15話 決着と翌日

剣が交わり火花が散り、ちょっと焦げ臭いにおいがする。


「アハッ」


少なくとも現代人にあるまじき顔をしているだろう。それは相手も同じことだ。


「いい顔してんね」


彼も俺と同じ顔をしている。同類項ってやつだ。戦い方は違うが多分俺と彼の心の根底にあるのはおそらく同じだ。


戦うのが楽しい


これに尽きる。こんな風に思っているから俺はさっきからずっと防御なんて気にせず攻撃しまくってるし、逆にこいつも満面の笑みを浮かべながら俺の攻撃を防御している。とはいっても...


「防御ばっかして楽しいの?」


「楽しむために苦労をするタイプの人間なんでね」


「へぇ」


どうやら彼は俺の攻撃パターンを解析しているらしい。だけどいつ解析が終わるのか...俺はもう飽きちゃったよ。


「白石君、つまんないよ。もっと楽しい戦いをやろうよ」


「うるさい、なぁッ!」


刀ごと吹っ飛ばされて場外ギリギリに着地。この試合初めての白石くんからの攻撃だ。


「やる気になった?」


「そんなに攻撃してほしいならやってやるよ、マゾヒスト」


「え~どっちかっていうと俺はSよりなんだけどなぁ」


そこからはお察しの通り、お互い攻撃の嵐だ。俺の一撃のダメージよりも連撃を重視した戦い方とは違い、白石は俺の連撃をシールドしながら西洋剣で大きな攻撃を放つタイプ。


『おっと...ここで白石選手が攻めに出ます』


『間宮選手の攻撃を見い切ったのか。どちらにせよ、あのままだとジリ貧なのでいい考えだと思いますね』


白石が攻撃に転じたら俺が少しずつ押される形になっていった。さすが最初に俺のことを解析していただけはある。俺の攻撃をちゃんと見極めて防御し、なおかつ攻撃してくる。


「さすが勇者様」


「ぶっ殺してやんよ、魔王」


「前言撤回、この口の悪さは悪寄りだな」


戦いに気持ちがのっかっているのか、だんだん彼の口が悪くなっていく。しして気持ちが乗っかる分攻撃もさらに増す。


「あぁ、楽しいな」


「なんか言ったか?」


「なんでも」


いくらでも野蛮と言ってくれてもかまわない。やはり戦いは楽しい。人間の本能なのだろう。誰かに勝つ、誰かに負けない、自分の中に埋もれていた闘争本能がすぐそこまで迫っている。あと少し、あと少しでそれが俺の体の外に出そうになる。


「そのあと少しはお前なのか?」


「は?」


ギアを1段階上げ、剣速をスピードアップするとたちまち彼の体から血がにじむ。


『ここで白石選手が負傷しました』


『傷が浅いので戦闘には何ら問題はないと思います』



(白石勇人視点)


突然間宮のスピードが上がり、俺の体に傷ができた。


(右の二の腕、胸、戦闘には何ら支障はないな)


戦闘面では何の問題もない。ただ、俺に攻撃が当たった。それが問題だ。


「割と全力なんだけどな」


こっちはすでに全力を出しているのに彼はまだ全力を出していなかった。もし今から殻が全力を出し始めたら...


「やばいな」


そうやって脳が感じ取る。だけど不思議と絶望だったり、恐怖だったりは感じない。それが絶対に死なないステージ上に俺がいるからなのか、さっきからの戦いで脳からドーパミンが放出されているせいなのか、はたまたもともと俺がそういう人間だからなのかはわからないが好都合だ。


「ラウンド2」


そう唱えて間宮に突っ込む。というかそれしかやることがない。


「いいねぇ、最高だ」


(何が最高だよ、ふざけんな!こっちは最悪の気分だよ。)


だけど実際は俺も最高の気分だ。楽しい、楽しい、まだ続けたい、ずっと続けたい。がむしゃらに剣を振るう。


そこからはあまり覚えていない。おそらく無我夢中になりすぎていたんだと思う。


気づいたら俺はメディカル室にいた。





「知らない天井だ」


人生で一度は言ってみたいセリフであろうこのセリフを言ってみたが正直期待外れというかなんというか、ねぇ?


「知ってる天井だろうがよ」


そんな風に感傷に浸っている俺を邪魔してするのはさっきの試合で俺が負けた相手、間宮湊だ。


「ちょっとは感傷に浸らせてよ」


「やだね、これから表彰式があるのにそんなのんびりしていられるかよ」


「それもそうか」


時刻は午後2時を回っており、おそらくすでに表彰式の予定時間からはだいぶオーバーしているのだろう。


「じゃあ急ぐか」


「ああ、体の違和感とか大丈夫か?」


「大丈夫だ」


急いでステージのほうへ行くとすでに表彰式の準備は済んでいた。


それからは皆さん想像通りの表彰式を行い、記者会見を行いって、解散。さっきまで満員だった観客席もがらんとしている。


「寂しいな」


そう独り言をつぶやく。だが不思議と達成感があった。あと少しで間宮湊に勝てそうな気がする。そんな気が頭の中でずっと回っている。とはいっても間宮湊もこの大会が終わった翌日から訓練を再開し、次の試合にまた強くなってくるのだろう。


次の試合は1か月後。それまでに自分がどれくらい強くなれるのか、今からとても楽しみだ。



(間宮湊視点)


試合が終わり今日は日曜日。いやぁ、大切な用事が一つ終わると肩の荷が下りるというかなんというか心が楽になるね。そして今日は待ちに待った彼女とのデート!


え?昨日の大会の振り返りとかはって?


うーん...まあ明日やればいいだろ

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