2011年03月10日木曜 「自らを高めよ」という、彼らの「預言」。――多分だけど真面目に受け取ったほうがいいと思うよ生き残りたいなら。
編集者という仕事柄、さまざまな人と会う。今日はその話を。
メインの話題が終わった頃、私はよくこう尋ねる。
「今後日本人は、どう生きたらいいでしょうか」
――こう訊くのは、もう私の趣味のようなものだ。というのも、各人の返答が、どれもこれも極めて興味深いからだ。
取材相手の立場はバラバラ。「日本は改革を進めて経済成長しないと将来がない」という主張の経済評論家もいれば、「日本は周辺の他国と調和して東アジア共同体を構築すべき」と語る左翼の教授とか。
ところが面白いことに、私の質問への答えは、立場は異なれどけっこう似た方向に集約されていく。言ってみれば、神からシャーマンに下されて民へと伝えられる「預言」のようなもの。
簡潔にまとめると、「今後の個々人は、自ら付加価値を高めるべき。そうしたほうがいい」という意見が多い(もちろん全然違うことを話す方もいる)。
つまり、「上を向いて口を開け、文句言ってれば誰かが餌をくれた時代はすでに終わっている」ということらしい。雛よ巣立て! というわけだ。
世界の企業で起こり日本も例外でないことだが、ネットやITを駆使したグローバル化で、市場も生産場所も、スタッフ部門でさえ世界中。当然だがそれぞれの場所で働く人を雇うことになる。
そもそも法人税率が高い日本に、松下だろうとトヨタだろうと、20年後も本社を置いているかはわからない。本社はシンガポールにでも置いて、日本にローカルな法人など置いておけばいいだけの話だ。
現政府は5%ほど減らす方向だがこの程度ではまだ他国より高く、しかも課税ベースを拡げようとしている。つまり単に帳尻合わせして批判をかわしている弥縫策なだけで、「国民を豊かにするために企業を育成しよう」という理念から来ている政策ではない。
現在国家破綻寸前のアイルランドは消費税(付加価値税)を23%程度まで引き上げて国を立て直そうとしているが、法人税は据え置きだ。そうしないと企業が逃げていき、結果的に国民がどんどん不幸になってしまうからだ。
そこには資本家vs労働者というお花畑の幻想が入る余地はない。国民生き残りのために死ぬ気で出した結論がこれなのだ。
破綻寸前国家でさえそうなのに日本が法人税率高いままで済んでいるのは、経済規模がまだ大きいので「日本市場が大事な企業は逃げない」と行政が思い上がっているからだ。
消費税にしても5%から15%に上げるだけでも政治的には困難そうだ。韓国でIMFが入ってから改革が進んだのと対照的だね。まあ国民に危機感がないってことだろうけど。いいのそれで本当に?
でもそれはいつまでも続かないだろう。いや続くかもしれないが、彼らは「続かない事態を想定しろ」と語る。
なんたって国レベルで言えば、人口減社会で働く人が減り、内需も衰えてくる。当然所得税、法人税とも税率が同じでも徴税総額は減る方向だ。日本は、もはや「無い袖は振れない」時代の寸前なのだ。企業がいつ逃げ出しても不思議ではない。
だからこそ個々人は、生き残りのため、切磋琢磨して自分の市場価値を高めないと危険という意味なのだ。勉強して知識やノウハウを身に付けたり、経験を積み重ねある分野で「余人をもって代え難い」人材になったり。
私には、それが避けがたいことなのかはわからない。彼らも別にその事態に対し善悪正否を語っているのではない。ただ「否応なく巻き込まれる、そうした時代に備えろ」と言っているのだ。
立場をまるっきり逆にする方々から、こうも同じトーンの意見を聞くのが興味深い。普段は弱者への思いやりを語る左翼の方ですら、「それはそれとして個々人はこう動いたほうがいい」とする。
彼らは、別に悲嘆すべき時代というわけではないと語る。
グローバル化で流動性が高まっているということは、逆に言えば、個々人も国や企業を選べる時代だ。
「日本企業は労働者の権利をないがしろにするブラック企業だ」と本当に信じるなら、将来性を信じる小さな外資の商社で働いてもいい。日本は将来飢餓社会になると思うなら、過疎地に飛び込んで営農するなり農業法人で働けばいい。5年損しても後で取り返せる。「借金漬けの日本に将来がない」と思うなら、ベトナムなりトルコなりの親日国に渡って現地コミュニティーに「避難所」を作っておけばいい。
もちろん「今現在この瞬間」の日本は、地域的・歴史的に見て「生命の危険が少ない」恵まれた地平だ。祖父の話を聴くだけで現代日本の素晴らしさがわかるし、海外に旅行した人なら、日本の安全性と良さはよくわかるはずだ。それが続くと信じるなら残ればいい。
どの道を選ぶのかは個人次第。自分が命懸けて得た情報に従って自己責任で道を選ぶだけ。返還前の香港人みたいなもんだ。
英国も中国も信じられず、安全のため子どもは国籍の取れるカナダやオーストラリアで産み、英語圏に食い込んで世界中にリスクを散らしていった彼らは、別段特別な存在ではない。世界的に見れば、「よくある話」「歴史上繰り返されてきた話」。日本だって開国から戦前にかけては似たようなものだ。
起こっていることを「どれだけ早く認識し、人より一歩でも先に取り組むか」で、後々大きな違いになるだろう。
私は彼らの話をまるまる信じているわけではない。でも危険に備える必要性は感じる。米国がグアムまで退く決断を下したらどうなるかもあるし。ありえない話じゃないじゃん鳩山さんも生き残ってるし、米国には伝統的にモンロー主義があるから。
そうした時代認識のもと、私は生き残りを賭けて楔を打ち続けている。基本的には「15年後には残念ながら日本にはいられない私」を想定し、人脈・生活・居住面で勉強・準備をしている。そうした最悪のタイムテーブルを仮設して動いている。幸い見込みが外れて日本がハッピーなら、それはそれでいいし。
団塊くらい「上がった」連中は別にして、二十歳くらいの子にはぜひ進言したいけどなあ。聞いてくれるんだろうか。
悪いことは言わないから、海外で口座開くのと、英単語(特に名詞)暗記くらいはしといたほうがいいよ(高卒なら生き残るのに必要な英会話くらいできるじゃん単語が出ないだけで)。
そうした努力は損にならないじゃん移住なんかなくても。
■注:その後アイルランドは経済がV字回復。人口500万人の小国なのに、GDPは2011年時点の倍以上の5600億ドル(日本は4兆ドル)。ここ10年間の平均GDP成長率は年間8.2%と驚異の数字。失業率は当時の15%が、現在たった4.8%だ。結果、EUでもっとも成功し、社会も安定した国家となっている。
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