異世界でチート無双! いやいや神の使いのミスによる、僕の相棒もふもふの成長物語

ありぽん

1.後悔先に立たず

 私の人生はいったい何だったのか。最愛の人に巡り合い、可愛い子供達にも恵まれて。大切な家族が苦労しないようにと、必死に働いて来た。そのおかげで、そこそこの地位に着くことができ、お金には困る事はなかった。


 だが……。何処でおかしくなってしまったのか。ある日仕事から帰ってくると、家には誰もおらず、机には実家に帰りますと、ひと言書かれている紙が置いてあり。

 それからはすぐだった。話し合いの場が持たれ、妻と子供達の気持ちを聞いた時の私と言ったら。


 妻は私が変わってしまったと。確かにお金には困らない生活をさせてもらった。でもそれだけになってしまったと。家族としては、私のことを家族と思えなくなってしまったと。


 また、仕事ばかりで、子供の世話や行事には一切参加せず。誕生日にも約束していたのに、その日は仕事は入れないでと頼んでいたのに、無理やり仕事を見つけてきて、その約束さえ守ってもらえず。


 妻自身の事で、その日に無理やり仕事を入れ、約束を守らないのは構わなかった。でも子供達のことで、どれだけ約束を破られてきたか。そしてそのことで子供達がどれだけ悲しい思いをしてきたか。


 それ以外にも色々と言われたが。その時の私が思ったこと。それは最初に言った通り、家族のために働いてきたんだぞ。そんなくだらない行事が何だと言うんだ? だった。

 どれだけ私が家族のために働いてきたか。毎日残業は当たり前で、土曜、日曜も会社に行かなくとも家で仕事をし。それのおかげで昇進して、さらに楽な思いをさせてやったんだぞと。


 妻の話に頭に来た私は、妻のことを怒鳴っていた。そしてこんな私の苦労を蔑ろにする者とはやっていないと、そのまま離婚届に判を押すことに。


 勿論、判を押す前に、子供達達の気持ちを聞いた。どちらに着いて行くかだ。この時私は、何の疑いもなく、子供達は私に着いてくると思っていた。

 寂しいからと、同じ家にいると言うだけで家族と思えないなどと、妻のようにふざけたことを言わずに。子供達は私が家族のために働いていると、しっかりと理解してくれているものだと。


 が、私の考えは間違っていた。子供達は妻について行く、そして私のことを父親だとは思えないと言ったのだ。父親らしいこと、お金以外にしてくれたのかと。それを聞き、さっさと判を押した私。


 そうして家族を残し部屋を後にしようとした時、上の子が私に尋ねてきた。『最後に自分達の顔を見たのは何ヶ月、何年前だ?』と。


 何を言っているんだ? そう思いながら何も答えず部屋を出て、私は自分のお金で建てた家へと帰えり。こうして私は1人なった。


 それからは更に仕事に打ち込んだ。そうして定年を迎え、それからはゆっくり、残りの人生を送っていたのだが。


 その頃になって、私はようやくあることに気づいた。私の周りには、親しい人間が1人もいないという事に。もちろん仕事関係で、老後も付き合いのある人間はいた。


 だがそういう人間ではなく、今までの人生を振り返り、楽しい事、苦しい事、幸せだった事。そう言ったプライベートのことを話せる、とても大切な存在という意味での人間が。私の周りにはいなかったのだ。


 ただただ1人で家にいるだけで、たいしてやる事もなく。食事も1人なのだから当たり前に、少しの量を無言で食べ。寝るまではテレビを見て過ごす。1日のうち、笑うことがどれだけあったか。


 そうして更に歳をとったある日、近所の家族の姿が目に入り。息子夫婦が戻ってきて一緒に暮らし始めたとは聞いていたのだが。その姿を眺めていると、急に寂しさが込み上げてきた。

 皆の笑顔。ただそれだけなのに、本当に幸せそうに見えたのだ。それに比べて私は? 1人には大きな家に、誰とも話す事はなく、笑う事もない毎日を過ごしていて。


 この時になって、離婚時の家族のことを思い出した。妻のとても寂しそうな顔と、息子達の無表情。そして息子の最後の言葉。『最後に自分達の顔を見たのは何ヶ月、何年前だ?』という言葉を。


 そして改めてあの頃の事を思い出せば。私は残業や出張で、なかなか子供の顔を見られていなかったのは確かだった。しかしそれでも、長くて1週間程度だと思っていたのだ。だが現実は……。


 あの離婚の時までに、どれだけ子供達の顔を見ていなかった? 1ヶ月? 2ヶ月? いやそんなものではない。今では思い出せないほど息子達の顔を見ていなかったのだ。

 そして仕事だと、家族のことを全て妻に押し付けていたことにも、今更ながらに気づかされ。


 離婚してから家族はどうしていただろう? 養育費を支払い終わってからは、完璧に関係を絶ってしまい。今では家族がどうしているのか知るよしもなく。


 どれだけ家族に寂しい思いをさせていたのか、苦労をかけていたのか。確かにお金については困らせる事はなかったが……。


 それから残りの人生は後悔の日々だった。もっと家族のことを考えていれば。どんなにお金が大切でも、家族以上に大切なものはなかったのに。何て私は馬鹿なんだ。


 そうして今私は、冷たい床の上に倒れ寿命を迎えた。独り身の私に、誰かが気づいてくれるのはいつになることか。孤独に死んでいく私。家族を蔑ろにした私には、お似合いの死に方か。


 死んだ後、私はどうなるのか。もしあの世というものがあり、いつかそこで妻や子供達と会うことができたになら。許してもらえなくていい、それでも誠心誠意謝ろう。


 そして人は何度でも生まれ変わると言うが、本当に生まれ変わることができるのなら、次の人生では、本当の意味で家族のために生きよう。


 どんどん意識が朦朧としてくる。そうして最後には完全に意識が途絶え。こうして私は、人生の終わりを迎えた。

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