異種族商会”ハッピーセット”では多種多様なものが販売中!!
@baibaisan
第1話 冒険者を殺します
「魔石100個確かに受け取った。代金はここに置いておく」
「はい、まいど」
金貨の入っているであろう小袋を机に置き、商品を仲間に持たせ男は帰っていく。
磨かれた剣を商談中何度も触りながら落ち着かない様子だった彼は仲間が重い荷物を持っているにもかかわらず、足早だった。
男が出るのを見届け、ほっと一息をつく。この取引が自分にとって初めてだったこともあり少し緊張をしていたようだ。お腹が少し突っ張っている。
「先輩。とりあえず無事に終わりましたね」
横にいるフードを深く被る先輩に話しかける。
「でもよかったんですかね。魔石売っちゃって。もう少し待てばかなりいい値段ついたんじゃないですか?」
魔石はその名の通り魔力を秘めた石だ。魔道具、マジックアイテム、儀式、魔法を使うあらゆることに使われる資源だ。近頃隣の国が戦争準備を始めたという情報が入って来た。まだ表だった情報ではないのでレートに波風はないが半年も待てば確実に値段は高騰するだろう。
それなのにもかかわらず団体でもない個人パーティの冒険者に安い価格で販売するという先輩や組織の意向は理解し難かった。
「いいんだよこれで」
フードの下から傷だらけの手が伸びる。皮膚の脈動がある傷もあれば体と同化した傷もある。浅黒く傷だらけの筋肉の腕からは歴戦の戦士を思わせる雰囲気が出ているが
それは男の腕ではなかった。
先輩は机の上の小袋を手に取り中身を数える。小袋とはいえあれだけの魔石を買ったのだから中には金の輝きが多くあるはずだ。
「混ざりがある」
「混ざり?」
僕の声が聞こえなかったのか一言を呟いた先輩は小袋をポーチへとしまいドアへと歩いて行った。それに置いていかれないようにと急いで荷物を片付け後を追う。
ドアを出て、周囲を見渡すと先輩は下の階で冒険者への依頼相談カウンターで受付嬢と話をしていた。
階段を降りてそばに駆け寄ると冒険者組合と併設された酒場の席に座る様に指で指示された。どうやら先輩の話は長くなるようだ。
その場を離れ指示通り椅子に座り、荷物を机の上に置く。しばらく待っていると先輩が向かいの席に座った。テーブルにやってきたウェイターに幾つか注文するとポーチの中のものを机の上に並べ始めた。手入れをするらしい。
「何か依頼でも頼んだんですか?それとも先輩、冒険者にでもなるんですか?」
「調べごとだ」
商談中の時より少し楽しげな声で先輩は答えた。
「それにしても冒険者っていいですよね。楽しそうだし、お金もいっぱいもらえるし。僕も大きくなったら冒険者になりたいなって昔よく思ってました」
「奴らがそんなふうに見えたか?」
「それは違いますけど・・・」
昔憧れた冒険者。未知を切り開きまだ見ぬ宝を喜び合う。現実はそれほど甘くないことはわかっているがそれでも期待せずにはいられない。
しかし少なくとも先ほどの冒険者パーティの4人はその理想像とはかけ離れていた様にも思える。全体的に表情が暗い割にはどこかこちらを見下しているのが言動の節々から垣間見えた。
「でも実際魔石なんて何に使うんでしょうね?個人で使うには多いですし」
「さあな」
そんなことは興味がないとでもいう様に先輩は手を顔のまえでふる。
ウェイターによって先ほど頼んでいた食事が机の上に並べられる。
机の上に並べていたアイテムはいつのまにかしまわれていた。
冒険者ギルドは儲かっているのか安めの値段の割には量がありとても食欲をそそる香りを放っていた。
頼んだ全ての料理が並んだ後他のテーブル同様に乾杯をして食事に手をつける。
今日は緊張のせいか朝食が喉を通らなかったのでお腹に入る限り料理を詰め込んだ。
満腹感に浸ってお腹をさすっていると先ほど先輩が話していた受付嬢が僕たちのいるテーブルまでやってきて資料を並べ始めた。
「こちらがお求めの資料になります」
「ありがとう」
先輩は机の上に置かれた資料を手に持ちうんうんと考え事をしている。
「もー僕にも教えてくださいよ。相棒でしょ!?」
「子供は静かにしてな」
「あーあ。言っちゃった。一番言ったらいけないことを言っちゃった。今後先輩の面倒を見ません、と。酒でデロデロになって帰れなくなっても知りません。部屋の片付けもやめます。ご飯も作りません。帰ったら姫にパートナー変えてもらいます。」
「冗談」
そう言って先輩はニヤニヤとしながら資料を投げ渡してくる。
それをキャッチして見るとそこには先ほどの商談相手の冒険者パーティの顔とさまざまな情報が書かれていた。
パーティ名:スーパーノート
リーダー:ノート メンバー:エックス、ゼット、ケリー
順に第4位級冒険者、第6位、第6位、第5位。・・・・
「これってさっきのパーティの冒険者ギルドの登録名簿ですか?なんでこんなものを?」
「話は部屋でする」
そういうと先輩は冒険者ギルドから宿へと帰ってしまった。
本当に自分勝手すぎる。足並みを揃えるっていう考えはないのかしら。
商談で使うことのなかった商品がパンパンに詰まったバッグを背負いドアへと向かうと何者かに肩を掴まれる。
「代金はらえ」
振り返ると首筋ビキビキに立っている顔の怖いおっさんがいた。
強盗だろうか。違う。酒場の店員だ。あいつ金を払わずに出て行きやがった。
先輩が払うという常識をどうやらお持ちではなかったらしい。
小さな中身の少ない財布から代金を支払い、心に決めた。
パートナー変えてもらおう。
宿に着くとフードを脱ぎ半裸になっている先輩が立っていた。
「エッチ」
「はいはい。エッチエッチ。エッチすぎてご飯代払っちゃいました」
「それなら許してやる」
半裸で部屋をうろつきながらナイフを振り回し感触を確かめている。
「この後男でも誘って殺すんですか?」
振り回されるナイフを避けながら荷物を置き皮肉を飛ばす。
「嫉妬するなよ」
そう言いながら先輩は2本3本と振り回すナイフを増やしていき曲芸の様になっている。
こうなると落ち着くまで時間がかかるのでバックの底から本を取り出し、魔術の勉強をする。何度も繰り返し読んでいるのでかなりボロくなっているが新しく買う金はなかった。まあここに書いてある魔術を全て使いこなせるわけではないのでまだまだ読み込むことができるのだが。
「こっちに座れ」
本から目をあげると時間が立ったのか部屋に入る日の光がオレンジ色を帯びていた。
読んでいたページを覚え本を閉じ先輩の隣に腰をかける。
「ンフー」
えらい興奮をしている。鼻息が荒い。嫌な予感がする。
するりするりとこちらに手が伸びてくるが脇腹をつくことによって、手を引っ込ませる。
「ケチなやつだ」
そう言いつつも顔はにやけておりどこか満足げな様子だ。
「それで何をするんですか」
「あいつら殺すぞ」
やっぱりか。なんとなくそんな気がしてはいたが一応理由を聞く。
「なんで殺すんですか」
「そりゃあいつらが悪い奴らだからだ」
そう言いながら先ほどの冒険者からもらった小袋を先輩が指差す。
中を開けてみると想像していた通り、金貨が多く煌めいていた。
枚数を数えながら先輩の顔を見るとニヤニヤしている。
枚数の問題ではないのだろうか。適当に一枚をつまみ目に近づける。
多少柄が歪んで入るが許容範囲。おかしいとすれば・・
「鑑定」
指先に魔力を集め魔法を使う。鑑定はその名の通り今自分の持っているものが何かを
知ることができる。ただし特殊な魔道具、マジックアイテムや自分の知らないものは判別がつかない。
魔法の効果で金貨から様々な模様が飛び出す。金貨はその名の通り金でできている。
様々な基準で金貨は作られてはいるがこの国の基準であれば90%を超えているはずだ。しかし浮かび上がる模様から察するにどうやら60%程度の金しか使われていないようだ。一応他の金貨も試してみるが結果は同じだ。
通貨の偽造。紛れもない犯罪だ。もし意図的に行なっているのであれば死刑は免れないだろう。だがここで疑問が湧く。彼らはどうやって通貨の偽造を行なっているのか。以前から通貨の偽造というものは起きている。その度にイタチごっこをしているが、それは工芸ギルドのような職人のギルドのあぶれものが行うことだ。冒険者が通貨の偽造をやったという話を聞いたことがない。
「それだけじゃないぜ」
先輩がナイフを指の腹で回しながら楽しそうに話す。
「最近偽物のマジックアイテムを掴ませたりしてるらしい。しかもそれを疑った商人ギルドのやつが行方不明とか」
「黒ですか」
「うちの情報屋によると真っ黒だ」
手を大袈裟に広げ演説でもするかのように先輩ははしゃいでいる。
「姫も噛まれたらしいからカンカンだぜ」
「いつ行きます?」
「もちろん今すぐに」
「じゃあ早く準備してください」
「しゃっあ行くか!!」
そういうとベッドから飛び上がり先輩はナイフをホルダーへとしまっていく。
それを横目にこちらも小さめのポーチに必要最低限のものを入れ身支度を整える。
「それにしても冒険者が問題起こしてるのに冒険者ギルドが手を下さないんですかね」
「自分のとこで不祥事を起こしたのがバレたくないんだろ」
「そんなものですか」
ポーチを腰につけ最後にバックにつけられたホウキを手に取る。
「じゃあついてこい!!」
先輩のフード付きのコートがふわりと広がる。
バフっと音がなったと同時に窓から先輩が飛び出す。
相変わらずせっかちだ。
ホウキを床に置く。そして唱える。
「飛行:フライブルーム」
ホウキが浮かび上がる。それにまたがり先輩と同じように窓から飛び出る。
初速はゆっくりだが少しずつスピードを上げていく。
太陽が沈み暗闇の中で飛ぶのは難しいが少しずつ目が慣れ安定していく。
流石に目が慣れたとはいえ高速で飛ぶ先輩の後ろ姿を捉えるのは難しいが先輩は
風と一緒に飛ぶので凄まじい音をつれている。それを目標にしばらく飛ぶ。
ある程度飛ぶと向かい風が吹いてきた。先輩が止まれと警告をしている。
ホウキのスピードを下げゆっくり飛ぶと前に先輩の魔防具のコートの滲んだ光が見えた。側によって下を見ると平地にキャンプの光が見える。気づかれないように少しずつ高度を下げ地面に降りる。
「あれであってます?間違ったら今度は僕らがお尋ね者ですよ」
「これ見ろ」
そう言ってコートの中から取り出されたアイテムに目をやる。
丸い石が白く光っている。
「魔石の中に追跡石を混ぜておいた。これが光るってことは近くに対になる方があるってことだよ」
「それでどうするんですか?気づかれていない今なら魔法で先制攻撃できますよ」
「いや殺す前に尋問をする。適当な火力で弱らせられるか?」
「多分いけます」
「ならやれ」
緊張する。人に対して魔法を使ったことは何度もあるがイタズラレベルでしかない。
実際に人を怪我させる魔法を使うとなると手に汗が出てくる。目をつぶり深呼吸で心を落ち着かせる。焦ると正常に魔法が発動しない。
落ち着いた頃に目を開け冒険者パーティがいるであろうキャンプテントを見る。
保護魔法がいくつか掛かっている様だが危機を知らせるタイプの魔法と見える。
物理的な攻撃や魔法を防ぐほどの障壁はない。
指先をテントに向け意識を集中し唱える。
「雷電:サンダーボルト」
指先から電撃が走る。電撃は思った通り中の魔石に反応し真っ直ぐに空気を割く。
バンっと電撃がテントに当たった瞬間に大爆発が起きる。
「強すぎだよ!」
先輩がテントに向かい駆け出す。それを追いテントに向かう合間に爆発によって吹き飛ばされた人影が飛び出てくる。
近くに駆け寄り見てみるとテントは炎が踊り、人影は判別できないほどに黒焦げになってしまっていた。
気持ちの悪いやけた臭いがあたりに広がり吐きそうになる。
「お!こいつ息がある」
先輩が片足のない人影をこちらに引っ張ってくる。
驚きが顔に張り付いているが先ほど商談をした冒険者パーティのリーダーであることはわかった。
「てめえらこんなことしやがって!!ただじゃおかねえぞ!!」
泡を拭き身をよじりながらリーダーが喚く。
「それはこっちのセリフ。お前ら私たちをよくも騙したね。この後どうなるかわかるか?」
その言葉に気押されたのかリーダーは大人しくなる。
「頼む待ってくれ。俺たちはただ雇われただけなんだ。脅されてたんだ!!」
「あっそ、じゃあ誰に雇われたのか教えてくれたら助けてやるよ。」
「てい、ててい帝国の奴だ!金貨をやるからそれで色々買ってこいって!!魔石とか!武器とか!本当だ!脅されてたんだ!頼む殺さないでくれ!!」
「わかった。殺しはしない。風にはのせるけど」
「か?風?風に乗せるってどいういうことだ!」
簡素な鎧とはいえかなりの重量であろう男を先輩は片腕で持ち上げる。
「おっおまえその緑の目!!風の民か!!」
先輩のフードの中にある目をみた男が叫ぶ。
「てめらみたいなバケモンが人間様にこんなことしていいとでも「じゃあな。今後も異種族商会”ハッピーセット”をご贔屓に」
そう言って先輩が手を離すと男は闇夜の空へと風に乗って飛んでいく。
何か喚いていた様な気もするがすぐに聞こえなくなってしまった。
「じゃ帰るか」
男が飛んでいく様子を見届けた先輩の緑目は燃えている様な気がした。
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