第88話 モフリスト



 イベントは無事に終わり、教会に避難していた住人達を家に送り届け、悪魔達により家を壊された住人はそのまま教会に残っていた。

 壊れた家は生産職のプレイヤー達が総動員で修復をしていた。


 俺達は1度ユーキングのクランハウスに行き休んでいる。



「今回は被害が少なそうだな。前にも何個か村を守るイベントあったけどその時は悲惨だったからな」

「そうだね…住人さんから恨まれてたしね…」


 俺達2陣が来る前にユーキング達初回購入者のプレイヤーは1度防衛イベントを経験していた。

 ユーキングとサクヤは以前のイベントの事を思い出し悲しそうにしていたが


「まぁあれは仕方ないでござるよ!レベルも低かったし統率も取れてなかったからあんな結果になったでござるけど、今回は無事に守れたから気にしないでいいでござる!」

「そうそう、ミドちゃんの言うとおり!あっ、結果が発表されたみたいだよ。運営からメールが来てる」



『防衛イベントの発表を致します。


 聖都

 街の被害率.......23%

 住人負傷者.......17名

 住人死亡者.......0名


 王都

 街の被害率.......39%

 住人負傷者.......39名

 住人死亡者.......6名


 聖都MVP.......パーティ『ユーキングと愉快な仲間たち』6名

 王都MVP.......パーティ『秋月ちゃん親衛隊』6名


 貢献度により報酬が変わります。

 参加したプレイヤー全員に報酬を後日贈ります。


 今後も FreeLifeOnline をお楽しみ下さい。』



「ユーキさん…なにこのパーティ名?」

「さすがにこれは酷いでござるよ…」

「ないわぁ〜センスの塊もないわぁ〜」

「ぼ…僕はいいと思いますよ!ねぇ!クーガさん!」

「えっ?!いきなり俺に聞く?!俺は別に気にしないからいいけど」

「仕方ないだろ!臨時パーティなんだからなんでもいいじゃんよ!」


 イベント中にパーティを組んでいた全員からユーキングはバッシングを受けていた。


「なんでも良いけどこうやって晒されたら恥ずかしいよ!ユーキさんのバカ!」

「シウ太くん助けてよぉ〜」


 ユーキングはソファでくつろいでいる俺に助けを求めたが


「え?自業自得だろ?ざまぁ!」


 笑いながら俺は答えるがサクヤが今度は俺に食いついた


「そんなことより…おにぃ…ナンデチコクシタノ…」


 サクヤの表情が無になり背後には見えてはいけない黒いオーラが現れている気がしている俺。

 俺は笑っていたのだがサクヤの発言によって笑顔が固まってしまった。


(これはガチでおこですやん…キュリアさん?姫様?クロリア?誰でもいいから助けてくれないかな?)


 念話で3人に話しかけるが


(マスターが全面的に悪いのです。自業自得なのです!ざまぁなのです!!)

(主の先程のセリフがブーメランで戻ってきたのじゃ!ご愁傷様なのじゃ!)

(私は...知らないから...助けようにも...無理)

(くそ!誰も俺の味方が居ない!)


 俺はサクヤの視線に怯えながら説明を始めた。


「我が愛しの妹よ…私が修行をしていたのは説明しただろ?魔力構築を覚えるまで出られなかったんだよ…でも必死になって頑張って覚えたんだ!そこは褒めてくれ!」


 ドヤ顔で俺は言うが


「それは確かに凄いことだと思うよ?まぁ修行してたのは知ってるから遅刻はアイス1個て手を打つとして…その…クロイヨロイノヒトハダレナノ?」


(今度はクロリアについてかよ!くっ!どーせお前らは助けてくれねーんだ!てかなんでクロリアは俺の所に現れたんだ?東の森から出られるのか?…)

「サクヤさんや、俺もぶっちゃけわかんねーんだわ。なぁクロリア、東の森から出られるのか?」


 クロリアに俺は問うと


『我が主…それについては後で説明する...まずは...あんなに私と愛し合った戦いについて語り合うのが先...』

「まてまてまて!どゆこと?!サクヤさん椅子から勢いよく立ち上がらないで!そしてロッドを握り締めないでぇぇぇ!!なにか誤解だから!」

『...あの森で初めてあった時…我が主は私を見て悲鳴を上げながら散々攻撃してきたのに覚えてないんだ…その後も何度か我が主の元に駆けつけたのに…』


 俺は初めて東の森に行った時の事を思い出そうとしていた。


(東の森…叫びながら……何度も………確かに攻撃したけど...あれがこの現況の始まりなのか…)

「頭を投げられた時がこの地獄の始まりかよ…」

『...その通り』

「でもあの時は普通の彷徨う鎧だったよな?なんであの鎧が普通に話せるようにになってるの?」

「それはなかなか興味深い話でござるな。オイラたちも気になるでござるよ。モンスターが人になるのは人化のスキルがあるでござるが…話せるとしても上位のモンスターぐらいしか居ないはずでござるよ。クロリア殿はそれとは違うでござるよね?」


 サクヤは驚き、ミドリムシはクロリアがどうして魔人になれたのか気になっていた。


『...我が主が東の森からいなくなった後、べアルが来た…そして願いを叶えたいなら黒い結晶を食えって言われたから...食べた。そうしたら魔人になった...でも...この姿になってからはベアルの元で動かないと消すと言われた...だから...我が主の元になかなか行けなかった…』

「黒い結晶…それはプレイヤー…人にも使える代物なのでござるか?」

『...使える。我が主と同じ旅人がベアルの元に来てから何人か魔人になったから...この前の…名前...トルなんちゃらも魔人になったから...』


「シウと同じような感じか…種族変更…もしくは進化アイテムなんだな。魔族に変わったんだろうな」

 ユーキングは俺が妖狐に変わった時の話を思い出し、トルギス…PK達が魔族の魔人に変わったと判断した。


 「そのようでござるな…今後オイラは王都の先にある人と魔族が共存する街、ラスヴェートに行って情報を集めてくるでござる」

 「ミドちゃん1人じゃ寂しいだろうから私もついて行ってあげるね!嬉しいでしょ?うりうり」


 蒼紫は今後もミドリムシと共に行動をする事にした。


 「ミドさん助かります…俺たちは各メンバーのレベル上げを重点的にすっか!ダンジョンアタックもそろそろしないとな!シウはどーすんだ?王都の方にも行ってみるのか?」

 「んー特に何も決めてないけど…転移石の素材も集めないといけないし…」


 転移石の素材をまだひとつしか手に入れてない俺は途方に暮れていたのだが


 「ギルドのクエとかちゃんと見てんのか?もしかしたらそこで手に入るかも知れねーぞ?」

 「はぁ?!そーなの?!早速後で確認してこよ…」

 「それよりおにぃ!秋月さんがおにぃに会いたがってたよ?」

 「ん?秋月?だれそれ?ユーキえもん知ってる?」


 俺がギルドに行くと決めた時、サクヤが1人の名前を出してきたのだがその名前の人物のことを知らなかった。


 「あー、リアルネーム出すの本当はダメなんだけど…秋月言ってもわかんねーよな。秋奈だよ、あのおバカの」

 「…そっか…アイツも初回購入したんだったよな…俺だけ外れた初回購入に…」


 ユーキングと秋月は俺の友人であり、見事初回購入出来た友人でもあった。


 「アプリ入れてるなら名前出てるだろ?後で連絡ぐらいしてやれよ?あいつのことだから自分から連絡出来ないだろうし」

 「後でな、とりあえず今日は疲れたからゆっくりしたいわ…あっ、キュリア。ちょいとブラッシング頼むわ」


 防衛イベントでの戦闘で俺の3本の尻尾はボサボサになっており、普段から俺のブラッシングをしているキュリアに頼むと


 「おにぃ!私もブラッシングしたいです!てかやらせろ!そしてモフらせろ!」

 「はいはいはい!私もやりたいです!ガッツリとモフるためにブラッシングを精魂込めてやらせてもらいます!」


 サクヤと蒼紫は勢いよく俺の尻尾に近づく。


 「でもブラシは1本しかな……い?あれ?なんか増えてる?」


 アイテムボックスからブラシを取り出そうとすると、なぜかそこには上等なブラシが3つに増えていた。

 確認してみるとブラシの説明に


『尻尾が3本になったから私からのプレゼント!シウくんの大事な大事な尻尾を均等に綺麗にするためのブラシを差し上げます!だからまた今度あった時は堪能させてね!!!byディーネ』


 「どこで見てんだよ!監視カメラでも設置してんのか?!」


 3つのブラシを手元に出すと、サクヤと蒼紫は素早く俺の手からブラシを奪い取り、各々俺の尻尾を優しく丁寧にブラッシングし始めた。


 「あっ…優しくお願いね?敏感になってるからね?あ…根元はダメ…あっ、ちょ…」

 「はふぅ…おにぃの尻尾…気持ちいい…」

 「これが…これが狐様の尻尾…凄くさらさら…そして…いい匂い!」


 サクヤは尻尾を撫でながらうっとりしており

 蒼紫は顔を尻尾に埋めて匂いを嗅いでいる。


 そんな光景をユーキングとミドリムシは


 「ミドさん…なんかシウが女子二人にやられてますが…」

 「けしからんでござる!オイラも混ざりたいでござるよ!」

 「そっち?!あんたもモフリストなのかよ!」


 ラードとストレクーガは他人のフリをしながらお茶を静かに飲んでいた。



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