ありがちな群像劇【超短編集】

百田 万夜子

第1話 夏色

お題 ①プリーツスカート ②プロテスタントソング ③プールサイド


夏。ミンミン、ジージーとうるさいくらいのセミの鳴き声。セミの鳴き声って、聞いてるだけで暑さ倍増する。

「よーし。もう一本!」

「はい!」

私は、水泳部だ。顧問の掛け声で、プールに入り、思い切りプールの壁を蹴った。

「ぷはあっ」

反対側まで泳ぎきると、気持ち良い。顔を上げると、プールサイドからマネージャーの後輩がこっちを見ていた。一年年下で、ショートカットがとっても似合う可愛い子。先輩先輩って、よく声を掛けてくれるから結構可愛い。私は、顧問にバレないように小さく手を振った。その子も小さく手を振り返してくれた。


部活が終わって、更衣室で着替える。プリーツスカートのチャックを上げたところで「先輩」と明るい声がした。

振り向くと、例のマネージャーの子だった。

「これどうぞ!」と言って、麦茶のペットボトルを渡してくれた。冷たい。

「ありがとさん!」と笑うと、この子も嬉しそうに笑う。可愛い。

「先輩、一緒に帰りましょ」

「うん!」

帰り道。まだまだ陽が照っていて熱い。部活棟のほうから、聞いた事ある曲が聞こえる。軽音部だろうな。

「先輩、この曲ってなんでしたっけ? 知ってます?」

「うーん」と、ちょっと考える。

思い出した!

「○○ってアーティストの△△△って歌! プロテスタントソングっていうやつ。世の中への不満とか不条理なんかを抗議する歌ね」

「わあ! 流石、先輩。物知り!」

にこっとして、拍手する後輩。うん。本当に可愛い子だ。

「そういう抗議も世の中、大事なんだろうけど。ネット社会じゃ、すぐ叩かれますからねえ。非難されそうなことを歌で代弁してくれるのって、なんかありがたいですね」とか何とか言っている。

「そうだねえ」

少し吹いた風が、私たちのプリーツスカートの裾を揺らした。

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