2話 公務と新人戦

公務って言っても俺たちは未成年だから特にやることはない。でかいカメラを持ったマスコミに囲まれて神に向かって国家安泰を願うだけ。なんでも1000年以上前から続いている行事らしい。とはいっても現代っ子である俺たちからしたら国家安泰なんてよくわからないし、公務なんて学校を合法的に休めるという点でしか見ていない。





「今年の新緑祭はどうでしたか?」


「そうですね。清々しい青空の元、今年も無事に神様に対し祈りを捧げることができました。今年一年の皆様の安泰を心よりお祈りしています。」


と、イケメンな顔面を十分に活用してインタビューに臨んでいるクラスメイトを尻目に俺はそそくさと控えの部屋に帰る。クラスメイトはどいつもこいつも報道陣に囲まれている中、俺だけはいつも情報週刊誌のカメラマンに写真を撮られるだけ。こいつらどんだけ俺のこと嫌いなんだよ。


控えの部屋にて着替えをしていると取材を終えてきたクラスメイトがぞろぞろやって来る。大人たちはこれから懇談会があるらしいが俺たちはもう用事がないのでこれから飯を食いに行く予定だ。


「おつかれ、週刊誌に寄られ大変だね」


「マジで訴えれないかな」


と、着替えをしながら愚痴る。外にはまだ報道陣がいるはずなのでお互いマスクや伊達メガネで変装をしなければいけないのが面倒だ。


「ほんじゃあどこ行く?」


「ボウリング行かね?」


「賛成!」


華族の人間といっても所詮は高校生、堅苦しい行事よりも友達同士でわいわいやったほうが面白いのである。かく言う俺も公務の後の集まりを楽しみにしていた。報道陣がいない裏口からそそくさと出ていき、俺たちは都会の人波に消えていった。





「何してるの?」


「インスタに上げる用の写真を加工してる」


ボウリングを遊び終え、某格安イタリアン料理店にいる俺たちは料理が届くまで各々自由にしている。複数人で集まってゲームのガチャを回しているものもいれば、インスタに上げる写真を選んだり加工したりしている人もいる。ちなみに俺は掲示板に今日あったことを書き込んでいる。




235:名無し

新緑祭にイッチこと間宮湊がいてワロタ


236:名無し

新緑祭って一般公開してたっけ?


237:名無し

テレビに若干映ってた


238:イッチ

ただいま~。新緑祭大変だったわ


239:名無し

おけーり、新緑祭ってそんな大変なんか?


240:イッチ

2時間ずっと座りっぱだからな。普通に腰とかがきつくなる


241:名無し

ひぇ~。40のワイには想像したくないなぁ


242:名無し

で、イッチは今なしてるんや?


243:イッチ

>241 俺の叔父がちょっと前、新緑祭で腰やってた


>242 友達と某格安イタリアンレストランにいる。


244;名無し

青春やなぁ。おじさんなんて今はもう一人暗い部屋でカップラーメンや


245:名無し

うっ、心が...


246:名無し

休み時間はずっとうつ伏せで寝たふりの生活、ワイらの灰の青春はそんなもんや


247:名無し

なんか重たいな


248:名無し

みんなの心にクリティカルヒットしたんやろ


249:イッチ

それよりも>124 の話や。しっかり脱ニートと彼女ができるように頼んどいたからな


250:124

>249 マジで?ありがとう


251:名無し

最後に明るい話が来てよかった


252:名無し


253:名無し

脱ニートの手伝いをさせられる神様ェ



注文したマルゲリータを頬張りながらクラスメイトの愚痴を聞いたり、逆に俺がみんなに愚痴を話したり、今度は恋愛話になったりと結局のところ俺たちはただの高校生なのである。ただ少し身分が高いけどね。





新緑祭が終わると俺たちは日常に戻る。他の学生と変わらない普通の生活。唯一違うとところがあるとするならば戦闘訓練が必修なことぐらいだろうか。



「戦闘訓練嫌い~」


「わかる。ゴーレム弱すぎるよね」


「もっと強いゴーレムと戦いたい」


なんてバーサーカーみたいなことを言いながら適当にゴーレムをいじめてるとバキッという音とともにゴーレムが動かなくなった。


「やっべ、また壊した」


「また~?綾人―」


「はいはい、直すよ」



この授業は俺が一番苦手だ。理由は簡単でゴーレムが弱すぎるからだ。弱すぎて普段は手加減をしているのだがあまりにも見え透いた手加減をやってしまうと成績に影響されてしまうのでぎりぎりを見誤るとさぼりとして成績を落とされるか、備品を壊して成績を落とされるかの2択なのでどちらにしても困る。


「いい加減もっと強いゴーレムほしいよね」


「このゴーレムが市販だと最強だから無理だよ」


「誰かこれより強いゴーレム作ってくれないかな~」


「魔法工学部に頼んだら?」


「俺嫌われてるから無理」


「そういやそうだった。ていうかなんでそんな嫌われてるの?」


「魔法工学部ってオタクが多いじゃん。そんでそいつらが推していた冒険者を去年ちょっとボコボコにしちゃって...」


「あぁー、なら仕方ないか」


「お前嫌われてるもんなぁ」



とまあ学校のほとんどの生徒から嫌われているわけである。だけどまあ、特権階級が集まるA組と他少数は俺のことを普通の学生と認識してくれるから別に問題ないと思っている。というか生徒のほとんどが俺というより特権階級の1部を嫌っているような気がする。みんなそんなに華族のことが嫌いなのかな?まあ自分よりも身分が高い人間が好き勝手に大会を荒らしていたらそんな風になるのも当然か。




「ところで明日の新人戦見に行く?」


「もちろん」


「活きがいい新入生はいるかな」


そう、明日は新しくこの学園に入学した新入生による新人戦が行われる。ちなみに俺は去年その新人戦で無双していろんな人に嫌われた。そういえば俺が生徒から嫌われている理由これだわ。


とまあそんなことはさておき新人戦はこの学園を代表する注目する一大イベントである。在学生や教師は新入生の品定めをし、新入生は生徒会への勧誘などを期待して新人戦で活躍しようと躍起になる。毎年、豊作の年があれば、当然不作の年もある。だがそんなことは俺にとって些細なことなのだ


「どんな奴がいるのか楽しみだね」


豊作ならば当然盛り上がるし、不作だとしても誰が伸びしろがあるかを吟味できる。どちらにせよ、面白いものが大好きな俺にとって明日は最高の一日なのだ。

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