石の都

蘭野 裕

彷徨

 砂丘を幾つ越えただろう。

 砂嵐に阻まれ、歩を進めるどころか前を向くこともできない。

 無理をかさね這いつくばって続けてきた旅もこれまでか……。


 仲間たちのある者は熱砂に斃れ、ある者はオアシスの滸の町に安住の地を見出し、またある者は賢明にも引き返した。しかし無事に何処かに辿り着いたかどうか知る由もない。

 地図を信じてここまで来たのは、この古びた羊皮紙を先祖代々受け継いできた直系の子孫である僕一人になってしまった。

 いや、信じていたというより、失ったものが大きすぎて後に引けなくなったのが正直なところだ。


 もしも両親が生きていたら。この地図が収められていた禁書の部屋が我が家の書庫ごと残っていたら……僕はいまごろ魔術学院の塔から遠魔鏡でこの砂漠を見渡し、この地図のことをちらりと思い出すだろう。そして家では子供か誰かに話すのだ。石の都があるんだよ。お前が大きくなったら地図を見せてやろう……と。

 斃れた彼は僕を知らずに何処かで長生きしただろう。


 そして僕もまた……。


 気がつくと、砂嵐はおさまり視界がはっきりとしている。

 死後の世界か? 

 いや、町だ! 家並みだ! 木陰だ!

 しかし色彩はない。

 動くものは僕のほかに見当たらない。


 これは……!

 僕の心が真っ二つに裂けて声にならない叫びを上げた。

 こんなものより水と食べ物と生きている人間の姿を見たかった! しかしこれこそ長年の夢、地図に記された古代の都市だ!


 敵に攻め落とされる直前に、都市の中心部にある全ての物が突如石化したのだという。王に仕える魔術師が最後の魔力を振り絞った石化魔法とも、兵器として利用するはずだった魔獣が暴走したとも言われている。

 これにより、征服者の統治下の街が全て消滅した後も、石の都は形を留めている。




(続く)

 


 





 


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