第54話 精霊たちはお菓子とお酒がお好き

 さて、お菓子といえば水の精霊さん。店の裏には果樹園があり、そこの中心に精霊の泉が水をたたえている。


「お菓子もってきたよー」


 ピューと集まってくる精霊さんたち。

 お菓子の回りをぐるぐる大変な勢いで回っている。


「ありがとう」

「ありがとう」

「ありがとう」


「今日はお友達もいるの」

「今日はお友達もいるの」

「今日はお友達もいるの」


「友達?」


「いい香りやんか。オラにも分けてケロ」


 草むらからゴソゴソと小人が出てきた。

 なんだか、癖のある喋り方をする。


「土の精霊さんです」

「土の精霊さんです」

「土の精霊さんです」


 身長15㎝程。

 随分と老人の姿をしている。

 赤い三角帽子をかぶり、豊かな髭が目立つ。


「はい、どうぞ」


 俺は追加の皿を出して土の精霊さんにもチョコレートケーキを渡す。


「おいら、ノームっていうケロ」


「名前があるんだ」


「私達にもあるわよ」

「私達にもあるわよ」

「私達にもあるわよ」


「私達はウンディーネ」

「私達はウンディーネ」

「私達はウンディーネ」


 水の精霊さんたちとは付き合いは半年以上だが、

 初めて名前を聞いた。


「名前というか、種族名じゃの」


 ふーむ。

 

「このダンジョン、植物が急速な成長を遂げるじゃろ?あれは半分はダンジョンの神秘じゃが、半分はこのノームが活躍してるのじゃ」


「ノームって1人しかいないのに?」


「無数におるのじゃ。でも、ノームは1人で全部、全部で1人、みんながつながっておる。そういう種族なのじゃ」


「よくわからんが、今ノームがケーキを食べているが、これはノーム全員が味わっているということか?」


「そういうことじゃの」



「クンクン、クンクン」


「なんじゃ、ノーム。何かダンジが気になるか?」


「酒の香りがするケロ」


「ああ、リンゴ酒がマジックバッグに入ってるんだ。飲む?」


「コクコク」


「はい、どうぞ」


「ゴクゴク。うおっ、美味すぎるケロ」


「ああ、そりゃ良かった」


「なあ。友達のドワーフに作り方教えてやってケロ」


「ドワーフ?いいぜ」


「ドワーフは精霊じゃが、男しかおらんのじゃ」


「じゃあ、どこから生まれてくるんだよ」


「ダンジョンの石から生まれるのじゃ」


「石から?」


「うむ。ちょっと変わった精霊での。鍛冶と酒が大好きなのじゃ。5階層のダンジョン協会の隣に鍛冶屋とエール屋を経営しておるぞ。一部はの、ダンジョンを飛び出して人間の街で活躍しておるのじゃ」


「へえ」


 ◇


「ハイホー、儂がドワーフのドワルゴじゃ。美味い酒を飲めるということで街から飛んできたのじゃ」


「ああ、土の精霊の言ってたドワーフね。ついでにウチで飯食べていったら?」


「おお、すまんの。しかし、まずは酒が飲みたい」


「そうか。じゃあ、色々あるんだけど、全部飲んでみる?」


「おお、話が早くて助かるぞ」


「はい、りんご酒と蒸留りんご酒。ワインとブランデー。ラム酒。チェリー酒」


「おおおお!なんじゃ、この蒸留酒とやらは!物凄い酒精ではないか!しかもじゃ、口当たりが良くてグビグビ行ってしまうぞ!」


「美味いか?」


「勿論じゃ!強いだけじゃないの!酒精の強さにまけない強烈で鮮烈な味があるの!」


「おお、それは良かった」


「うむ、是非とも作り方を教えてくれ!」


「蒸留酒自体は難しくないぞ。この機械で酒精をどんどん凝縮していくんだ」


「なんと」


 実際に自分でも動かしてみる。


「ほお……なんと簡単に酒精が凝縮されるものじゃ。このまま凝縮していくとどうなる?」


「蒸留を何度も繰り返すと、純粋な酒精になる。身も蓋もない味だぞ。それはそれで医療用に使うか、薄めて何かで味付けするかだな」


「ふーむ。なあ、蒸留酒ならば何でも蒸留できるわけか」


「ああ」


「ふふふ、頼む。オレは昔から色々な酒を作りたかった。チャレンジしたいんだ」


「うんうん、俺もそういう熱血漢を求めてたんだ。酒の種類をどんどん広めてくれ」


 ◇


 ドワルゴのもと、瞬く間に酒の種類が増えた。


 まずはエール。

 

「遠くの国の話じゃがの、エールに特有のハーブを合わせているという話を聞いたことがある。ホップとかいったの」


 この世界でのエールにはハーブが配合されていた。数種類のハーブを複雑に配合するのである。エールに風味を与え、保存性を確保するためだ。


 しかし、ハーブ配合は領主やギルドが独占販売権を持ち、秘密にされていた。だから、新しいハーブの登場が望まれていたのだ。


 そのホップをドワーフの知り合いの商人に探させ、種をいくつか手に入れた。



「エールがこれだけ美味いんだ。ホップの僅かな違いがすぐにエールに反映される。だから、どのホップがいいなんて決められない」


 ということで、エールだけでもホップが違うだけの多くのエールが生まれつつある。


 ホップは薬草でもある。

 種類が多く、「ホップ香」は、ホップの種類によって異なるが、シトラシー(柑橘のような香り)、フローラル(花のような香り)、スパイシー(香辛料のような香り)、グラッシー(青草のような香り)の香りがある。


 ただ、いずれにせよ香りは非常にフルーティ。そして、味にふくらみがある。飲んだ後も余韻に浸れる素晴らしいエールだ。



 次は、ウィスキー。


「ウィスキーとはエールの蒸留酒だ。俺が名付けた」


 これはエールのホップ投入前のものを使う。

 だから、ある程度は簡単なんだが、


「ウィスキーはな、熟成が大切なんだよ。まず、樽の選定。木のフレーバーが大事だ。それから、焦がした樽を使うともっと趣が出る。そのままだとキツすぎるから、一旦焦げを落ち着かせて使ったりな」


「ほお。そんなに繊細なのか。熟成はどの位?」


「数ヶ月から長いと50年100年に及ぶな」


「100年か!センチュリー酒となると、天界に献上するものだな」


「ドワルゴが進めているのはトウモロコシを主体に作る酒か」


「うむ。やっぱり、貧乏人の飲む酒が必要だ。しかし、手を抜く気はねえ。しっかりした酒を作るつもりだ」


「命名してやろう。それはバーボンだな」


「バーボン?気のせいか、甘みのある独特のフレーバーが浮かんでくるぞ」


「バーボン熟成に新品の焦がした樽を使用して、その樽をウィスキーに使うのもいい手だぞ」



 結局、ドワルゴは樽の選定に忙しく、蒸留酒はウィスキーとバーボンで手一杯だった。


「こんなに酒づくりが奥深いなんて思っていなかったぞ。なあ、助手を連れてきたいがかまわんか?」


「何人でもといいたいところだが、20人ぐらいまでなら大丈夫だぞ」


 こうして、10階層の一角にスピリットバレー

 が出来上がり、多くのドワーフが集うのであった。


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