第74話 魔導ホバークラフト
「これが魔石集積魔道具か。世紀の発明品だぜ。安価なら世の中がひっくりかえるな」
ドワーフ・ドワルゴとの初打ち合わせだ。
「将来的にはそうするつもりではいるんだけどね。俺たちが広めなくてもどこかの天才が発明するかもしれんし」
「天才か」
「これさ、女神様・イザナミ様・フレイヤが関わってるんだ。その3人に匹敵するような才能ってことだからな」
「確かに。で、これを使ってホバークラフトなるものを作りたいと」
「模型をもってきたよ。まあ、馬と車輪のない馬車だな」
「へへ、それって馬車って言うのか?」
「まあ、言わんな。でも、ホバークラフトって言ってもピンと来ないだろ?」
「うむ。全くこんな」
「で、この下から強い風魔法を吹かせる。それで推進するわけよ」
「ほお。なんという魔力の無駄遣いって感じだな。燃費悪そうだぜ」
「魔石集積魔道具前提の乗り物だよ」
「ちげーねえ。で、これを俺達が試作するわけか」
「ああ」
「まかせろ。ここまでお膳立てしてくるんなら、とりあえず1か月ってところだな」
「よし、じゃあ契約魔法書を作ろうか」
「よっしゃ」
契約魔法書はその名の通り、契約を魔法を介して行う。かなり厳重な契約書だ。
ホバークラフトは機密の塊であり、特に魔石集積魔道具は秘匿性が高い。ドワーフは自分の技術を漏らしたりすることはない。そこはドワーフの矜持である。しかし、以前作った食器類や宝石類とかとは影響力が違いすぎるので、魔法契約書を作成するに至ったのだ。
◇
「ダンジさん、ホバークラフト完成ですか!」
「凄すぎる!日本の技術を上回っていますね!」
本日はホバークラフトのお目見え会だ。
主だったものが北辰村に集まっている。
「ほえー、馬なし車輪なしの馬車っていうからなんかゲテモノを想像してたんだけど、こりゃ驚きだっペ」
「これ、燃料つまり魔石の補充が要らんのですか」
「そうだ。ほぼ永久回路になるぞ」
注 実際はダンジョンの外では魔素濃度が薄く、
充填速度はさほど速くない。
「おおお、こんなもん、下手に口に出せんだべな」
「詳細を知ってるのは俺達ダンジョン組と製作者のドワルゴはじめとするドワーフだけだ。しかも魔法契約書で口外できないようにしている」
「秘密の塊ってことですか」
「ああ。下手に内容を知ると、スパイがおまえらを拷問にかけるぞ」
「うえー、おっかねえ」
「でも、普通の馬車と比べてもずいぶんと大きいですね。マイクロバスぐらいはありそうですが」
「普通のバスなみでもよかったんだが、何しろ道路事情とかが良くないしな」
「ああ、方向転換とか大変そうですもんね」
「特に街中ではちょっとムリだな」
「で、試乗会なんですね。乗ってもいいですか?」
「ああ。1台しかないから順番にな」
◇
「乗り心地抜群!」
「ほんと。私、馬車って乗り心地最悪でお尻が痛くなるから好きじゃないんだけど、これ、日本の乗り物と比べても乗り心地いいわよね」
「しかも、速い」
「一応、制限速度は50kmにしてあるが、出そうと思えば100kmは楽勝だぞ」
「ひょっとして、水陸両用?」
「防水設備をつければ」
「オラ、こんなスピード、味わうのは初めてだ」
「景色があっという間に過ぎていくだ」
「オラ、怖くて目を開けられないべ」
「そっか?オラは楽しくてはしゃぎまくったぞ」
「オラもだ。興奮したべ」
「この乗り物な、技術的には農機具に生かされることになる」
「そうだべか?農機具が空中に浮くだべか?」
「いや、流石に空中には浮かんが、すんごい機械がでてくるぞ」
このあと、北辰村では各種農機具がリニューアルされていく。耕運機、草刈り機、肥料散布機、コンバイン、トラクターとかいった農機具だ。
ちなみに、トラクターは広い田畑を効率よく耕すことができる農業において欠かせない農機具である。
メインの作業はロータリーを付けた耕うんだが、作業機械(アタッチメント)を付け替えることであらゆる作業にも対応できる。代かき、整地、畝立て、マルチ張り、畦塗り、肥料や農薬の散布、草刈りなどが行えるのだ。
また、もともと「けん引車」の意味であるトラクターはトレーラーなどを取り付ければ運搬作業も行える。
コンバインは、米、小麦、大豆、トウモロコシなどの穀物の「刈り取り」「脱穀」「選別」の3つの作業が1台で行える農機具。
その他にも播種(はしゅ)、穀物乾燥、脱芒、籾摺、製粉、防除等あらゆる農機具がバージョンアップされていく。
さらに、ドローンも開発されて農薬や肥料まきが楽になった。ドローンに武器をつけて田畑を荒らす害獣やスパイ対策にも活用されるようになる。
これらの発明品は北辰村はもとより、この世界の交通や農業をはじめあらゆる分野に革命をもたらしていくことになる。
重ねていえば、ドワーフ村でのホップ研究所ではやがて酵母菌の研究が加わり、さらにはカビ全般、そして薬学全般、肥料全般の研究所となっていく。それらのもたらした影響力も凄まじいものがあるが、それらはもう少し後の話になる。
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