3話 観戦と勧誘
「相変わらず人が多いね」
「エンターテインメントとしてやってかないと金が回らないんだろ」
東雲学園に大量の人が来ているわけだが、来校者のほとんどが今日行われる新人戦目当てに来ている。一部はダンジョン配信をやっている在校生を一目見るために来ているらしいが...
「いやはや、まわりからの視線が厳しいね」
「ごめんて」
新人戦を見に来る人たちは大会をよく見る人たちなので当然俺のアンチが多くいる。ネットとかだとあまり実感がわかないけどこうしてみるとやっぱり俺は嫌われていると実感できる。とはいえ俺は怪訝な目で見られることに興奮を覚えるマゾではないので威圧感を出して目線をそらさせるか。
「威圧感出てるぞ」
「わざと出してるんだよ」
「手段が荒いねぇ」
さっきまで睨んでいたアンチどもを委縮させた後、俺たちはあらかじめ予約しておいた予約席に行く。自由席も存在するのだがやはり予約席のほうが快適なのだ。
「この空気感好きだな」
「わかる」
俺は試合前のこの空気が好きだ。観客の期待と興奮、そして出場者の緊張、そのすべてが混ざり一つの渦のようになったこの空気が心地良い。大会に出る理由は人それぞれだろうが、俺が大会に出る理由の一つはこれだ。もう1つはただ戦うのが好きだから。やはり戦いにはその人間が積み上げてきたすべてが詰まっている。俺はそれに尊敬と羨望の意を示し、それ叩き潰す。
すこし話が流れたが俺はただ戦うという行動が好きなだけだ。だから今日俺はとても興奮している。一体どんな戦いが幕を開けるのか、だれが勝つのか、敗者は何を思うのか。それを見せてくれる出場者に拍手で敬意を示し今この瞬間始まろうとしている戦いに目を光らせる。
◆
「いけー!」
「がんばれー!」
大会が始まりあらかじめ行われた予選を勝ち抜いてきた強者を観客が応援する。まだそしてこの応援に応えるかのように戦いはさらに勢いを増していく。
「今年は豊作だね」
「不作の年のほうが珍しいだろ。とはいっても今年は桁違いだな」
大会を純粋に楽しむ来校者とは違い俺たちはあくまでも冒険者的な目線で大会を見る。だが冒険者的な目線でも今年の大会は興奮を隠せるものではなかった。なんせレベルが違いすぎる。出場者の情報を調べてみると、最年少でB級冒険者になった者、魔力の総量なら学園最高の者、有名冒険者の一番弟子などその他にも豪華なメンツがそろっているようだ。
「中でもあの碧眼の子が今年の1番だな」
「新人戦で複合魔法使う人間って今までいたのかな」
中でも碧眼の少女は目を見張るものがあった。金髪碧眼と見た目も然ることながら戦闘中の魔法の練度が他の追随を許さないほどすごかった。入学したての少女が複合魔法を使うなど普通は考えられない。だが彼女は現にそれをやって見せている。
「逆に言えば彼女の猛攻をさばいている子もすごいな」
「あいつ赤星家の次男らしいですよ」
「へー」
複合魔法の対処をやってのける赤星家の次男も素晴らしい。複合魔法を操る少女が目立ってしまっているが入学してしばらくしたら「あれ?もしかしてあいつのやってたことってすごかったんじゃ…」って感じになるタイプだろう。
「あ~、負けちゃったか」
「何分だった?」
「5分23秒。普通に言ってるけど恐ろしいな。」
「ああ、5分間複合魔法を打ち続けられる少女と5分間複合魔法を対処し続けた少年。多分どっちも化け物になるぞ」
「1年後の成長が楽しみだな。あっ、いま目が合った」
試合を終えた少女を見つめていたら彼女と目があった。そしてそのまま数秒間のフリーズ。なんか気まずいな。とりあえず笑顔で手を振ってごまかそう。
「え?」
「どうした湊?」
「複合魔法使ってた子と目が合ったから手を振ったんだけど、めちゃくちゃ嫌な顔された」
「はっはっは、新入生からも嫌われてやんの」
なんで嫌われているかはわからないが、俺のことが嫌い=俺と全力で戦ってくれるってことなので正直うれしい。やはりヒールムーブは戦いが大好きな戦闘狂にとって最適解なのでは?まあ人から嫌われるというデメリット付ではあるが…
◆
試合が終わった決闘場は閑散としている。まあそれが当たり前なわけで試合が終わって1時間もたっているのにまだ居座っている俺たちのほうが異常者なわけだがそんなことはどうでもいい。
俺たちがやっているのは今日あったことの復習、まあ平たく言うと今日の試合のログを見直している。そんなログの確認よりも実戦のほうが役に立つんじゃないかという意見もあるだろうが俺はそうは思わない。実戦よりも3人称視点で見れるログを見たほうが得られることが多いこともある。
そういうわけで今日の新人戦を見直しているわけだがやはり得られることが多い。よくも悪くも基本に忠実な戦い方をする彼らは俺たちにとって絶好の研究対象なのだ。さらには実戦をあまり経験したことのない彼らならではの秘策や奇抜な発想は俺たちにインスピレーションを与えてくれる。
「ここのこの動きは実戦で新しく取り入れられないか?」や「この動作俺もよくやっちゃうけどよく考えたら無駄だな」などともし自分だったらと置き換えて考えることはとても重要だと思う。実際、俺も子供のころからたくさんの大会を見てきたから今の強さがあると思っている。まあだからと言って動画を見るだけで戦えるようになるわけではないのだがな。
「いやー、やっぱ新人戦のログはいいね。見てて楽しいし面白い」
「俺もやってみたいことが結構出たわ」
「いいね。何なら今から実践する?」
「その言葉待ってた」
その後、新たに思いついた戦い方の実践に楽しくなりすぎて寮の門限を過ぎてしまったのは内緒だ。
◆
「じゃあ今年はこの子でいい?」
「いいんじゃない。この年で複合魔法を使えるだろ?」
「俺も賛成です」
翌日、生徒会室に集められた俺たちは昨日の結果を見ながら生徒会に勧誘する新入生を探していた。この学園の生徒会は他校とは少し異なり選挙では決めず、新人戦で活躍した生徒を既存の生徒会が勧誘する方式なのだ。かくいう俺も去年生徒会に勧誘された。勧誘するといっても基本的には公平に、つまり新人戦で1位から順に勧誘を行うのが伝統だ。例外もあるのだがそれもその生徒が何か特別だったりとしっかりした理由がなければ勧誘はできない。
生徒会に勧誘されるということは名誉なことであり生徒会は全生徒から羨望の眼差しを向けられる(俺を除いて)。生徒会に入ることで学校で融通を利かすこともある程度可能になったり、大学へ進学したり、将来どこかの冒険者ギルドに入社する際に大きなメリットにもなる。大抵の生徒は2つ返事で入ると答えるだろう。だが彼女の俺に対するヘイトは想像以上だったのかもしれない。
「間宮先輩が生徒会から抜けるのなら入ります」
開口一番にこう答えた碧眼の少女、安藤サクラの発言に生徒会のみんながポカンとしただろう。そんな中俺は心の中でこんなことを思っていた。
(この女面白れぇ)
と
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