第44話 狐さんと狐その②


 セーフティゾーンに現れた狐の傷を癒してあげた俺達は森に帰るよう促すが狐はローブを口に銜え引っ張ってきた。自分に着いてこいと言うように。


「女狐がマスターに何かを伝えようとしてるのです」

「女狐なんか言わないの…それよりなんだろうな?着いて行ったらいいのか?」

「キュイ!」


 狐はそうだ!と言うように鳴き歩き始めた。その後を俺達は着いていく。

 長の居るエリアでもなくツヴァイーナに向かう道でもなく俺の行ったことのない場所に向かいだした時だった。俺の目の前に画面が現れ…


『シークレットクエスト『この命尽きようと…』を開始します』


「え?いきなりクエスト発生?この狐がクエスト開始のトリガーなのか?しかも物騒な名前のクエストだな…選択肢もないって事は強制か」

「やることは1つなのです!前進あるのみなのです!」

「だよな。どんなクエストかわかんねーけどやるしかないな。っと、敵の反応だぜ、狐くん?狐ちゃん?は俺の傍から離れたらダメだからな」

「くぅぅぅ!そのセリフ羨ましいのですぅぅ!!」「キュキュイ!」

「えと…キュリア?俺を護ってくれな?キュリアを頼りにしてるからな?」


 俺はキュリアにも声をかけると。


「任せるのですぅぅぅ!!私がマスターの盾となり矛となるのですぅぅぅ!!」


 キュリアがやる気を出した時だった、1匹の黒い兎が現れた。


 ウサギモドキ Lv20


「兎なのにもどきってなんやねん!普通の黒い兎ですやん!」

「天誅なのですぅぅ!」

「なに1人で先走ってんだよ!パワーアップ、ディフェンスアップ!」


 キュリアにバフを掛けると魔弓を手に持ち魔力を込める。

 槍を素早く構え黒兎に突きを放つが黒兎はジャンプして躱す。既に黒兎を鷹の目でロックオンしており目で追っていた。

 着地寸前で矢を放つ。


「付加火…パワーショット!」


 着地と同時に黒兎に矢が刺さるがHPはまだ残っている。


「影縫い!キュリアトドメを差せ!」

「かしこまりなのです!乱れ突き!!」


 素早い突きの四連撃をくらい黒兎は倒れる。光とならずに黒兎は黒い靄を出して姿を変えていた。


「なんだこの靄は?てか兎…じゃない?」

「なんなのです?このモンスターは…」


 黒兎だったモンスターは靄が晴れるとそこに倒れていたのは狸であった。


「キュイキュイ!キュキュキュイ!」


 狐は何かを伝えようとしているが

「なんて言ってるのかわかんねーよ…でもなんで兎が狸に?ん?狸が兎になってたのか。化け狸…っ!右から新手!クイックショット!」


 気配察知のレベルが上がっている事によりマップを見なくても最近ではわかるようになっている俺は右方向から来る気配を感じ取り素早くアーツを出す。

 命中はするがダメージはそこまで与えていなく俺達の視界に入ったのは黒兎ではなく


 ウルフモドキ Lv20


 黒い狼が現れたのである。

 矢を受けたことによりこっちにヘイトが向いており、俺目掛けて突進をしてきたが、素早く魔弓からダガーに変え黒狼の額に刺し込む。これでも死ぬことはなく、キュリアが黒狼の横腹に槍を刺してやっと光になって行った。


「兎の次は狼かよ。倒すと狸に変わる…こんなモンスター今まで居なかったのになんでだ?イベントだからか?」

「森のモンスターより体力があるのです!攻撃が当たると多分痛いのです!」

「だろうな、レベルも高くなってる。この狐も化け狸に攻撃されたんだろうな」

「キュイ…」


 狐を先頭に2人は歩いていた。黒兎に黒狼の襲撃を何度か受けたが死に戻りすることは無かった。しかし兎や狼だけではなく、鳥にまで化けて現れた時はさすがの俺も焦っていた。

 いきなり空からの突撃を受け、不意をつかれたことによって3分の1のダメージを受けたのだ。

 しばらく歩いていると1つの洞窟らしき所で狐は止まった。

 俺達の方に振り返りひと鳴きする。


「キュイ!」

「ここに案内したかったのか?西の森にこんな所があったのかよ…」

「初めてなのです!ワクワクするのです!」

「キュイキュイ!」


 狐は再び歩きだし洞窟の中に入っていった。

 洞窟の中は苔がほのかに光っており暗くなかった。一応だがその光る苔を1つ取り鑑定してみた。


 ヒカリゴケ レア度4

 光を放つ苔。


「そのままだな…まぁ取れるって事は採取可能なアイテムだな。少しだけ取っていくか…」

「本当に少しだけなのですよ?直ぐに行くのですよ?わかってます?」

「………はい」

「キュイ〜……」


 狐は何故か呆れたような声を出していた。

 ある程度進むと広い空間にたどり着いた。

 しかしその空間の中には巨大な狐が1匹眠っていた。すると突然、声をかけられた。


『人間が何用じゃ…妾を殺しに来た化け狸が人間になって来おったか…?』

「狐が喋った?!」「マスターも狐なのです!」


 すると共に来た狐が走り出し大きな狐の前に行き鳴き声をあげた。


「キュ!キュキュキュイ!!キュイー!」

『ほう…この子をお主らが助けてくれたのか…ならば化け狸ではないのだな…済まないな人間よ…』

「あー…誤解が解けて何よりですわ」

『化け狸共にこの子を襲われそうになってな…くっ…御礼をしたいのは山々なのだが…この体では何も出来ぬ故…申し訳ない…』

「この体って言われても…特に外傷は無いように見えるんだけど…」

『お主ら人間は鑑定ができるのじゃろ?して見ればわかるさ…』


 大きな狐に言われて鑑定をしてみると


 ??? Lv???(呪い)


(名前もレベルもわからないとかあるんだな…それより呪いの状態異常になってるのか…)

(苦しそうなのです…)

「見たけど…呪いをかけられてるのか?」

『その通りだ…この子の身代わりでこのざまよ…笑うが良い人間よ…』

「いやいや、笑えなんかしないっしょ。この子を守ったんだろ?なら笑える所なんかあるわけないだろよ!」

「そうなのです!助けることはいいことなのです!マスター!その呪いを私たちで治しましょう!」

「だな!とりあえず師匠の所にいくぞ!呪いを解くアイテムとか作れるかも知れないからな!俺たちが何とかするから待ってろ!行くぞキュリア!」

「はいなのです!!」


 俺達は直ぐに来た道を引き返し街へと走り出して言った。


『我が子よ…良き人間に出会ったのだな…しかし…この呪いは物では治らぬのよ…』

「キューン…」



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