを連れて来て良かったなと心底嬉しく感じた。

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